“栗鼠(りす)” の例文
その周囲一面に葡萄(ぶどう)に栗鼠(りす)の模様を彫れということで御座いました。右の材料は花櫚(かりん)で、随分これは堅くて彫りにくい木であります。
彼のすがたが、栗鼠(りす)みたいに帆柱へ駈け登ってゆくと、彼を知る彼の仲間のかんかん虫たちは、こぞって拍手と歓呼を下から送った。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり彼は栗鼠(りす)か猿かのように飛び廻ったあとなので、今度は、黄色い落葉の上に身を投げ出して、ちょっと休みたい様子だった。
栗鼠(りす)が風の如く杉の梢を、枝から枝へ飛び移って行く。栗の青いイガが草の中へ落ちている×××老人の家で夜まで遊ぼうというわけだ。
飛行機の下の村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これは風情じゃ……と居士も、巾着(きんちゃく)じめの煙草入の口を解いて、葡萄(ぶどう)に栗鼠(りす)を高彫(たかぼり)した銀煙管(ぎせる)で、悠暢(ゆうちょう)としてうまそうに喫(の)んでいました。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卑弥呼は鹿の毛皮に身を包んで宮殿からぬけ出ると、高倉の藁戸(わらど)に添って大兄を待った。栗鼠(りす)は頭の上で、栗の梢(こずえ)の枝を撓(たわ)めて音を立てた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「栗鼠(りす)のことを、くりねずみといったんで、みんなが笑(わら)ったんだ。」と、秀(ひで)ちゃんが、答(こた)えたので、お姉(ねえ)さんも、吹(ふ)き出(だ)して
二少年の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
老人は、栗鼠(りす)のような小さい眼をぱち/\さして、わたくしがそれをどう扱うか、心配そうな、珍らしそうな様子でみました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
服装は、頭に原子防弾(ぼうだん)のヘルメットを、ルビー玉の首飾、そしてカナダ栗鼠(りす)の長いオーバー、足に防弾靴を長くはいている。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
紀州安堵峯辺でいう、栗鼠(りす)は獣中の山伏で魔法を知ると、これややもすれば樹枝に坐して手を拱(きょう)し礼拝の態を為(な)すに基づく。
栗鼠(りす)は胡桃(くるみ)を勘定するのに、自分一流の数へ方を知つてゐる。池田氏がそんな方法を知つてゐたところで少しの差支(さしつかへ)もない。
砂糖が何ともいえぬ程うまいらしい、うまい物は栗鼠(りす)のように咽喉の前の袋になっているところに入れて置いて、あとでゆっくり喰べるらしい。
人真似鳥 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
この林の中にも花金鼠(しまりす)が非常に多く、体に黄色の縦縞があって、長い房々した尾を栗鼠(りす)のように背に負いながら、木から木へと跳び移っている。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その外、食用にはならぬが、栗鼠(りす)やむささびなどがとれる。むじなもいるが、これはなかなかとれないものだそうである。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
そそのかすものではなかろうか、私は急に習慣の力から脱け出して、栗鼠(りす)が大木の幹に、何の躊躇もなく駈けあがるような、身の軽さをおぼえた。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
右手は柵になつてゐて、その上を栗鼠(りす)が面白さうに驅け𢌞つた。斜陽は西に開けた山峽に薄金色の光りを注いでゐた。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
女たちは、まだ栗鼠(りす)や野鼠(のねずみ)に持つて行かれない栗(くり)の実を集めたり、松を伐(き)つて薪(たきぎ)をつくつたりしました。そしてまもなく、いちめんの雪が来たのです。
狼森と笊森、盗森 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
それは梢に巣食つた栗鼠(りす)も、ばらばらと大地に落ちる程であつた。彼はその椋の木の間を、嵐のやうに通り抜けた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
栗鼠(りす)の豪奢な毛皮の外套をつけたアトラクティブな夜の女の華車な姿が、化粧鏡を恋愛の媾曳(あいびき)のための、こころの置場として、僕に微笑みかけているのだ。
そのときは私たちも何んだか興奮(こうふん)して、墓と墓の間をまるで栗鼠(りす)のように逃げ廻りながら、口々に叫んでいた。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
栗鼠(りす)のように闇の中を走って行きましたが、五分もたたない中(うち)に、三つの帽子と、三枚の上着と、それから何だか大きな白い袋をかかえて帰って来ました。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
芝生(しばふ)の上に遊んでいた栗鼠(りす)はわれわれが近よるとそばの木にかけ上った。木の間にはきれいな鳥も見かける。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
栗鼠(りす)、木鼬(いたち)、羚羊(かもしか)、犬、鯨、海狸(ビーバー)、熊、穴熊、猪、土竜(もぐら)など、内地の獣類は、いろいろ食べたことがある。
香熊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
栗鼠(りす)は野山に日を暮らし、巡礼しばしもとどまらず。殻を負ひたる蝸牛(ででむし)はいつまで殻を負うてゆくらむ。
第二真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
少年は丁寧に再び頭を下げながら、玄関の突き当りの二階を、栗鼠(りす)のやうに、すばしこく馳け上つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
と菊女は感謝しいしい、素早く洞の口から出て、洞に添って岩山の背後へ、栗鼠(りす)のように小走った。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
明日は、どうなっても、——そっとドアが開いて、あの人が栗鼠(りす)に似た小さい顔を出して、まだか? と眼でたずねたので、私は、蓮っ葉にちょっちょっと手招きして
皮膚と心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ウルフも姿を見せなかったが、栗鼠(りす)かしゃこを追って、おそらくどこかへ迷いこんでしまったのだろう。彼は口笛を吹き、その名を呼んでみたが、なんの甲斐(かい)もなかった。
御者(ぎょしゃ)は懶惰(ぶしゃう)な婢(はしため)の指頭(ゆびさき)から發掘(ほじりだ)す彼(か)の圓蟲(まるむし)といふ奴(やつ)の半分(はんぶん)がたも無(な)い鼠裝束(ねずみしゃうぞく)の小(ちひ)さい羽蟲(はむし)、車體(しゃたい)は榛(はしばみ)の實(み)の殼(から)、それをば太古(おほむかし)から妖精(すだま)の車工(くるまし)と定(きま)ってゐる栗鼠(りす)と蠐螬(ぢむし)とが製(つく)りをった。
その黒い幹をちょろちょろと栗鼠(りす)が長く太った尾を揺(ふ)って、駆(か)け上(のぼ)った。と思うと古く厚みのついた苔(こけ)の上をまた一匹、眸(ひとみ)から疾(と)く駆(か)け抜けたものがある。苔は膨(ふく)れたまま動かない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
駒井は、今の日本の時世が、行詰まって息苦しい時世であり、狭いところに大多数の人間が犇(ひしめ)き合って、おのおの栗鼠(りす)のような眼をかがやかしている時世であることを、強く感じている。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかも、いった先いった先で、伝令らしいものが栗鼠(りす)のごとくに駈け近づくと、何か尾行者に囁きながら、そのたびに尾行の藩士達が色めき立って、刻々に穏かならぬ気勢が高まりました。
時ならぬ人の気配に驚いてか、山鳥が近くの草叢(くさむら)から飛出す。ハタハタと彼方に音するのは、鳩であろう。山毛欅(ぶな)の大木に絡(から)む藤蔓(ふじづる)、それをあなたこなたと跳び走っているのは栗鼠(りす)である。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
「栗鼠(りす)のようだった、」と思ったが、しかしからだは見えなんでしまった。
烏帽子岳の頂上 (新字新仮名) / 窪田空穂(著)
一番纖細な栗鼠(りす)の毛の筆を選んで、想像出來る限りの美しい顏を描いて、フェアファックス夫人が話したブランシュ・イングラムの描寫に從つて、最も柔(やは)らかな陰と、最も美しい色で彩色(さいしき)せよ。
例の哀れな調子で唸(うな)るように呶鳴りながら、栗一つを袋から出して犬に投げてやると、かれは人間のような悲しそうな声を出したが、急におとなしく坐って、栗鼠(りす)のようにその栗をかじり始めた。
K—はT—とは、似ても似つかない、栗鼠(りす)の敏速さで、出て行つた。
和解 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
イヴォンヌさんは、栗鼠(りす)のような大きな眼をクルクルさせながら
色の黒い、顔の小さい、栗鼠(りす)という綽名に相応(ふさわ)しい感じの男。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
栗鼠(りす)のやうなる声立ててわが袖を捉へ忽ちわが背に攀(よ)ぢつ。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「栗は無いでしょう。栗鼠(りす)がみんな持ってっちまうから。」
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
ちやうど麝香猫と褐色の栗鼠(りす)とのやうにいがみあふ。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
蛇(へび)にまつわらるる栗鼠(りす)の今は是非なく顔を上げたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「栗鼠(りす)がゐるかも知れない」と、勇が答へる。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
笑ふ時栗鼠(りす)みたいなんだもん。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
くれなゐの下は栗鼠(りす)啼きて
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
栗鼠(りす)L'Écureuil
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
栗鼠(りす)の毛衣(けごろも)脱ぎすてて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
栗鼠(りす)さん 栗鼠さん
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
栗鼠(りす)の生態は、いかにも自由性に富んでいて、人間の若さと、若さの持つ欲望とを、そのまま、この小動物の姿態にあらわしている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)