かかわ)” の例文
又そこに住んでいる人々も昔の様に多数の人々が住んでいるにかかわらず、十人の中わずかに二、三人しか見出す事が出来ない有様であって
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
いろいろ不都合なことがあるにもかかわらず、小栗桂三郎は自殺して果てたと、警察も世間も信じ切ってしまうのも無理のないことでした。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
太子の摂政時代は内外ともに多事であったが、それにもかかわらず鷹揚に深い瞑想は、この野辺のあたりにもなされていたのであろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
谷から吹き上げる風は冷くかつ強いにもかかわらず、絶頂は不思議に風が当らない許りか、風呂場へ這入った時のように生温くさえ感じた。
それにもかかわらずこの統制法が、いまだに議会を通過しないという事実の裏には、商人団の中央機関の必死の破壊運動があるのだった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そのとき彼はなぜか声が出なかったそうである。大声で叫んで人々を集めればよろしかったのにもかかわらず、なぜか無言のままだった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お松は喜びと感謝とで、米友を拝みたいくらいにしているのにかかわらず、米友の面には、やはり前からの曇りが取り払われていません。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
品物をポケットへさらい込むが早く玄関へ急いだ。流石の策士も奇襲を食って慌てたのだった。寒中にもかかわらず、額に汗をかいていた。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして智識慾も、探求心も相当激しいにもかかわらず、今まで余り開拓されず、無教養のままに打ち捨てられていたのに智子は驚いた。
明暗 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それにもかかわらず私は現代のロシアの気狂い染みた歴史家の記録が純粋な女性の愛情まで資本家に身売りしていることが分るのであった。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
何も急ぐことはないにもかかわらず、宇治は何故か追われるように歩を進めた。原隊では無論宇治が逃げつつあることをまだ知る訳がない。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
人間の影さえ見えないけれど、それにもかかわらず思いなしでもあろうか、その谷の中には無数の人がこもっているような気勢がする。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
余は真宗の家に生れ、余の母は真宗の信者であるにかかわらず、余自身は真宗の信者でもなければ、また真宗について多く知るものでもない。
愚禿親鸞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
聯隊の経理室から出た俸給以外に紙幣が兵卒の手に這入る道がないことが明瞭であるにもかかわらず、弱点を持っている自分の上に
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
製産地直接取引ノ為メ日本ニ輸出卸値おろしねト同様多少ニかかわラズ勉強つかまつリ御便宜ノ為メ事務所トシテ日ノ出家ニ実物取揃申居とりそろえもうしおりあいだ御買上被下度くだされたく
二人共出鱈目でたらめを云う様な男とも見えぬが、それにもかかわらず、彼等の陳述は、この事件を益々不可解にする様な性質のものだったのである。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
塀の外の広い世間を敵と見ていたにもかかわらず、いったん気を許した彼に対しては、子供の心を持って接して来るように思われた。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
かれはかくも神経質しんけいしつで、その議論ぎろん過激かげきであったが、まち人々ひとびとはそれにもかかわらずかれあいして、ワアニア、と愛嬌あいきょうもっんでいた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼のくちびるの辺には、すさまじい程の冷たい表情が浮んでいた。が、それにもかかわらず、声と動作とは、恋に狂うた男にふさわしい熱情を、持っている。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかしそれの来るときにはあらゆるものにもかかわらず来るのである。「これから瞑想しよう」などということはおよそ愚にも附かぬことだ。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
それにもかかわらず霧原警部はこの二人が今回の事件に関係して居るように思えてならなかった。まず第一に平岡の袖の血である。
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
この御歌は、豊かで緊密な調べを持っており、感情がこまやかに動いているにもかかわらず、そういう主観の言葉というものが無い。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
にもかかわらず、先頃からそこの門は、表にも裏にも、物の具着けた兵が十人くらいずつ立っている。あたりの閑寂に似もやらぬいかめしさである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暑い折柄であるにもかかわらず、きちんと紋服を着けて先代の写真を祭り、その前で祖母譲りの方式にって盃事さかずきごとを厳重にしたが
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それと気が付いたときにはあッとくず折れそうであったにかかわらず、それでもふみ耐えて、手近かな垂木たるきをわしづかみにすることが出来たのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そして、誰も他の人は見ていないにかかわらず、彼は、まるで白昼大通りで丸裸にされて侮辱を受けているような侮辱を感じた。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
にもかかわらず、それは半之助を、かつて経験したことのない、罪に似た感覚のおどろきと、恐怖にちかい魅惑とで押し包んだ。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
以前はそのお祭りをしていたかと思うにもかかわらず、ここの氏子は紀州の熊野へ参ってはならぬということになっていました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
愚劣な小説ほど浅薄な根柢こんていから取捨選択され一のことに十の紙数をついやすにかかわらず、なお一の核心を言い得ないものである。
美の日本的源泉として日本芸術の根蔕こんたいに厳存していて今後ますます生成発展せしむべき諸性質を考えているのであるが、以上の事実にもかかわらず
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
これだけ、手を尽した猛運動にもかかわらず、ふたをあけてみると、それは、成親の思惑おもわくをはるかに通り越したものであった。
また近頃デモクラシーの声が各所に囂々ごうごうとして唱えられ、また僕自身も小さいながらもこれを旗印としているにかかわらず
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それが四月の末であったにかかわらず、わたしには、日を経るにつれてそのおもいでの、なぜか秋のいろに寂しく染められて行くものがあるのである。
春深く (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
私はビラの入る入らないにかかわらず、みんなが会社のことを色々としゃべり合っている事についてはその大小を問わず、何時でも積極的に口を入れ
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
第七十六条 法律規則命令又ハ何等なんらノ名称ヲもちヰタルニかかわラスノ憲法ニ矛盾むじゅんセサル現行ノ法令ハすべ遵由じゅんゆうノ効力ヲゆう
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
昌允 それは惜しい惜しくないにかかわらず、今の場合須貝さんに、この家を出て行って呉れというのは少し無法でしょう。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
しかし枳園は平生細節さいせつかかわらぬ人なので、諸方面に対して、世にいう不義理が重なっていた。中にも一、二件の筆紙にのぼすべからざるものもある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
手を着けてはならないと井上氏が宣告して置いたにもかかわらず、俳優やくしゃや座付作者たちから種々の訂正を命ぜられた。我々もよんどころなく承諾した。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ヘ、ヘ、ヘ」とまた思出して冷笑あざわらッた……が、ふと心附いてみれば、今はそんな、つまらぬ、くだらぬ、薬袋やくたいも無い事にかかわッている時ではない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それにもかかわらず、美しい皿に盛ったカレーライスは、これを喜んで食べ、新聞紙に載せられたカレーライスは見るだに悪寒を覚えてまゆをひそめるのは
料理と食器 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
しかもこれは成功不成功にかかわらずで、おまけに男女双方から取るのだから一会見やらせると十円になるわけである。
周さんは、藤野先生をはじめ、そのような皆の懸命の努力にもかかわらず、やはり、まもなく私たちから去って行った。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は多くの陰謀をしたるにかかわらず、正義の目的を達せんがためにしたるの陰謀にして、殆んど胸中、人に対して言うべからざるのものなかりしなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼女は三十初代の婦人であるにもかかわらず、胃が弱く、その上悪い血が彼女自身の顔に薄赤い斑点を描いていた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
而もあれほど、「口まめ」であったにかかわらず、其が「何やらゆかし」の程度に止って、説明を遂げるまでに、批評家職能を伸べないうちに亡くなって行った。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
だがそれにもかかわらず、また患者の異常な食慾にも拘らず、彼は日に日にせ衰えて、助手が日毎ひごとに記入するフントの数はだんだん少なくなって行くのだった。
これは、趙が近眼であるにもかかわらず眼鏡を掛けていないという事実にることが多いもののようだった。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
口寡くちすくなで、深切で、さらりと物にかかわらず、それで柔和で、品が打上り、と見ると貴公子の風采あり、疾病やまいに心細い患者はそれだけでも懐しいのに、謂うがごとき人品。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌日は本田の一家が出発する日だったにもかかわらず、次郎は、平気で学校に行った。みんなも、いっそその方がよかろうというので、強いて休ませようともしなかった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
謙一は、いそがしい軍務のかたわらにもかかわらず、日夜、秘境の研究をつづけていたが、上川将軍の尽力じんりょくで、いよいよそれを決行することになった——というわけだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)