白堊はくあ)” の例文
ただわずかに残って、今にそびえる天守閣の正しい均斉、その高欄こうらんをめぐらし、各層に屋根をつけた入母屋いりもや作りのいらか、その白堊はくあの城。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
中尉の記録中に、右手に墓場を眺めつつ進んでゆくとやがて左手に、白堊はくあの崇厳なる大殿堂がそびえ立っているという部分があります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
忘却の世界はひろいひろい沙漠の彼方に一塊の白堊はくあの塔になつた。無表情なその塔はもはや私に何事も話し掛けはしないだらう。
恢復期 (新字旧仮名) / 神西清(著)
人造島が、海洋の真ん中で、みごとに溶けて、白堊はくあの建物が、運命の方船として、波間にうかび上ってから、はや二月は経った。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
其の影はカツキリと長く流に映ツてゐた。兩岸の家や藏の白堊はくあは、片一方は薄暗く片一方はパツと輝いて、周圍ぐるりの山は大方雪をかぶツてゐた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
暗い雨空あまぞらを見あげると、天国の塔のように高いサンタマリア病院の白堊はくあビルがクッキリと暗闇にそびえたっているのが見えた。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白く塗られた白堊はくあがまだらになって木地を現わした収穫小屋、その後ろに半分隠れて屋根裏ともいえる低い二階を持った古風な石造りの母屋
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
広大な庭を持った白堊はくあの洋館には、長年の痛風症に悩む老子爵と、十八になる孫娘の志津子、それに執事の苅田かりた平吉と三名の召使めしつかいが住んでいた。
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
広東湾の白堊はくあの燈台に過去の燈は消えかけて、ハッピーバレーの嶮峻けんしゅんにかかった満月が年少の同志の死面を照りつけた。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
その翌十二月五日東南に向って平原を行くこと五里、すると岩山の下に金光燦爛きんこうさんらんたる御殿風の屋根が見えその横には白堊はくあの僧舎が沢山立ってある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
薄気味わるく月光を浴びた、垂直の白堊はくあ岩が見え始めて、それがだんだん近づいて来た。それはメエエン島だった。
療養所は駅の少し手前、美しい丘の中腹に、絵の様に拡がっている白堊はくあの建物だ。車を門内に入れて、受附けに来意をつげると、直様すぐさま院長室に通された。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
水の層はかなり深い地下に横たわっているが、既に二つの穿孔せんこうによって達せられていて、白堊はくあとジュラ系石灰岩との間にある緑の砂岩帯から供給される。
岐阜ぎふのゆるしを乞うて、すぐ修築にとりかかり、白堊はくあやぐら堅壁鉄門けんぺきてつもんは、もうこの春、でき上っていたのである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
濡れ仏のコチコチな白堊はくあのような聖者となって、二千米突附近の疾駆する雲の脚に蹴散らされていたであろう。
登山は冒険なり (新字新仮名) / 河東碧梧桐(著)
百尺岩頭燈台の白堊はくあ日にかがやいて漁舟の波のうちに隠見するもの三、四。これにかもめが飛んでいたと書けば都合よけれども飛魚とびうお一つ飛ばねば致し方もなし。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
或は白堊はくあを塗するあり、或は赤瓦を積むもあり、洋風あり、国風あり、或は半洋、或は局部に於て洋、或は全く洋風にして而して局部のみ国風を存するあり。
漫罵 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
大きな帽子をかむってその上をうつむいて歩くなら、影法師は黒く落ちましたし、全くもうイギリスあたりの白堊はくあの海岸を歩いてゐるやうな気がするのでした。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
丹塗にぬりの家や白堊はくあの家や、鐘楼しょうろうめいた大きな塔が、あるいは林にまたは丘にすくすくとして立っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから数日ののち、私たちはオスタンド・ドウヴァ間のSSヴィユィユ・リエイジュ号の甲板上に、近づく白堊はくあ英吉利イギリスの断崖を見守っている自分達を発見した。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
またその後、大森の、汽車の線路から見えるところへ小さな洋館が立って、白堊はくあ造りが四辺あたりとはちがっているので目にたった。それも川上の新らしい住居すまいである事を知った。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あだかもかの厳島いつくしまの社の廻廊が満つる潮に洗われておるかのように見える、もっと驚いたのは、この澄んでいる水面から、深い水底みなそこを見下すと、土蔵の白堊はくあのまだこわれないのが
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
カンヌの町を三方から囲んで屹立きつりつしている高い山々に沿うて、数知れず建っている白堊はくあの別荘は、折からの陽ざしをさんさんと浴びて、うつらうつら眠っているように見えた。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
黒胡麻の花崗石みかげいし銷磨しょうまして、白堊はくあのように平ったくさらされている、しぶきのかかるところ、洗われない物もなく、水の音は空気に激震を起して崖に反響し、森を揺すっている
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
たとえば、ちょうど、大海原のようである。そしてその黄色な稲の海の中に、村々の森、町々の白堊はくあがさながら数限りもなく点散している島嶼とうしょの群のようにも見られるのであった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
聖林ハリウッドに入ると、フォオド・シボレエを自動車カアではなく機械マシンだと称する国だけあって、ぼく達の車も見劣みおとりするような瀟洒しょうしゃな自動車が一杯いっぱいで、建物も白堊はくあや銀色に塗られたのが多く
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
これをおもへば烟立つヱズヰオのいたゞき、露けく緑深き葡萄の蔓の木々の梢より梢へと纏ひ懸れる美しき谿間たにま、或は苔を被れる岩壁の上にあらはれ或は濃き橄欖オリワの林に遮られたる白堊はくあ城砦じやうさいなど
二ツ目の辻の右の角は赤煉瓦の塀で取り囲まれた一劃となって、其の塀越しにすっきりと眼もさめるような白堊はくあの軍艦が浮んで見える。軍艦と見えたのは実は軍艦風に建てられた家屋だ。
ガルスワーシーの家 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
昨日きのふ仰ぎし惠那岳えなだけは右に、美濃みの一國の山々は波濤の打寄するが如く蜿蜒ゑんえんつらなわたりて、低き處には高原をひらき、くぼき處には溪流をはしらせ、村舍の炊烟すゐえん市邑しいう白堊はくあ、その眺望の廣濶くわうくわつなる
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
以前は市の駐在部であつたといふ白堊はくあの建物の庭にトラックがはいつてゆくと、庭の真中に日の丸の旗が高くあげてあつた。地方山林事務所と書いた新しい看板が石門に打ちつけてある。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
津軽海峡を渡って函館はこだてへ上陸したことのある人は知っていると思うが、連絡船が港に近づくと、下北半島に相対した恵山えさん方面の丘に、トラピスト女子修道院の白堊はくあの塔がみえるであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
白堊はくあの小学校。土蔵作りの銀行。寺の屋根。そしてそこここ、西洋菓子の間に詰めてあるカンナくずめいて、緑色の植物が家々の間からえ出ている。ある家の裏には芭蕉ばしょうの葉が垂れている。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
けれどもこの言葉が終るか終らぬかに変った若林博士の表情の物凄さ……只さえ青い顔が見る間に血のうしなって白堊はくあのように光りを失った額のまん中に青筋が二本モリモリと這い出した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かつて「白堊はくあの殿堂」とさえ呼ばれた天現寺の鉄筋コンクリートの校舎は、完成してまだ十年にみたなかった。戦争まえまで、それは東洋一の設備と瀟洒しょうしゃな美観を誇るものだといわれていた。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
息をするのもひだるいような、このふらふらの空間に……。ふと、揺れている空間に白堊はくあの大きな殿堂が見えて来る。僕はふらふらと近づいてゆく。まるで天空のなかをくぐっているように……。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
環海ビルジング——帯暗白堊はくあ、五階建の、ちょうど、昇って三階目、空にそびえた滑かに巨大なるいわおを、みしと切組んだようで、ぷんと湿りを帯びた階段を、その上へなお攀上よじのぼろうとする廊下であった。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若葉に囲まれた山の絶頂に、遠く白堊はくあの城が見えるのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「近ごろ例の謎の白堊はくあ館事件というのが、ばかに新聞で騒がれているが、あれは全体どんな事件だったのだね?」
幽霊屋敷の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白堊はくあの御宝蔵、西丸、山吹丸やまぶきまる出丸廓でまるぐるわなどの狭間はざまが高く見えるほかは、諸門殿閣、みな樹林の底に埋ずまって、その上は模糊たる冬霞ふゆがすみのうっすらと流れているのが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
苗木の城址じょうしはこれに対して高く頂上の岩層にうらびた疎林がある。日本唯一の赤壁せきへきの城のあとがあれだという。この淵のぬしである蟠竜ばんりゅう白堊はくあを嫌ったという伝説がある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼らは黒牛に白堊はくあを塗りつけて言った、「この牛は白である。」それこそ白塗りの牛である。
いゝや、さうぢゃない、白堊はくあ紀のおほきな爬虫はちゅう類の骨骼こっかくを博物館の方から頼まれてあるんですがいかゞでございませう、一つお探しを願はれますまいかと、斯うぢゃなかったかな。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
降りしきる吹雪ふぶきを隔てた事だから、乗り組みの人の数もはっきりとは見えないし、水の上に割合に高く現われている船の胴も、木の色というよりは白堊はくあのような生白さに見えていた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
小さいながらも白堊はくあの三階建なのですが、遠見にはかなり深い松原にさへぎられて、屋根のてつぺんにある古びた金色の十字架さへ、よつぽど注意して見ないことには分らないほどです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
山の中腹から頂へかけて瀟洒しょうしゃ白堊はくあの洋館は、ちらりほらりと、樹間に隠見しているにもかかわらず、これだけ艦が近付いていっても、浜辺に人一人たたずんでいる気配もなかったのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
平坦へいたんな氷の島のうえに、白堊はくあの家が建っているのだ。その一室が、病室になっている。いや、白堊の家だけではない、工場もあるし、動力所とおぼしい建物もあるし、飛行機の格納庫さえある。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
片側には八階のSビルディング、片側には六階のYビルディング、空を隠してそそり立つ白堊はくあの断崖にはさまれた深い谷底に、電車線路のない坦々たるアスファルト道路が、白々と続いていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
以上は病的な例であるが、また一方では一種の風味のために食用にする事がある。昔ローマ人は穀物に混じてプテオリという土地から出る白堊はくあを食ったという。ボルネオ辺では菓子に粘土を使う。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ここは南蛮屋の奥座敷、屋号に似つかわしい南蛮風の部屋で、青い絨緞じゅうたん、オレンジ色の壁、白堊はくあの天井、黒檀細工こくたんざいくの円卓、ギヤマン細工のランプなど、この時代には珍しい、異国趣味が漂っている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白堊はくあの家はつらなり、大理石はいみじき光りに、琅玕ろうかんのように輝いている。その前通りの岸には、椰子やしの並木が茂り、山吹やまぶきのような、金雀児エニシダのようなミモザが、黄金色の花を一ぱいにつけている。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)