)” の例文
このいたいけな少年の手を合され質朴な老爺や婦人たちの一本な涙の回向えこう手向たむけられて、これに感動せぬ墓があったであろうか。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
びらの帷子かたびらに引手のごとき漆紋の着いたるに、白き襟をかさね、同一おなじ色の無地のはかま、折目高に穿いたのが、襖一杯にぬっくと立った。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日本人は地味でぽんほか言分いひぶんはないが、たつた一つ辞世だけは贅沢すぎる。死際にはお喋舌しやべりは要らぬ事だ。狼のやうに黙つて死にたい。
兄のまじめな話が一くさり済むと、満蔵が腑抜ふぬけな話をして一笑い笑わせる。話はまたおとよさんの事になる。政さんは真顔になって
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「淺ましさなら、お富の方がどうかして居るよ。嘘だと思つたら、あの色つぽい年増のお富と、一本の娘姿のお糸を比べて見るが宜い」
自分は正直のあまり、まじめに物をかたづけ過ぎていつのまにか自分の思想の反對なる輪廓ばかりに執着してゐるのであつた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「みそじゃございませんよ、銘酒の一本という意味です。つまり三杯も飲むと、この先の丘も越えられなくなるほど廻るンで」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、それよりもっとのままの身近い現実として、今日の私たちの周囲には少年犯罪の増加の事実が世人の注意をひいているのである。
ジャンの物語 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
聞かされました。そして一日中考えてから、是非とも光子さんと結婚する気になったのです。あのひと一本な一徹な性格がひどく私の心を
或る男の手記 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「なアに、こいつは今朝けさから赤大根ベットラヴの喰いづめで、それにそれ、赤葡萄酒シャトオ・ヌウフ一本を二ヒドンばかりやったのでこんなに赤くなったのでごわす」
のままでいいのかい」と啓三が急に云った、「素人が医者に云うのはおかしいが、水で割るほうがいいんじゃないのか」
ばちあたり (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
露柴はすい江戸えどだった。曾祖父そうそふ蜀山しょくさん文晁ぶんちょうと交遊の厚かった人である。家も河岸かし丸清まるせいと云えば、あの界隈かいわいでは知らぬものはない。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いったいわたしはちょっとした事で好ききらいのできる悪いたちなんですからね。といってわたしはあなたのような一本でもありませんのよ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ウフ、名探偵帆村荘六さえ、そう思っていてくれると知ったら、蠅男は後からなだ一本かなんかを贈ってくるだろうよ」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
主人は石を下して置いて、考へずにの酒を飲む。主人の手が幾ら早く動いても小男は考へる丈は考へねば置かない。そこで相応に時間が立つ。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
すいの江戸ッ子なんだし、どんな男の奴も、一目見れば、ぽうッとなってしまうだけの色香もまだ残っているんだよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「江戸ッ子」というのは、つまりえ抜きの東京人で、吾が大和やまと民族の性格のすいを代表していると云われている。
そこにも高瀬はのままの刺激を見つけた。この粗末ながらも新しい住居で、高瀬は婚約のあった人を迎える仕度をした。月の末に、彼は結婚した。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
源之助のやうな出たとこ勝負の役者には時によつて、つぼの外れる所があるが、世話物だと成功する率が多い。生活が即舞台となることが出来るから。
役者の一生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
ところが、私たちが生れる少し以前において、既に本当の一本の日本文化は消滅しかかっていたのである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
かみ! 三河ながらの旗本の手の内、まったすい旗本の性根のほど、この辺で御堪能にござりましょうや」
といって、七歳のおそのやんが一本のなだの銘酒を五合ばかり飲んで、親たちや養母を驚ろかせたりした。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
釣った山女魚を白焼きにして、まだ温かいうち醤油で食べれば、舌先に溶ける。さらに田楽でんがく焼きの魅惑的な味は、晩酌の膳に山の酒でも思わず一献を過ごす。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
で純で、自然の質そのものだけの持つ謙遜けんそんな滋味が片れを口の中へ入れる度びにもろく柔く溶けた。大まかな菜根の匂いがする。それは案外、あまいものであった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女は小倉がまじめで、肉ばかり食ってるのを見て、少し陽気にしてやろうと考えたらしいのだった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
読者は大助の此の行動を、耻ずべき変態性慾者や色情狂者の為すところと混同してはいけない。彼のは飽く迄も一本な忠義と孝行の念から発しているのである。
「ではあなたはママのテコナは、阿呆の女だとおっしゃるのね。……ではあなたにはママのテコナの、純な一本の心持ちが、ちっともおわかりになりませんのね」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
研究の方も同様であって、三年間かの病床および療養の間に先生の頭の中で醗酵はっこうした色々の創意が、のままの姿でいくらでもあとから後からとわれわれの前に並べられた。
文学者ぶんがくしやもくして預言者よげんしやなりといふは野暮やぼ一点張いつてんばり釈義しやくぎにして到底たうていはなし出来できるやつにあらず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
彼は正直なまじめな表情でこたえた、「なんの、おれは今までにまだ疲れたことなんかない。」
公武合体=尊王攘夷のたてまえに——この、本来過渡的な、折衷的な政治綱領を過渡的折衷的なそれとせず、純一むくにこれに終始せんとした珍しく一本な政治家だった。
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
水の到着以前にのウイスキーが胃壁に衝突しているから。飲用以前に、タンサンか水で割るべきである。同じことのようでも手順が前後すれば何事につけてもダメなものだ。
わが工夫せるオジヤ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ベニは粗野で、のままの女だから、あんな風な群に落ちればすさまじいものだと思う。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
出来合いのタレの中に三割くらいの酒と、甘いからじょうゆ一割くらい加えること。
料理メモ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
武家の娘の一本に世を知らぬ、そして知らぬがゆえに強い弥生の恋情よりも、あら浪にもまれもてあそばれて寄って来て海草うみくさの花のような、あくまでも受身なお艶という可憐な姿に
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何事に限らずわが言ふ処まじめの議論と思給はばとんでもなき買冠かいかぶりなるべし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ウイスキーが来てから私はのまま三杯ぐっとやりました。小夜子も炭酸水にウイスキーを入れて呑みました。彼女は酒も煙草も平気でやる女です。これで大ていその性質がお判りでしょう。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
純粋の主観、真の雑り気のない、一本の主観を常に持ってるものは、こうした表現者の詩人でなくして、行為によって生活を創作しようとするところの、他の「詩を作らない詩人」である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
海抜三百十七ひろの所にあるクーラル・ダス・フレイラスのぶどう酒だ。
一本の正直がわざはひして、方々の會社に勤めは勤めても、上役と衝突したり、職工の味方になつて株主攻撃の演説をしたりして、紡績會社でも、汽船會社でも、電力會社でも永續しなかつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
人間の見かけはまことに当てにならないもので、たとえばあの人はわたしなどにも、最初はなんとなくとげとげしい感じがしました。けれどそれはつまり、あの人があまり一本すぎるからでしょう。
古きよしみをつなぐに足るのはの酒のみだよ。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
「割らないで、で飲んだんでしょう」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「此處で用意したなだ一本を開けよう、——善公なんかに呑ませちや勿體ないくらゐの酒だが、お仕着せに一本づつだぜ」
思想とか礼儀とかにわずらわされない、無尽蔵に強烈で征服的なのままな男性の力はいかな女をもその本能に立ち帰らせる魔術を持っている。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まじめな天聲もなか/\話せる樣になつた、な」と、氷峰はからかひ半分に、「賄賂わいろなどを取つて、けしからん。」
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
作品をのままによんで、そこから現実をつかんで所謂文学史の内容を見きわめられるだけの文芸批評家が必要です。
人間本来の我利我利心理を包むオブラートかカプセルぐらいにしか考えていなかった私は、こうした郵便配達手君の郵便物に対する一本の単純な誠意
眼を開く (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いかなる事にも、物驚きをしないような、すいの柳ばし連の、美しい瞳さえ、一度にきらめき輝くのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「はいはい、この団子でござりますか。これは貴方あなた、田舎出来で、沢山たんと甘くはござりませぬが、そのかわり、皮も餡子あんこも、小米と小豆の一本でござります。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)