煎茶せんちゃ)” の例文
が、あかたすきで、色白な娘が運んだ、煎茶せんちゃ煙草盆たばこぼんを袖に控えて、さまでたしなむともない、その、伊達だてに持った煙草入を手にした時、——
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茶の進化は概略三大時期に分けられる、煎茶せんちゃ抹茶ひきちゃおよび掩茶だしちゃすなわちこれである。われわれ現代人はその最後の流派に属している。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
「三男坊のひやめしなもんですからね、こんな贅沢ぜいたくな芸当は習わして貰えなかったんです、済みませんが煎茶せんちゃにして下さいませんか」
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その深い茶碗ちゃわんの形からして商家らしいものを正香らの前に置き、色も香ばしそうによく出た煎茶せんちゃを客にもすすめ、自分でも飲みながら
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
茶漬ちゃづけには、熱湯を少しずつ注いだ濃い目のものを用いるのがよい。しかし、抹茶まっちゃ煎茶せんちゃにしても、最上のものを用いることが秘訣ひけつだ。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
二人は湯から上って、一局囲んだ後を煙草たばこにして、渋い煎茶せんちゃすすりながら、何時いつもの様にボツリボツリと世間話を取交していた。
二癈人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
して貰っちゃあ——それより、もう一ぺえ、茶が頂戴ちょうでえしてえな。おめえ、煎茶せんちゃの心得でもあると見えて、豪勢、うめえ茶をのませてくれたよ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私は、思い切って濃いのが好きで煎茶せんちゃ急須きゅうすへ、抹茶の粉をたたきこむことさえあるのだが、宿屋のお茶は、まるで色のついた湯にすぎない。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
私をして煎茶せんちゃの茶人であらしめるならば、もう器を支那に求めずともすむ。これらのものを代り用いて、すばらしい美しさを示してみせよう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
のみならず妾宅に置いてあった玄鶴の秘蔵の煎茶せんちゃ道具なども催促されぬうちに運んで来た。お鈴は前に疑っていただけに一層彼に好意を感じた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その下は押入れになっている。煖炉があるのに、枕元まくらもと真鍮しんちゅうの火鉢を置いて、湯沸かしが掛けてある。そのそば九谷くたに焼の煎茶せんちゃ道具が置いてある。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
葉子の話では結婚の翌日、彼女は二階の一室で宿酔ふつかよいのさめない松川に濃い煎茶せんちゃを勧めていた。体も魂も彼女はすっかり彼のものになりきった気持であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
禁酒禁煙の運動に良家の児女までが狂奔するような時代にあって毎朝煙草盆たばこぼん灰吹はいふきの清きを欲し煎茶せんちゃの渋味と酒のかんほどよきを思うが如きはの至りであろう。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これとても有れば食うと云う位で、態々わざわざ買って食いたいと云う程では無い。煎茶せんちゃ美味うまいと思って飲むが、自分で茶の湯を立てる事は知らぬ。たばこは吸って居る。
その箱には煎茶せんちゃの道具が簡単に揃えてあるし、お茶菓子も相当に用意して来てあるようです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
怖々こわ/″\あがって縁側伝いに参りまして、居間へ通って見ますと、一間いっけんは床の間、一方かた/\地袋じぶくろで其の下に煎茶せんちゃの器械が乗って、桐の胴丸どうまる小判形こばんがたの火鉢に利休形りきゅうがた鉄瓶てつびんが掛って
商家の主婦が商業上の智識を以て夫の事業を輔佐ほさすると、これに反して錦繍綾羅きんしゅうりょうらまとうて煎茶せんちゃ弾琴だんきんを事とし、遊興ゆうきょう歓楽かんらく無用の消費に財を散じ、良人おっとの事業に休戚きゅうせきを感ぜざる事や
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
楽焼らくやき煎茶せんちゃ道具一揃ひとそろひに、茶の湯用のうるし塗りのなつめや、竹の茶筅ちゃせんほこりかむつてゐた。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
彼女の夫は煎茶せんちゃを売りにゆくに河を渡って、あやまって売ものをぬらしてしまうと、山の中にはいって終日、茶をしながら書籍を読みふけっていて、やくにたたなくなった茶がらを背負って
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
同時に、湯加減よく、濃い煎茶せんちゃの一ぷくが、すぐ出ないと、機嫌がわるい。
とにかくに首台には危ければ首は常におろし置くなり。第三は煎茶せんちゃの湯ざましの一端に蜻蛉とんぼをとまらせその尻を曲げて持つ処にしたるなり。蜻蛉の考へつきは面白しなど俗受善きだけ俗な者なり。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
針の餌を取り替え参らすがその役目、左に控えた今ひとりのお茶坊主は、また結構やかなお茶道具一式を揃えて捧持しながら、薄茶うすちゃ煎茶せんちゃその時々の御上意があり次第、即座に進め参らすがその役目
が、あかたすきで、色白いろじろな娘が運んだ、煎茶せんちゃ煙草盆たばこぼんそでに控へて、までたしなむともない、其の、伊達だてに持つた煙草入たばこいれを手にした時、——
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
渋いか甘いか疑わしい煎茶せんちゃの味は、客を待つ運命に任せてあきらめる。この一事にも東洋精神が強く現われているということがわかる。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
いかにも嬉しげにお笛は煎茶せんちゃのしたくをした、「なにもお菓子がございませんで申しわけございません、お口よごしでございます」
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
要するに、焼いたはもを熱飯あつめしの上に載せ、はしし潰すようにして、飯になじませる。そして、適宜てきぎ醤油しょうゆをかけ、玉露ぎょくろ煎茶せんちゃを充分にかけ、ちょっとふたをする。
鱧・穴子・鰻の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
煎茶せんちゃの道具などをいじっている、その夫人のどこか洗練された趣味から推しても、工学士であるその主人に十分建築をまかしきってよいように考えられたものであったが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は詩や書や煎茶せんちゃたしなむ父のそばで育ったので、からめいた趣味を小供こどものうちからもっていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抹茶の堕落を慨して、新たに煎茶せんちゃの道を開こうとした彼の覚醒かくせいに敬意を払うことはできる。だがそれは思想的価値であって、ただちに作品そのものの価値ということはできない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かつては寒夜客来茶当竹罏湯沸火初メテナリ寒夜かんやきゃくきたりて茶を酒につ 竹罏ちくろきてはじめくれないなり〕といへる杜小山としょうざん絶句ぜっくなぞ口ずさみて殊更煎茶せんちゃのにがきを
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その時は待合の病人の中を通り抜けて、北向きの小部屋に這入はいって、煎茶せんちゃを飲む。中年の頃、石州流の茶をしていたのが、晩年に国を去って東京に出た頃から碾茶ひきちゃめて、煎茶を飲むことにした。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もう何も出来ぬゆえ煎茶せんちゃを呑んで死をきはめてゐる事ぢや——
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
その間に、茶巾ちゃきんをもって、主客の小さい煎茶せんちゃ茶碗をぬぐう。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漆器しっきの蓋のついた大型の煎茶せんちゃ茶碗である。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
後世のシナの煎茶せんちゃは、十七世紀中葉以後わが国に知られたばかりであるから、比較的最近に使用し始めたものである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
要するに、前述のどれでもいいが、例のごとくめしの上にのせて、煎茶せんちゃのよいのをかけて茶漬けとする。
塩昆布の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
そこへ杖を飛ばしたそうです。七十ぐらいの柔和なお婆さんが煙草盆たばこぼんを出してくれて、すぐに煎茶せんちゃを振舞い、しかも、嫁が朝のこしらえたと、小豆餡あずきあんの草団子を馳走した。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女はおちついた動作で煎茶せんちゃれ、広一郎の脇へ来て、それをすすめた。
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は行燈あんどんをつけてから、煎茶せんちゃの道具を取り出した。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
煎茶せんちゃにかぎる。煎茶の香味と苦味とが入用いりようである。少し濃い目の茶をかけると、調和がとれる。茶が薄くては不味まずい。だから、こな茶の上等がいいというわけになる。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その時境は煎茶せんちゃに心を静めていた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(まぐろの茶漬けというものは、きたての御飯の上に、まぐろを二切れ三切れ、おろし少々載せて、醤油しょうゆをかけ、その上から煎茶せんちゃの濃い熱いのをそそいで食うのである)
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
だから、大き目の茶碗がよい。ぜいたく者の茶漬ちゃづけは、めしが少なくて茶が多いほうが美味い。飯の多い方の茶漬けは番茶がいいが、飯の少ない方の茶漬けには煎茶せんちゃを可とする。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
雑炊の上から煎茶せんちゃのうまいのをかけて食べるのもよい。通人つうじんの仕事である。水戸みと方面の小粒納豆があれば、さらに申し分ないが、普通の納豆でも結構いただけることを、私は太鼓判たいこばんして保証する。
煎茶せんちゃのやや濃いめのものをかける。
料理メモ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)