小父おじ)” の例文
「そうですか。父はわたしが三つのとき死にましたから、なんにもおぼえとりませんけど、小父おじさん、いつごろ父といっしょでしたの」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
めったに、薬売くすりうりの小父おじさんのってきた、くすりむようなことはなかったけれど、小父おじさんは、こちらにくればきっとりました。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その側から、慰め兼ねておろおろしているのは、「小父おじさん」と言われる、故人と昵懇じっこんの浪人者、跡部満十郎という四十男です。
「……お母さんは、時どき夜おそくから、小父おじさんと一緒にお酒を飲みに行かれますので、また今夜も、そんな事かと思って……」
銀座幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「だってこの前もその前も買ってやるっていったじゃないの。小父おじさんの方があの玉子を出す人よりよっぽど嘘吐うそつきじゃないか」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供こどもあたまには、善良と馬鹿とは、だいたい同じ意味いみの言葉とおもわれるものである。小父おじのゴットフリートは、そのきた証拠しょうこのようだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
「あらっ、だめ! ちがうわよ、ちがうわよ。それじゃアまるででたらめの文句だわ。いやな泰軒小父おじちゃん! ほほほほほ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「きょうから和子わこは、この小父おじさんの養子になったのだぞ。……どうだ、うれしいか。欣しくないか。この小父さんは嫌いか」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小父おじさん、母ちゃんを助けて上げて下さい、刀を差している人は、弱い者を助けて上げてもいいでしょう、ね、小父さん」
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かつて黒田伯清隆きよたかに謁した時、座に少女があって、やや久しく優の顔を見ていたが、「あの小父おじさんの顔はさかさに附いています」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その言葉を、正夫の小父おじさんがききとがめました。そして、どうかして匂いをつける仕方しかたはあるまいかと、相談しました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そのルンペンの小父おじさんから貰った手紙には先生からお話に聞いた探偵実話ソックリの怖い怖いことが書いてありました。
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
で、私は、かりにも養父であるこの中村を、まるで他所よその人のように、いつも「小父おじさん、小父さん」と呼んでいた。
小父おじさん、」とそのサヴォアの少年は、無知と無邪気とからなる子供らしい信頼の調子で言った、「私のお金を。」
やっぱり小父おじさんが先刻さっき話したようにした方がい。明日あしたまた小父さんにったら、小父さんその時に少しおくれ。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あ、じゃでの、」などと役人口調で、眼鏡の下に、一杯のしわを寄せて、髯の上をで下げ撫で下げ、滑稽おどけた話をして喜ばせる。その小父おじさんが
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「セエラちゃん、お隣には黄色い顔の小父おじさんがいるのね。支那人しなじんかしら? 地理の本には、支那人は黄色い顔をしている、と書いてあったけれど。」
「こいつがこいつが」と老人らしくもないがグリグリ眼の大辻小父おじさんは、三吉のくびめるような恰好をした。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
田舎で春から開業している菊太郎の評判などを、小父おじが長い胡麻塩ごましお顎鬚あごひげ仕扱しごきながら従姉いとこに話して聞かせた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女房なぞは今ではすっかりタクトを心得込んで家賃を負けさせようとの魂胆こんたん物凄く、年中菊の話ばかり持ち出して「大家の小父おじさん」なぞと甘ったれていたが
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
『おい、アンドリューシカ、お前、右側の傍馬わきうまを曳っぱれよ。それからミチャイ小父おじ、お前は轅馬なかうまに乗っかりねえ。さあ、乗っかりねえよ、ミチャイ小父!』
「さすがに小父おじさんだけあるわねえ。どうして分るんだろう。」と君江は松崎の耳に口を寄せて今夜の始末を包まずに打明け、「何かうまい工夫はないか知ら。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「で、わしは思うのじゃ、父上や戸野の小父おじなどと一緒に、宮方にご奉公いたそうものなら、数代つづいた竹原の家が、武家方によって滅ぼされようもしれぬと」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さあ先生、ここへおで」と彼は言った、「ひとつ小父おじさんにもっと近い所で顔を見せておくれ。」
小波瀾 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
左の腕になにかいやな刺青があるとかいう小父おじさん。あんまり若けえ者をつかまえて無理を云わねえ方がいい。どうで霊岸島からは縄付きが出るんだ。その道連れを
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
岸本の恩人にあたる田辺たなべ小父おじさんという人の家でも、小父さんがくなり、姉さんが亡くなって
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
茂少年は、サンタクロースの様に、親切な小父おじさんだと思って、喜んでそのお菓子を受取ると、別にお腹がすいていた訳ではないが珍らしさに、早速さっそく口へ持って行った。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小父おじさん、その彫刻師ってのは、あの稲荷いなり町のおたなでコツコツやってるあれなんですか」
小父おじさん」森君はなれなれしく云った。「この近所に動力を使っている所がありますか」
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「まだまだ、今朝けさからなンだけど、たった四匹よウ。めめず屋の小父おじさんの話ではねえ、ここは昔ぬまだったンだからたくさんめめずが居るって云うンだけど、なかなか居ないわア」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「まあ、どうしてなの、小父おじ様、またイタリアへお越し遊ばすのでございますか」
「ここは黒丘ブラック・ヒル入江の『ベンボー提督アドミラル・ベンボー屋』だよ、小父おじさん。」と私が言った。
けれども矢張り私は仕事をしなければなりません。私は子供に留守をさせることに慣してしまはふとして忍んでゐます。幸ひに子供は安心してなつくことの出来る小父おじさんと小母おばさんを見出しました。
「小川の小父おじさん、それから、みなさん、さようなら。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
小父おじさん、海苔のりをつけていた新吉を御存じでしょうか」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鈴木すずき小父おじさん! 早くお店に来てください!」
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「あっ! 鳥尾とりお小父おじさん、今日は……」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「そこが職業しょうばいだもの。掴まってばかりいたら、職業にならないじゃないの。小父おじさんなんかも(掴まらなけりゃあ、やるがなあ……)って言っているんだけど、小父さんのような野呂間のろまなんかにはとても出来やしないんだよ。」
街底の熔鉱炉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「おう、よし」と小父おじさんは答えた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
小父おじさんはあたいの刺青に惚れたのね」
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
小父おじさん。」とまたMがやると
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
『女の方は? 小父おじさん……』
「厭な小父おじさんねえ」
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
薬売くすりうりの小父おじさんは、そのよいみなとから汽船きせんって、むすめをつれて、とおい、とおい、西にしうみしてはしっていったのであります。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ほほほほほ、そこんとこのふしまわしが、ちがうわ。あ、た、いのウであがって、ちゃんはアってさがるのよ。小父おじちゃんのは、それじゃ逆だわ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あ、そばそば、ちょうだいな。ああ小父おじさんなの。じゃ、たのむわ。すまないけど、ふたりで一人前の腹しかないのよ。五銭ずついれてね。」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
おかしな玩具がんぐかなんかのように彼を面白がったり、わるふざけをしてからかったりした。それを小父おじ(小さい行商人)はおちつき払って我慢がまんしていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
「真事、そんなにキッドが買いたければね、今度こんだうちへ来た時、小母おばさんに買ってお貰い。小父おじさんは貧乏だからもっと安いもので今日は負けといてくれ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
知らない小父おじさんばかりいるこの本陣の中では、ただ団栗どんぐりのような丸い目をきょろきょろさせているだけだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小父おじさんもう歩行あるけない。見なさる通りの書生坊しょせっぽうで、相当、お駄賃もあげられないけれど、なか河内かわちまで何とかして駕籠かごの都合は出来ないでしょうか。」
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)