活々いきいき)” の例文
もっと活々いきいきした美少年が、二枚折の蔭から半身を出して、桜子の寝姿を、いとも惚々と眺めて居るのだということが判然はっきりわかりました。
一帯に熱帯風な日本の生活が、最も活々いきいきとして心持よく、決して他人種の生活に見られぬ特徴を示すのは夏のゆうべだと自分は信じている。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その顔色の可かったのも、元気よく活々いきいきしていたのだって、貴女、貴女のそばに居る時のほかに、そうした事を見た事はありますまい。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼の食事をとゝのへ、伊庭の飲み料にしてゐるサントリウィスキーを卓上に並べた頃、富岡が活々いきいきした血色で風呂から上つて来た。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
この自分の心の中に、パッと白百合の花のように咲いているあの面影は、日に、月に、活々いきいきと、瑞々と、匂いを増してきている。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
同じ鶴岡には竹塗たけぬりと呼ぶものがあって、材はひのきでありますが竹を模してあります。多少無理な仕事で活々いきいきしたあじわいを欠く恨みがあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
花瓶かびんの中の水は凍りつめているのに、買ってした南天の実は赤々と垂下って葉も青く水気を失わず、活々いきいきと変るところが無い。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その火のぬくみに全身ぜんしんの血が活々いきいきとよみがえってくるのをおぼえて、かれは、この新しい力を、どこへそそごうかといさみたった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんかと、いやに調子づいたドン・モラガスが、舞台では見られない活々いきいきさをもって独特の金切声を張り上げるのを聞いてみると、こうだ。
今まで広場で調練の指図をしていたという能登守は、それがために血色が活々いきいきとして、汗ばんだところへ黒い髪の毛が乱れかかっていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ともかくもあの頃の『ホトトギス』には何となしに活々いきいきとした創成の喜びと云ったようなものが溢れこぼれていたような気がするのであるが
明治三十二年頃 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そういう貝十郎が見ているとも知らず、お品は何んとなく愁わしそうな様子で、暮れて行く空を仰いでいたが、にわかに活々いきいきと眼を躍らせた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おかっぱの娘の小さいぱっとした桃色と、絹子の黄がかった単衣姿とが逆光線を受け活々いきいきした感じで佳一の目を捕えた。
ヴァリエテ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
貞世の顔は今まで盛んな運動でもしていたように美しく活々いきいき紅味あかみがさして、ふさふさした髪の毛は少しもつれて汗ばんで額ぎわに粘りついていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ねえ、お姉さま。わたくしいつお姉さまのように活々いきいきした女になって、恋が出来るのでしょうか」私は答えた。
健康三題 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何故と云えば、それらを活々いきいきと描写する事は、単なる一学究たる自分にとって、到底不可能な事だからである。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たゞ、青山の葬場に集まった人だけは、活々いきいきとした周囲の中に、しめっぽい静かな陰翳いんえいを、投げているのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
活々いきいきとした雑閙ざっとうと、華々しい灯の飾りの中にその姿を現はせば現はすほど、妻は自分の体から光りなり色彩なりを吸ひ取られて行くやうなのを確かに覚えた。
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
お勢も今日は取分け気の晴れた面相かおつきで、宛然さながらかごを出た小鳥の如くに、言葉は勿論歩風あるきぶり身体からだのこなしにまで何処ともなく活々いきいきとしたところが有ッてさえが見える。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
舌打をしながらがぶりと珈琲コーヒーを飲んで、煙草たばこに火を点けようとした時、卓上電話がジリジリと鳴りだした。——受話器を取ると、いきなり活々いきいきした少女の声で
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平凡で簡単なこの言葉ほど、都会を知らぬ者の心に都会の美しい光景を活々いきいきと描かす言葉はなかった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
それよりも、私達は生きなけりやなりますまい。健全に、活々いきいきした生命を養はなきやなりますまい。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
活々いきいきと紅かった頬の色は次第に蒼ざめ、平素の活溌さが失われて極端な無口になり、時々ションボリと机の前に坐って、溜息を洩しているのを見かけるようになった。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
氏は前よりも血色がよく、活々いきいきした顔をしていましたが、眼には失望の色を湛えていました。病人の待ちかねた眼付を見ると、氏はよけい気づかわしげになりました。
老齢としには勝てない」としみじみ自分へ云いきかせ、諦めさせようとするのだが、眼の前の活々いきいきとしたおしもの体へ視線がいくと、不意に激しい妬心が頭をもたげてきて
女心拾遺 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
日はりて東窓の部屋のうちやゝ暗く、すべての物薄墨色になって、暮残りたるお辰白き肌浮出うきいずる如く、活々いきいきとした姿、おぼろ月夜にまことの人を見るように、呼ばゞ答もなすべきありさま
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
父は自分の家が第二の桐畠になるのを恐れでもするように、活々いきいきそばのものに話し掛けた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小松原で、小児こどもの時分遊んだ日の光景ありさまなどが活々いきいきと現われて来て、つらい、今の身を慰めてくれる。それを楽しみに、今日も空を見ていたのであった。つい三十分前までは……。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
点火器ライター淡黄色あわきいろい光に照し出された一つの顔は、たしかに松山虎夫の顔であるには相違なかったけれど、そこには最早もはやあの活々いきいきとしたほがらかなスポーツ・マン松山の顔はなかった。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここへ来た当季は、あンまり景色がいいもんだから、何もかも忘れてしまひて、もとの活々いきいきとした身躰に返つたやうだつたが、慣れて来るとまたいろんな事を考へ出していけない。
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
アア妾もまた不幸落魄らくはくの身なり、不徳不義なる日本紳士のうちに立ち交らんよりは、知らぬ他郷こそ恋しけれといいけるに、彼はたちま活々いきいきしく、さらば自分と同行するの意はなきや
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
口もとは小さからねど締りたれば醜くからず、一つ一つに取たてては美人のかがみに遠けれど、物いふ声の細くすずしき、人を見る目の愛敬あふれて、身のこなしの活々いきいきしたるは快き物なり
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どうかすると妻の衰えた顔にはかすかながら活々いきいきとしたひらめきが現れ、弱々しい声のなかに一つのはずみが含まれている。すると、彼は昔のあふれるばかりのものが蘇ってくるのを夢みるのだった。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
人の活々いきいきした顔を、仮面ではあるまいかなどと疑うは余り馬鹿げて居る、勿論仮面ではない、血と肉と筋と皮とで天然に育った当り前の顔である、余とても必ずしも疑ったと云う程ではない
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
せぎすであったけれども顔は丸い方で、透き徹るほど白い皮膚に紅味あかみをおんだ、誠に光沢つやの好い児であった。いつでも活々いきいきとして元気がよく、その癖気は弱くて憎気の少しもない児であった。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ははははは、無学の暴言かも知れないが、一家言いっかげんとして聞いてもいい、とにかくあいつは活々いきいきした人間らしいな、この杢之進もくのしんに較べてみても
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわれぬなつかしい感情と共にこの年月としつきの放浪の悲しみと喜びと、すべての活々いきいきした自由な感情は名残もなく消えてしまったような気がしました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これらはほとんどすべて純粋に支那のものであって、如何にこの国の手工藝がまだ活々いきいきとしているかを知ることが出来ます。
北支の民芸(放送講演) (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
踊りの輪は又活々いきいきと廻り始めました。和服姿の千種十次郎はそぐわない心持で、マジマジとこの歓楽の渦を眺めて居ります。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
黒目勝くろめがちな、意味の深い、活々いきいきとしたひとみに映ると、何思ひけむ、紫ぐるみ、本に添へて、すらすらと持つて椅子に帰つた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
時が経てば経つほど、あの花弁はなびらのように開いた清い口唇くちびる活々いきいきとして記憶に上って来た。何処へ行って、何を為ても、それだけは忘れられなかった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仏教もなるだけ、本来の持つところの活々いきいきと輝かしいものを取り戻し、感覚にも快いものにしたいものです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何かを! 見よ、彼の眉がきりきりと痙攣ひきつった。そして固く引結んだ唇に活々いきいきとした微笑ほほえみきざまれて来た。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
血色けっしょくの鮮かな、眼にもまゆにも活々いきいきした力のあふれている、年よりは小柄こがら初子はつこは、俊助しゅんすけの姿を見るが早いか、遠くからえくぼを寄せて、気軽くちょいと腰をかがめた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
で、葉の色も花の色も、活々いきいきと明るく健康に見えた、近くに泉水でもあるのであろう、といから水でも落ちてくるのであろう、トコトコという音が聞こえていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
活々いきいきと巧まない巧みにみちた話術ということからすれば、やっぱり、自然に、あらァ困った、私まるでだらしないのよ、と自分も笑いひとも笑いながらの品評が
ゆき子は書きものをしてゐるのは、そんな事だつたのかと、急に活々いきいきとして、ベッドから降りると
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
さっきここの玄関へ入ってきたときとは別人のような活々いきいきとしたものを顔中に漂わせながら今松は、浜松で一座と別れ、あと二、三日は宿屋でゴロッチャラしていたものの
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
眼窓めまどの外は元のままに灰色はしているが、活々いきいきとした光が添い加わって、甲板の上を毎朝規則正しく散歩する白髪の米人とその娘との足音がこつこつ快活らしく聞こえていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
娘は自分の家に使っている黄銅の湯沸ゆわかしや、青い錆の出た昔の鏡や、その他、すべて古くから伝わっていた器物以外に眼をたのしましたような、鮮かな緑、活々いきいきとした紅、冴え冴えしい青
(新字新仮名) / 小川未明(著)