“撲(ぶ)” の例文
「第三がありますよ、——前の晩もう一人の妾お吉と、大喧嘩をしてゐますよ。挘(むし)る、引つ掻く、撲(ぶ)つ、蹴るの大騷ぎだつたさうで」
「知ってらあ! 知り過ぎてらあ! だから敲き壊してやるのさ。その、白狐だかなんだか、撲(ぶ)っ殺(ころ)してくれっから。糞垂稲荷め!」
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それでもいい塩梅に頭を撲(ぶ)たなかったんですけれど、左の足を少し挫(くじ)いたようで、すぐにお医者にかかってゆうべから寝ているんです
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
追かけて撲(ぶ)ちのめそうか、と思ったが、やっと堪(こら)えた。彼は此後仙さんを憎(にく)んだ。其後一二度来たきり、此二三年は頓斗(とんと)姿(すがた)を見せぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
夢心地(ゆめごこち)の背(せ)をドンと一(ひと)ツ撲(ぶ)たれたやうに、そも/\人口(じんこう)……萬(まん)、戸數(こすう)……萬(まん)なる、日本(につぽん)第二(だいに)の大都(だいと)の大木戸(おほきど)に、色香(いろか)も梅(うめ)の梅田(うめだ)に着(つ)く。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
と力を入れて新吉の手を逆に把(と)って捻(ねじ)り、拳固(げんこ)を振り上げてコツ/\撲(ぶ)ったから痛いの痛くないのって、眼から火の出るようでございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
兄はそう云うより早く、気違いのように母を撲(ぶ)とうとした。が、その手がまだ振り下されない内に、洋一よりも大声に泣き出してしまった。——
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「こいつ。ひどいぞ。」と矢(ヤア)さんは撲(ぶ)つまねをするはずみにテーブルの縁(ふち)にあったサイダアの壜(びん)を倒す。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浪路を、為にあずけて、撲(ぶ)ってかかったが、振り上げたこぶしがとどかぬうち、手首を逆につかまれて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
まさか撲(ぶ)ちゃあしませんでしたけど、弟は吃驚(びっくり)して気が違っちまったんです。五六年前ですよ。あの弟がここへ入院したのは。兄は月三度は屹度(きっと)ここへやって来る。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それでもつて撲(ぶ)ち殺してある、鉋(かんな)や鑿(のみ)や鋸や、または手斧(ておの)や曲尺(まがりかね)や凖(すみ)縄や、すべての職業道具(しようばいどうぐ)受け出して、明日からでも立派に仕事場へ出て、一人の母にも安心させ
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
さうした記憶がよみがへると、このたはけもの奴! と圭一郎は手をあげて子供を撲(ぶ)ちはしたものの、悲鳴をあげる子供と一緒に自分も半分貰ひ泣いてゐるのであつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
『榮子なんか駄目だ。馬鹿。威張(ゐば)つたつて駄目だよ。兄(あに)さんを撲(ぶ)つたりしてももう聞かないよ。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「馬鹿野郎、吾らはそんな世迷言にかす耳を有たぬぞ、こうなった上は一寸の光陰も軽んずべからずだ、愚図(ぐず)愚図(ぐず)すれば撲(ぶ)ち殺されるぞ、生命が惜しくば早く下れ下れ!」
太陽系統の滅亡 (新字新仮名) / 木村小舟(著)
……憎いのは、キャラコさんばかりじゃない。みんな、みんな、みんな、世界中の一人残らずが、みんな憎らしいんだ! どいつでもこいつでも、死ぬほど撲(ぶ)ってやりたい。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『何有(なあに)!』とお由は又言つた。そして、先刻(さつき)から三度目の同じ弁疏(いひわけ)を、同じ様な詰らな相な口調で付加へた、『晩方に庭の台木(どぎ)さ打倒(ぶんのめ)つて撲(ぶ)つたつけア、腰ア痛くてせえ。』
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は母によく撲(ぶ)たれた。折檻された。兄はそんなに叱られなかった。私はときに泣きながら母に、母が兄のことは叱らないで、自分ばかりを叱ることへの不服を訴えたりした。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
手燭(てしょく)をつけて一匹ずつ焼くなんて面倒な事は出来ないから、釣手(つりて)をはずして、長く畳(たた)んでおいて部屋の中で横竪(よこたて)十文字に振(ふる)ったら、環(かん)が飛んで手の甲(こう)をいやというほど撲(ぶ)った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何(ど)っか、引掻かれたのか、撲(ぶ)たれたのか、身体中ひりひりしたり、鈍く痛んだりしてきた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
俺らが急ぎだから通してくれと頼むのを、事情(わけ)も聞かねえで、無暗(むやみ)に撲(ぶ)ちやがる。
天神下の叔父の家で、友達と一所に酒を飲んで、それから一同(みんな)遊びに出かけようとしているところへ行き合わせた時も、外へ出てから雨のなかで喧嘩を始めて、傘で腕を撲(ぶ)たれたりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして、グレイ夫人は、がさつで無感覺で——撲(ぶ)たれたつて平氣なんですの。
犬の癖に人間の言葉が分るなんて生意気だから一つ頭を撲(ぶ)ってくれた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
番人と狼と格闘して狼が死ねば珍重珍重、番人が死んだ場合には大概草臥(くたび)れた狼を撲(ぶ)ちのめすだけの事、狼と番人とが四ツに組んで捻合(ねじあ)って居たら危気無しに背面から狼を胴斬(どうぎ)りにして終う分の事
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「旦那はん、あの子が、あたいをこんなに撲(ぶ)ったの」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「えい! 緊(しつか)りせんかい、撲(ぶ)ん殴(なぐ)るぞ!」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「撲(ぶ)たれたな。」
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「騒ぐなよ。——俺はな、昨夜新助の野郎を撲(ぶ)ち殺したんだ——敵は確かにこの親父が討った——とお駒の死骸にそう言ってくれ」
与力はいきなりにその横鬢を扇でぴしゃりと撲(ぶ)たれました。撲たれた方はびっくりしていると、撲った方は苦り切って叱りつけました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
然し耗っても錆(さ)びても、心棒は心棒だ。心棒が廻わらぬと家が廻わらぬ。折角(せっかく)苅(か)り入れた麦も早く扱(こ)いて撲(ぶ)って俵にしなければ蝶々(ちょうちょう)になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
彼女は赤ん坊が小便をしたといっては胯(また)を抓(つね)った。乳の呑(の)み方が悪いといっては平手で頭を撲(ぶ)った。それからすべての器物にも手荒く当たった。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
新「何(ど)うして/\中々彼奴(あいつ)ア己より強い奴で、滅法力が有るから、彼奴は撲(ぶ)たれても痛くねえってえので、五人位掛らねえじゃアおっ付かねえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お丹突然(いきなり)、「畜生——」と一喝して長羅宇(ながらう)の煙管を押取(おっと)り、火鉢の対面(むこう)に割膝して坐りたる鉄の額を砕けよと一つ撲(ぶ)つ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トランプは兄の横顔に中(あた)って、一面にあたりへ散乱した。——と思うと兄の手が、ぴしゃりと彼の頬を撲(ぶ)った。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
西洋近代の演劇は写実の芸風を専一にしているが、人が殺されたり撲(ぶ)たれたりするところは決して写実風ではない。また女を殺す場面は避けて用いないようにしてある。
裸体談義 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お初は、イヤというほど、自分の頬ぺたを撲(ぶ)ってやりたいようないらいらしさを感じて来た。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
『何有(なあに)!』とお由は又言つた。そして、先刻から三度目の同じ辯疏(いひわけ)を、同じ樣な詰らな相な口調で附け加へた、『晩方に庭の臺木(どぎ)さ打倒(ぶんのめ)つて撲(ぶ)つたつけア、腰ア痛くてせえ。』
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
野だは二三秒の間毒気を抜かれた体(てい)で、ぼんやりしていたが、おやこれはひどい。お撲(ぶ)ちになったのは情ない。この吉川をご打擲(ちょうちゃく)とは恐れ入った。いよいよもって日清談判だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなただって撲(ぶ)ってやりたいくらいよ。……ねえ、あたし、ご恩返しのつもりでいうんですから、どうかそう思ってちょうだい。さもなければこんな余計な告げ口なんかする気はないのです。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
若旦那の新助を撲(ぶ)ち殺して娘の敵を討つ——という松五郎を、佐々村佐次郎と平次が、どんなに骨を折って宥(なだ)めたことでしょう。
夢中ですぐに撲(ぶ)ち殺してしまったんですが、殺して見るとやっぱりほんとうのおふくろさんで、尻尾(しっぽ)も出さなければ毛も生えないんです。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「コリャ」とまた怒鳴って、満面の痘痕を蠢(うごめ)かして、堪(こら)えず、握拳(にぎりこぶし)を挙げてその横頬(よこづら)を、ハタと撲(ぶ)った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と何(なん)と心得違いしたか富五郎、無闇にお隅の手を取って髯(ひげ)だらけの顔を押付ける処へ、母が帰って来て、此の体(てい)を見て驚きましたから、傍(そば)にある麁朶(そだ)を取って突然(いきなり)ポンと撲(ぶ)った。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と同時にあの眼つきが、——母を撲(ぶ)とうとした兄の眼つきが、はっきり記憶に浮ぶのを感じた。が、そっと兄の容子(ようす)を見ると、兄は遠くへ眼をやりながら、何事もないように歩いていた。——
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おい、その猫の頭をちょっと撲(ぶ)って見ろ」と主人は突然細君に請求した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人の娘は、笑って、お互に袂(たもと)で撲(ぶ)つまねをしながら、去ってしまった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
慶三はただ馬鹿野郎馬鹿野郎と怒鳴(どな)るばかり今更撲(ぶ)ったり蹴たりも出来ず、勝手にしろと云い捨てて外へ出てしまった。外へ出てから慶三は道々どう始末をつけようかと稍(やや)冷静に思案を廻し始めた。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
然し彼はよく主人をはじめ一家の者になずいて、仮令余が彼を撲(ぶ)ちたゝくことがあっても、彼は手足をちゞめて横になり、神妙(しんみょう)に頭をのべて鞭(むち)を受けた。其為め余が鞭の手は自然に鈍(にぶ)るのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
撲(ぶ)ってちょうだい。……ママを撲(ぶ)ってちょうだい
其處を調べるつもりで、首を突つ込むやうにしてゐると、いきなり後ろから、頭を撲(ぶ)たれたまでは知つて居りますが、あとは何んにも存じません。