愛想あいそう)” の例文
坂を下り切つて、油屋の前から右へまがつたところで、小學校でちよつと教はつたことのある山下といふ愛想あいそうのよい先生にゆきあつた。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
『まあ、ゆつくりなさいまし。表はお寒うございますから。』と、女房は愛想あいそうよく云つて、わたしの火鉢に炭を継いでくれたりした。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ無言のうちに愛想あいそうを尽かした。そうして親身の兄や姉に対して愛想を尽かす事が、彼らに取って一番非道ひどい刑罰に違なかろうと判断した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「美枝子にですか。いや、会いません。こんなあさましいやつかたで会えば、愛想あいそうをつかされるだけのことですからねえ」
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「はは、それでは親方は俺らには愛想あいそうを尽かしたけれども、お前の方にはまだ見込みがあるんだな。お前またあすこへ行ってみる気があるのかい」
そうして、ついにわとり愛想あいそうのいいのにまれて、いっしょにのぼらないあさあいだたのしくおくるのでありました。
ものぐさなきつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
縹緻きりょうがよくって孝行こうこうで、そのうえ愛想あいそうならとりなしなら、どなたのにも笠森かさもり一、おなかいためたむすめめるわけじゃないが、あたしゃどんなにはなたかいか。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
という愛想あいそうもコソもない返事だ。ナアニ、分析中でも何でもない。放ったらかしていたらしいんだ。「馬鹿にしてやがる。虎列剌コレラでも何でもないものを……」
無系統虎列剌 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこでもかれ宿やどからずに、終日しゅうじつ相変あいかわらず長椅子ながいすうえころがり、相変あいかわらずとも挙動きょどう愛想あいそうかしている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
此家の主人あるじは彼小笠原に剣をなげうつ可く熱心ねっしん勧告かんこくしたが、一年後の今日、彼は陸軍部内の依怙えこ情実に愛想あいそうをつかし疳癪かんしゃくを起して休職願を出し、北海道から出て来たので
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
愛想あいそうのないことをするのはしかたがないがね、物思いをさせられたり、嫉妬しっとを覚えさせられたりすることもなく、よく双方で口喧嘩くちげんかはしても、しかたのないと思うことは
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
仕様がえな、己が悪かった、堪忍してくれ、そんなら是迄おめえと一緒になってはいたが、おれに愛想あいそうが尽きたなら此のうちはすっかりとお前にやってしまわア、と云うと
すそ曳摺ひきずりて奥様おくさまといへど、女はついに女なり当世たうせい臍繰へそくり要訣えうけついわく出るに酒入さけいつてもさけ、つく/\良人やど酒浸さけびたして愛想あいそうきる事もございますれど、其代そのかはりの一とくには月々つき/\遣払つかひはらひに
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
そのくれちか旦那だんなつりより惠比須ゑびすがほしてかへらるれば、御新造ごしんぞつゞいて、安産あんざんよろこびにおくりの車夫ものにまで愛想あいそうよく、今宵こよひ仕舞しまへばまた見舞みまひまする、明日あすはやくに妹共いもとゞもれなりとも
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのうちのひとりに、ちょっと話したい用があるというと、それは伊之吉いのきちという大番頭であった。伊之吉は一空さまをじろじろ見たのち、急に愛想あいそうよく招じ上げて、店の裏の小座敷へ案内して行った。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とホームズは彼独特の気安い愛想あいそうのよい調子で云った。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
そして今別れた愛想あいそうのよい山下先生が、金太郎の入學をよろこんでくれた時、この町で一番えらくなつてゐるのは××大學の教じゆをしてゐられる林信助さん
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
とにかく、みんなは、たがいに欲深よくぶかであったり、嫉妬しっとしあったり、あらそったりする生活せいかつ愛想あいそうをつかしました。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
初めのうちは、刑務所ほど平和な、そして気楽な棲家すみかはないと思ってよろこんでいた。しかし何から何まで単調な所内の生活に、つい愛想あいそうをつかしてしまった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
孝「いえ、それと申しまするのも親父の不身持ふみもち愛想あいそうを尽かしての事でございます」
渋茶しぶちゃあじはどうであろうと、おせんが愛想あいそうえくぼおがんで、桜貝さくらがいをちりばめたような白魚しらうおから、おちゃぷくされれば、ぞっと色気いろけにしみて、かえりの茶代ちゃだいばいになろうという。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
愛想あいそうを言って、つと七兵衛を通り抜いてしまう。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こしひくくて、愛想あいそうがよく、ここへむまでには、いろいろの経験けいけんゆうしたであろうとおもわれる主人しゅじんは、わらって
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
んな貧乏世帯を張ってるから、使いに出すたび一緒に附いては往かれませんよ、だが浮気をして情夫おとこを連れて逃げるようなじゃアありません、親に愛想あいそうが尽きて仕舞ったに違いないんだよ
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それからおかゆを二膳半食べました、それから今日はナ娘がずっと気分がなおって、お父様こんなに見苦しいなりでいては、孝助さまに愛想あいそうを尽かされるといけませんからというので、化粧をする
愛想あいそうがよかったのです。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)