くら)” の例文
ランプシニトスは非常に富裕な王様で、莫大な銀を貯えていたが、それを安全に保管するために、宮殿に接して石のくらを建てさせた。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのうちに、城中の軍資を入れてあるくらのなかから銀数百両と銭数千びんが紛失したことが発見されて、その賊の詮議が厳重になった。
どうせすぐ近所に祈祷が洩れ聞こえるやうな人里の中で彼等は集まりはしませんからね。いつも大抵茂木のはづれにある醤油屋のくら
そしてまた燕青えんせいは、わしに代って、くらかぎをあずかり、よく家事一切の留守をかたくして欲しいと、縷々るる、言い渡しを、言い渡した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今度内藤に逢つたら、何でも一つくらを建てるやうに勧めてやらう、くらさへあつたら安心して支那の事が心配出来るんだからな。」
たしか「少年文学」と称する叢書そうしょがあって「黄金丸こがねまる」「今弁慶いまべんけい」「宝の山」「宝のくら」などというのが魅惑的な装幀そうていに飾られて続々出版された。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お庄は蒲団や寝衣ねまきを持ち出して手擦てすりにかけながら、水に影の浸った灰問屋のくらが並んだ向う河岸がしをぼんやり眺めていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
公卿くげ、町人——総がかりで隠居隠居と、わしを持てはやし、さまざまな音物いんもつが、一日として新しく、わしのくらを充たさぬということもないのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
橋から橋へ、河岸のくらの片暗がりを遠慮らしく片側へ寄って、売残りの草花の中に、蝶の夢には、野末の一軒家の明窓あかりまどで、かんてらの火を置いた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これ等青年詩人の詩で多数の若い詩人の間に愛誦せられる物も稀にあるが、大抵は世に知られずに古本屋のくらの隅に葬られて仕舞しまふ運命をつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その宝庫たからぐらには強そうな兵隊がチャンと番をしておりまして、そのくらの奥にある大きな鉄の宝箱の中に立派な鉄砲が一梃ちゃんと立てかけてありました。
奇妙な遠眼鏡 (新字新仮名) / 夢野久作香倶土三鳥(著)
くらの荷をはたいて急場をしのごう、さもなければ暖簾のれんをおろすよりしようがねえ、こう、うちあけてお云いなすった。
夜の蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「恐れながら殿様には餞別せんべつとしてこの国のくらに積んであるお金を何程でも御礼として差上げたうございますから御入用だけおほせ付け下さりますやう。」
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
其處そこ廷丁てい/\は石をくらに入んものとあげて二三歩あるくや手はすべつて石はち、くだけてすうぺんになつてしまつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わだちの跡が入り乱れている道であった。その小さい原を横切って行く行手に、もう一つ木柵が引廻されていて、その中に、詰所と、白いくらとが、並んでいた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
とう/\くらに来て、水兵がエツヰを見出したところを猿に指さして見せると、猿の黒い目に恐怖の色が現はれた。そして猿は祈祷をするやうに両手を合せた。
(新字旧仮名) / ジュール・クラルテ(著)
ある家になるとくらはもとより長屋門、母家おもや納屋なや、物置等一切をこの石屋根で葺いたのがあって見て堂々たる姿である。その様式は他に類がないから甚だ目立つ。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
隱し念佛はおくら念佛といふぐらゐだ。上總屋は小さい孫二人をその日新發意しんぼち(自己催眠さいみんになる一種の得道)にするつもりで、晴着を着せて土藏の中へ呼んだのだ。
宝物くらから飛び出したのは他ならぬ閣下の甥御です。甥御は其時耳飾を掴んで飛び出して来たのでございます。そして閣下を突き倒して置いて走り去ったのでございます。
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一手は手をそろえてできるだけのたきだしをしてくれ給え、それから、有らん限りの米を積下ろしてくれ給え、くらには三日分ほどの量を残して置けばよろしい、それから最近
爾れば春子は塔の境内に宝物くらを建て、一先ず彼の十七有個の箱を塔から取り出して之を納め、第一号の家珍は子孫へ伝える事とし、金銀は全英国の慈善事業総体へ寄附し猶欧洲大陸
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
邵大尉しょうたいいくらの金で、盗まれた金なのだ、庫の内へ入れてあった金が、五十錠無くなっているのだ、封印はそのままになってて、内の金が無くなっているのだ、臨安府りんあんふでは五十両の賞をかけて
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
金銀財宝さては家くらに心ひかされてかといふに、これはまたあるべき事か、それよりももつと大事の大事の妻のお糸にしばしだも離るるがつらさにとは、思ひの外なる事もあればあるものかな。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
くらの石段の下でごはんを食べるのが一ばん好きで、たけに昔噺むがしこ語らせて、たけの顔をとつくと見ながら一匙づつ養はせて、手かずもかかつたが、ごくてなう、それがこんなにおとなになつて
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
終夜の旅を終へて眠りのくらに入らうとする車達の入り乱れた響きを脚下に感じながら八重洲口へ向ふ長い歩廊の窓から、さて私が、これから八日の間、見聞の眼を虎のやうに視張つて訪問する筈の
日本橋 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
部屋中の静かなことは石炭のくらの如く
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さしもの幕府のくらの金塊も、放漫な経理と、将軍綱吉や、その生母桂昌院けいしょういんの湯水のごとき浪費とで、近年は涸渇こかつひんしてきたのである。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのくらをさがすと、宝物珍品が山のように積まれていて、およそ人世の珍とする物は備わらざるなしという有様であった。
その人のくらなんぞを荒したら、並大ていのことじゃあ済みませんぜ。遠島者か、首斬り台にすわらなけりゃあならねえ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
これくら七戸前ななとまえめた口で、何だい、その言いぐさは、こう源坊、若いうちだぜ、年紀としは取るもんじゃあねえの。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋をわたって、裏のくらの方へゆく、主人の筒袖つつそでを着た物腰のほっそりした姿が、硝子戸ごしにちらと見られた。お島は今朝から、まだ一度もこの主人の顔を見なかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さんざん揉み抜いた揚句、公沙汰になって、公儀役人が八王子の屋敷へ乗込んで調べると、驚いたことに、屋敷のくらも、石見守が生前役得として取込んだ金銀珠玉の山だ。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
まあ聞いてくれ、斯うなんだよ……今夕私は陛下に召されて、陛下のご座所で二時間ほどお話を申し上げて罷り出たが、宝物くらの前まで来ると庫のが開いているじゃないか。
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それからね……妾はしかたがありませんから、宝物たからものくらのところへ連れて行ったら、黒い腕で錠前を引き切って中の宝物をすっかり運び出して、お城の外へ持って行ってしまったのですよ」
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
酒屋のくらのうら通り
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
従って、ここの領主の内福ないふくなことも分るし、武器のくらには、槍鉄砲がいつでもみがきぬいてあるだろうという想像もつく
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の大小はお里の着物や帯と入れ替えにして、無事に質屋のくらから請け出されていた。お里の顔には母をうしなった悲しみの色がもうぬぐわれていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「黒いいでたちをしておりましたが、とっさに逃亡いたしましたゆえ、ハッキリとは見分けられませず——何でも、おくらを狙っていたように見うけました」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
けえったら何か持たして寄越よこさあ、邸でも、くらでも欲しかあ上げよう、こいつあ、後生だから堪忍しねえ。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
好きで、自分の居間に掛けるつもりで買つた品だといふことですが、物が良いので世間の評判になつて、近頃では寺寳の一つになり、滅多にくらから出さないことにしてをります
本家が銀行から差押えを喰って、ぴたぴたくらを封ぜられ、若いあるじが取り詰めたようになって気の狂い出したという消息の伝わったのは、お庄が行ってから間もないことであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それは大変と、てんでに宝庫に駈け付けて調べて見ますと、番兵もくらの鍵もチャンとしていながら、中の刀と鉄砲だけ無くなっています。そうしてもとの鉄砲と刀とあったところに、どちらにも
奇妙な遠眼鏡 (新字新仮名) / 夢野久作香倶土三鳥(著)
これに反して洞院左膳は、お側にはべってはお太鼓を叩き、美しゅうござるのあでやかでござるのと鳰鳥殿ばかりをめているので、今日も拝領、昨日も拝領、拝領の太刀や絹巻物でくらたるという全盛。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
佐々木定綱、盛綱、高綱の兄弟三人は、主とわかれて、ひそかに、渋谷庄司重国の館を訪ねてゆくと、重国は、兄弟をくらの中にかくまい、食事をすすめて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手届きて人の奪うべくもあらねば、町の外れなる酒屋のくら観世物みせもの小屋の間に住めりと人々の言いあえる、恐しき野衾のぶすまの来てさらえてくと、われはおさなき心に思いき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、どうして持ち出されたのか、その碁盤だけは無事に残っていて、それからそれへと好事家こうずかの手に渡ったのちに、深川六間堀の柘榴伊勢屋という質屋のくらに納まっていました。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だつて親分に風邪かぜを引かしちや大變でせう。向柳原のあつしの家の方が近いけれど、自分の家へ歸つたところで、筋の通つた着物は皆んなおくらに入つてゐるからろくなものはありやしません。
(官庫へおいで、官庫へおいで、切支丹屋敷のあるくらければ、無限に金目かねめな物があるじゃないか、そこはお前もよく勝手を知っている場所じゃないか)
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの酒屋のくらと、観世物みせもの小屋の間まで、わが家より半町ばかり隔りし。真中まんなかに古井戸一ツありて、雑草の生い茂りたるもと空地なりしに、その小屋出来たるは、もの心覚えし後なり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
質物しちもつは預かり物ですから、くらにしまって大切にして置くべきですが、物が珍らしいので薄馬鹿の辰公がそっと持ち出した。いや、辰公ばかりでなく、それをおだてた奴がほかにあるんです。