状態ありさま)” の例文
たゞ我等に我等の國と状態ありさまをたづねき、このときうるはしき導者マントヴァ……といひかくれば、己ひとりを世とせし魂 七〇—七二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
国は小さく、民はすくなく、しかして残りし土地に荒漠多しという状態ありさまでありました。国民の精力はかかるときにめさるるのであります。
閉め切った古い雨戸の隙間と、夥しい節穴から流れ込む朝の光りに薄明るくなっている奥座敷に来てみると、成る程無残な状態ありさまであった。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ことに藤原氏が専横をきわめて、争って天下の土地を占有するようになりましては、公民たる農民も事実水呑百姓の状態ありさまになってしまいました。
母此状態ありさまを見て大におどろきはしりよりてたすおこし、まづ御はたやよりいだしさま/″\にいたはりしが、気息いきあるのみにてしたるがごとし。
その日、曾根は興奮した精神こころ状態ありさまにあった。どうかすると、悲哀かなしみの底から浮び上ったように笑って、男というものを嘲るような語気で話した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕もその席に侍りて、先のほどまで酒みしが、独り早く退まかいでつ、その帰途かえるさにかかる状態ありさま、思へば死神の誘ひしならん
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
折角せっかく心持が緊張しているうちにやり遂げたかった計画も、こうした状態ありさまでずるずると一角から崩れはじめました。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
それも多くは二番三番の抵当に入っている状態ありさまで、このままいけば五年と経たぬうちに無一物になってしまう。
藪落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
試みに今、君の心臓を取り出してたせて見たら、どんな状態ありさまだろうか、又、試みに今、雪江さんの心臓を切り出して搏たせて見たら、どんな状態だろうか。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
実に惨憺たる状態ありさまを呈した事があった。春から夏にかけての長い間に一滴の雨すら降らず、毎日毎日の日照り続きで田畑でんぱたの作物は皆枯死してしまう有様であった。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
今日の社会は大かた今僕が話したような状態ありさまで、ちょうどまた新しい昔の大名だいみょうが出来たようなものだ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
平時つねに変れる状態ありさまを大方それと推察すゐして扨慰むる便すべもなく、問ふてよきやら問はぬが可きやら心にかゝる今日の首尾をも、口には出して尋ね得ぬ女房は胸を痛めつゝ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しかしこんな不安の状態ありさま何時いつまでも続いていたら、結局自分は根負こんまけがしてしまうにきまっている。先刻さっきからほど時間も経っているだろうのに、救いの人々はまだ見えぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おい。どうしたんだ。そんな隅の方にゐないで、ちつとは此方こつちへ出ろよ。」目ざとく其状態ありさまを見て取つたAが、いつもの快活な調子で、向うからかう誘ひかけて呉れた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
赤痢病の襲来をかうむつた山間やまなか荒村あれむらの、重い恐怖と心痛そこびえに充ち満ちた、目もあてられぬ、そして、不愉快な状態ありさまは、一度その境を実見したんで無ければ、とても想像も及ぶまい。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
すると、母親は、さすがに手出しはし得なかったが、今にも打ちかかって来そうな気勢けはいで、まるで病犬がえつくような状態ありさまで、すこし離れたところから、がみがみいっている。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
だろうというのがいつかそうだとなり、彼は義賊だと云いふらす者も出来て、正体の分らない人に人気が出ましてね、一方では恐怖こわがられ、一方では慕われるという矛盾した状態ありさまにまでなったんです。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
乞食は、見なくても、想像でその状態ありさまがわかった。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼等はかれらをすべて照らす第一の光を受く、但し受くる状態ありさまに至りては、この光と結び合ふ諸〻の輝の如くに多し 一三六—一三八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しかし何をいうにも、そんな状態ありさまなので、誰一人婿に来る者が無いのには両親とも弱り切っていた。のみならず所謂いわゆる、白痴美というのであろう。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其朝ほど無思想な状態ありさまで居たことは、今迄丑松の経験にも無いのであつた。実際其朝は半分眠り乍ら羽織袴を着けて来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
雪中だい一の用具ようぐなれば、山中の人これを作りてさとうる家毎いへごとたくはへざるはなし。雪を状態ありさまにあらはしたるがごとし。
何者ならんと打見やれば、こはそも怎麼いかにわれよりは、二まわりおおいなる虎の、まなこを怒らしきばをならし、つめらしたるその状態ありさま、恐しなんどいはんかたなし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
飽いたと云うよりもむしろ恐れたのであった。そんな状態ありさまで幾年かを無意味に送るあいだに、お杉は懐胎して重太郎を生んだが、産後の肥立ひだち不良よくないので久しく床に就いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼らは土地より取るにきゅうにしてこれにむくゆるにかんでありましたゆえに、地は時を追うてますます瘠せ衰え、ついに四十年前の憐むべき状態ありさまに立ちいたったのであります。
平時つねに変れる状態ありさまを大方それと推察すいしてさて慰むる便すべもなく、問うてよきやら問わぬがよきやら心にかかる今日の首尾をも、口には出して尋ね得ぬ女房は胸を痛めつつ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるにこれに向かって歴史を説くことは、わざわざ過去の惨めな状態ありさまを思い出させるようなもので、かえって無理解者の差別観を高め、被差別者の反感を挑発するものであるということ。
遂に、の頃のお友達は今怎うなつたらうと思ふと、今の我身の果敢はかなく寂しく頼りなく張合のない、孤独の状態ありさまを、白地あからさまに見せつけられた様な気がして、智恵子は無性に泣きたくなつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今にも倒れそうな状態ありさまでした。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
心を苛責の状態ありさまにとむるなかれ、その成行なりゆきを思へ、そのいかにあしくとも大なる審判さばきの後まで續かざることを思へ 一〇九—一一一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たとえ男が長い冬の日を遊暮しても、女はく働くという田舎の状態ありさまを見て、てんで笑って御了いなさる。全く、奥様は小諸の女を御存ごぞんじないのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いふさへ息も絶々たえだえなるに、鷲郎は急ぎ縄を噬み切りて、身体みうちきずねぶりつつ、「怎麼いかにや黄金丸、苦しきか。什麼そも何としてこの状態ありさまぞ」ト、かついたはりかつ尋ぬれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
いずれ川上の方の事だから高いには相違そういないが、おそろしい高い山々が、余り高くって天につかえそうだからわざと首をすくめているというような恰好かっこうをして、がんっている状態ありさま
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この頃漸く居処がたしかまつた様な状態ありさまであつた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
汝の名と汝等の状態ありさまとを告げてわが心をたらはせよ、さらば我悦ばむ。是においてか彼ためらはず、かつ目にゑみをたゝへつゝ 四〇—四二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一年余旅の状態ありさまを続けて、ようやくお種は弟の家まで辿たどり着いた。三吉は遠く名倉の家の方から帰って来て、お雪と共に姉を待受けているところで有った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
されど汝は我等のまことの状態ありさまのさらに汝にかされんことを願へば、我もいかでか汝にこれを否むをねがはむ 五五—五七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
もっともこの沈黙はそう長くは続かなかった。一度その状態ありさまを通り越すと、彼女は平素いつものお雪にかえった。そして、晴々しい眼付をして、復た根気よく働いた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さらば汝自ら知らむ、これらのものわが目に明らかに見えし時、彼等よりその状態ありさまを聞かんと思ふわが願ひのいかに深かりしやを 一一二—一一四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
其日A君が興奮した精神こゝろ状態ありさまにあることを私はその力のある話振で知つた。朝日が寒い山の陰へあたつて來た。A君は高い響けるやうな聲を出して笑つた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
我心はたゞやににのみむかへり、こはこのボルジヤとその中に燒かるゝ民の状態ありさまとを殘りなく見んためなりき 一六—一八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
漸く家の内がすこし片付いて、これから仕事も出来ると思う頃、末の児は意外な発熱の状態ありさまに陥入った。新開地のことで、近くには小児科の医者も無かった。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
師こゝに我にいひけるは、汝この圓の知識をのこりなく携ふるをえんためゆきて彼等の状態ありさまをみよ 三七—三九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
丑松は絶えず不安の状態ありさま——暇さへあれば宿直室の畳の上に倒れて、独りで考へたりもだえたりしたのである。冬の一日ひとひは斯ういふ苦しい心づかひのうちに過ぎた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
どうかすると、私も病人の寝台に身体を持たせ掛けたまま、まるで無感覚の状態ありさまに居ることもあった。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その晩から、お房は一層激しい発熱の状態ありさまに陥った。何となくこの児の身体には異状が起って来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一月ひとつきばかりも寝食を忘れて、まるで茫然ぼうぜん自失の状態ありさまにあった岸本は、人がこの自分を見たら何と思うであろうと気がつくように成った。彼は一月も眠らなかったその自分に驚いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
死んだ子供の墓の方へは、未だ三吉は行く気に成らないような心の状態ありさまにあった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)