幸福しあわせ)” の例文
とにかく、あの造麻呂と云う爺はみかけによらず、大変な胴慾者どうよくものですから、娘の幸福しあわせなどとても考えてやるような男ではないのです。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
というのが本当ならば、せっかくいくらか幸福しあわせになりかけている彼女の境遇を、そんなことをして、また情けない思いをさせたくない。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「たしかに打たれました。けれど春子様、朝田は何時も静粛しずかで酒も何にも呑まないで、少しも理窟を申しませんからお互に幸福しあわせですよ。」
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
幸福しあわせになんかなろうと思ったばかりに、身につかない夜会服ソアレなんかでしめつけられて、それこそ息のつまるような思いをしたよ。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そうしなければあの夢のために自分に向いて来た幸福しあわせを、自分一人占めにする事は出来ないのだと、恐ろしい覚悟をめてしまいました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
にいさん、なにが幸福しあわせになり、なにが不幸福ふしあわせになるか、わかったものでありません。あれからわたしは、事業じぎょうおこして失敗しっぱいしました。
くわの怒った話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
持っているそうだが、これから一つ出かけてなおしてあげないかな。そうすりゃお前、これから一生幸福しあわせに暮せるわけだがね。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
人の幸福しあわせのためにつくられた者ですからな。それで、本当に仕合わせな人間は、自分はこの世で神の遺訓を果たしたという資格があるのじゃ。
服装みなりなども立派に成った。しかし以前の貧乏な時代よりは、今日の方が幸福しあわせであるとは、先生の可傷いたましい眼付が言わなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
同じ時に生れたあの若様はお幸福しあわせで、あんなにお立派に育っていらっしゃるのに、私の息子は——、と思うと羨しいやら、ねたましいやら——
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
でも私、どんなにあの方をありがたく思ってるか——どんなに幸福しあわせにしていただけたか、ということを、あの方に申し上げたくてならないの。
あなたの生涯しょうがい随分ずいぶんつらい一しょうではありましたが、それでもわたくしのにくらぶれば、まだはるかにはなもあって、どれだけ幸福しあわせだったかれませぬ。
「いや、まだ悉皆すっかりいという訳には行かないよ。何でも三週間ぐらいはかかるだろうと思うが……。しかしまあ、生命いのちに別条の無いのが幸福しあわせさ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「大そう結構のように思われますわ、娘だってこの財産をつぎますればふたりの一生は安楽ですし、それに越した二人の幸福しあわせはありませんわ。」
釈迦牟尼如来が成仏じょうぶつなされた樹の下で私がまた坐禅することの出来るのは実に幸福しあわせであると我を忘れて徹夜致しましたが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
弟がつまみ上げたる砂を兄がのぞけば眼もまばゆく五金の光を放ちていたるに、兄弟ともども歓喜よろこび楽しみ、互いに得たる幸福しあわせを互いに深く讃歎し合う
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「これをお前に遣ることにする。大事にしまっておくがいい。そうして俺が死んだ後で、こっそりひらいて見るがいい。お前を幸福しあわせにしようからな」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大海は私をこの国へ連れて来て、この幸福しあわせを私に与えてくれました。その私の幸福をどうして、姉上貴女の許へもたらしてくれぬことがあろうかと。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「なにかと言ったって、お此さんは幸福しあわせせえ。田舎じゃどうして、あんな手当ては出来るもんじゃない。」母親も言った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これほどのお大尽でも、あればかりはどうすることもできませんね。それだからお君さんのような容貌きりょうよしに生れついた者は、お金で買えない幸福しあわせ
僕みたいに斯う度胸を据ゑて了ふとね、夢の中の見知らない街みたいに唯わけもなく酔つ払つて幸福しあわせなものだぜ! (——と言つたやうな物さ!)。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
街子はそれをきいてこのうえもなく幸福しあわせで、「それはあたしの父さんが描いたんですよ」そう言いたいほどでした。
最初の悲哀 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
また、千太がね、あれもよ、おか人魂ひとだまで、十五の年まで見ねえけりゃ、一生わねえというんだが、十三で出っくわした、やつ幸福しあわせよ、とくだあね。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人の一生を量ってみて、幸福しあわせが多いか不幸ふしあわせが多いかと言えば、正直のところ、普通の意味でいう不幸の方が多いと言う人が沢山あるに違いありません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こんな口説くぜつよろしくあって、種員は思いも掛けぬ馬鹿に幸福しあわせな一夜を過し翌朝あくるあさぼんやり大門おおもんを出たのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「自分のかけた罠、それと同じような結果に成って自分も死んだ……あの方が彼のためにも幸福しあわせでしょう」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
世の中は何が幸福しあわせになるか知れない。乃公も春之助と名をつけて貰うとよかった。八幡太郎も安藤太郎も乃公おれなんにもくれやしない。太郎なんて全く割の悪い名前だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ほんに此れは人の口端くちはばかりではなさそうな……したがわしの思うには、いまの其方そちに何を言うても解るまいが、身分違いの色恋は、大てい幸福しあわせに終らぬものじゃ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ほんとうに忌々いまいましいたらありゃしない。ひとの失敗しくじりを自分の幸福しあわせにするなんて。今度出逢ったが最後、この剣でもって思いきりみなの復讐しかえしをしてやらなくっちゃ。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「いや、そんな心配はちっともらない。君の忙がしいのは、つまり我々の幸福しあわせなんだから」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わしが植えるには、ただ手を動かしているのみでなく、一つまみの苗の根を田へ下ろすごとに、有難や、この苗のために、わしらは今日えもせず、日々にちにち幸福しあわせに生きている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「マア、玩具にまで何両という品が出来るのですかねえ、今時の子供は幸福しあわせですねえ」
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「俺は、もう、これきりの人間だ。山茶花など! それより、汝等にしらせえ、幸福しあわせで……」
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「かわいそうに! 気の毒な人だね。わしが、おまえの子どもに洗礼せんれいをさずけてあげよう、その子どものめんどうをみて、この世で幸福しあわせなものにしてあげよう」と、おおせになりました。
あのはち切れるような素晴らしい肉体が、まざまざと力強く浮き出て来て、何か思いがけない幸福しあわせが、今にも眼の前へ現れでもするような嬉しさが、次第に胸をおおって来るのを覚えた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
クラリモンドの気に入った恋びと——ローマ法王さえ撥ねつけたほどの私の恋びと——それなら男の誇りになるはずです。ああ、わたしの人……。わたしたちはなんともいえないほどに幸福しあわせです。
縁のないのが私の幸福しあわせで、今は斯ういう安楽な身の上になって、何一つ不足はないが子供の無いのが玉にきずとでも申しましょうか、順当なら長さん、お前さんぐらいの子があってもいんですが
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ほんとに大河さんは羨ましいこと、わたしも男だったらお願いして学校へ上げて戴くんですけれど、ねえ、奥さま」粂は言って、「さっきもわたし大河さんは幸福しあわせだわって言っていたのですのよ」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
お政はまた人の幸福しあわせをいいだして羨やむので、お勢はもはや勘弁がならず、胸に積る昼間からの鬱憤うっぷんを一時にはらそうという意気込で、言葉鋭く云いまくッてみると、母の方にも存外な道理が有ッて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
このいまの罪犯さなくてすむ一日の生命いのちかなしみ幸福しあわせなりき
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
幸福しあわせが私と肩を並べて歩いた。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
(ああ、俺は幸福しあわせだ……)
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「なにが幸福しあわせになり、なにが不幸福ふしあわせになるか、わかるものでありません。」といったおとうと言葉ことばが、いまさらあにあたまなかかんできました。
くわの怒った話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おかげさまで丈夫よ。それに——以前よりはずっと幸福しあわせになったのよ。——で、私、あなたにお願いがあって来たの。」
「お前もそうしていいところへ片着いて、どんなに幸福しあわせだか知れやしないわね。」と、お饒舌しゃべりの伯母は独りでお庄の身の上をうらやましがった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かような離れ島の中の、たった二人切りの幸福しあわせの中に、恐ろしい悪魔が忍び込んで来ようと、どうして思われましょう。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかるに私はその方を師匠として教えを受けるようになったのは、全く前大蔵大臣の厚意によってこういうよい幸福しあわせを得ることになったのである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
パトラッシュは、ほんとうに幸福しあわせでした。同じ炎天のもとでも、同じ氷雪の路でも、昔と今では地獄と極楽の相違です。
妾達四人は幸福しあわせになる。近所のお方とお交際つきあいをする。親切に妾達を扱ってくださる。楽しいことばかりが起こって来る。すっかり以前まえ生活くらしになる。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
茜さんの口振りでは、あまり幸福しあわせにはいっていないらしいようすだったので、その思いが、いっそう深いのである。