天晴あっぱれ)” の例文
天晴あっぱれ天下の物知り顔をしているようで今日から見れば可笑おかしいかもしれないが、彼のこの心懸けは決して悪いことではないのである。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おまけにこの先生ときては、天晴あっぱれ悟りをひらいて当代の大聖人と仰がれるようになってから、夢に天女とちぎりをむすんで、夢精した。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
大声嘈々驟雨ゆうだちの井をさかさにするごとく、小声切々時雨しぐれの落葉を打つがごとく、とうとう一の小河を成して現存すとは、天晴あっぱれな吹きぶりじゃ。
いや、その間だけは恋の無常さえ忘れていると申してもよい。じゃによって予が眼からは恋慕三昧れんぼざんまいに日を送った業平なりひらこそ、天晴あっぱれ知識じゃ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「聞く度に珍らしければ郭公ほととぎすいつも初音の心地こそすれ」と申す古歌にもとづき、銘を初音とつけたり、かほどの品を求め帰り候事天晴あっぱれなり
怜悧りこうだな。何、天晴あっぱれ御会釈。いかさま、御姓名を承りますに、こなたから先へ氏素姓を申上げぬという作法はありませなんだ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
覚悟むればなかなかに、ちっとも騒がぬ狐が本性。天晴あっぱれなりとたたへつつ、黄金丸は牙をらし、やがて咽喉をぞ噬み切りける。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
聞いてる以上は、一生にたった一度でいいから、八五郎は天晴あっぱれだ——と言われてみてえ、それには何か、心掛けのようなものがありゃしませんか
それも自分の家へ飼って置いては発見される怖れがあるから、人の近寄らない殺生谷の裸岩に隠して置き、必要に応じて使ったところは天晴あっぱれだ。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
暗夜とは云っても黄浦河の上で堂々と汽船を奪った手並みは敵ながら天晴あっぱれのものだったよ。しかも手段が支那式で滑稽味を帯びていて面白かった
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
予が講義を聴かれて「天晴あっぱれ慧しき子かな、これまで巡廻せし学校生徒のうちに比べる者なし」と校長に語られたりと。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
それを、正義だの、青年の仲間だのと言って、僕たちを言いくるめて、いい加減に踊らせたのだから天晴あっぱれれな伎倆ぎりょうだ。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
天晴あっぱれ仕出かした。今日の一番功ありてこそ誠にわが孫じゃぞ。御身の武勇もろこし樊噲はんかいにもみぎまさりに見ゆるぞ。まことに日本樊噲とは御身のことじゃ」
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「御親類の若い御嬢さんでもあると、こんな時には御相手にいいですがね」と云いながら不調法ぶちょうほうなる余にしては天晴あっぱれな出来だと自分で感心して見せた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを実際にやってのけたのだから、日本の鉄道の人たちは天晴あっぱれなものだった。踏切や町かどの交通整理を引受けて、働いた青年団員も、実に偉かった。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれの勇名は乃木大将の耳にもはいって、敵ながらも天晴あっぱれとあって将軍から感状をはじめ色々の物を贈られたのを、彼はいまだに大切に保存しているという。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
天晴あっぱれの手並だ!』とクイックシルヴァは叫びました。『急いでその首を魔法の袋の中へ入れるんだ。』
大きな不覚にちがいないが、かくまで鮮やかに受けた不覚に対しては、戦国武者のあいだでは、敵ながら天晴あっぱれなものとして、一時の歓呼を惜しまなかったのみか
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手負の物語はだれやすきものなるをだれさせぬ腕前天晴あっぱれにて「結んだ縄もしやらほどけ」あたりの名文句を例のどすのきく調子にて上手じょうずに云ひ廻し、充分に泣かせたり。
そうするとよしその計を看破られても元々だし、敵が軽々に信じて終えば、吸取紙の字から推断されるだろう所の本当の場所を知られずにすむ。敵ながら天晴あっぱれの方法じゃないか
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
と悟るに付けて斯様な草深い田舎に身柄と云い器量と云い天晴あっぱれ立派な主人が埋められかかったのを思うと、凄然せいぜん惻然そくぜんとして家勝も悲壮の感に打たれない訳には行かなかったろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
天晴あっぱれ東洋の舞台の大立物おおだてものを任ずる水滸伝的豪傑が寄ってたかって天下を論じ、提調先生昂然こうぜんとして自ら蕭何を以て処るという得意の壇場が髣髴としてこの文字の表に現われておる。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
小主水の花魁は天晴あっぱれ男まさりの働きがある女だから、万に一つも遣り損じはあるまいが、何をいうにも大勢の人の目をかすめてけ出させるのだから旨く行ってくれゝばいがと
うむうむ。そうあろうとも……イヤ。天晴あっぱれで御座ったぞ平馬殿。あの時に、どう処置を
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
口角にはあわを立て、軍服のボタンは取れ、一方の肩章は敵の近衛騎兵の剣に打たれて半ば切れ、大鷲の記章は弾丸にへこみ、全身血にまみれ、泥にまみれ、天晴あっぱれな武者振りをもって
……(得意げな調子で)ね、いかがです、口幅ったいことを言うようですが、なんたるめぐり合せでしょう、とにかくね。……こうなるともう、天晴あっぱれと言いたいくらいですよ! (退場)
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
悪足掻わるあがきもまた一段で、襦袢じゅばんがシャツになれば唐人髷とうじんわげも束髪に化け、ハンケチで咽喉のどめ、鬱陶うっとうしいをこらえて眼鏡を掛け、ひとりよがりの人笑わせ、天晴あっぱれ一個のキャッキャとなり済ました。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
幕臣また諸藩士中の佐幕党さばくとうは氏を総督そうとくとしてこれに随従ずいじゅうし、すべてその命令に従て進退しんたいを共にし、北海の水戦、箱館の籠城ろうじょう、その決死苦戦の忠勇ちゅうゆう天晴あっぱれ振舞ふるまいにして、日本魂やまとだましいの風教上より論じて
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
姉えさんがおっ母さんに対して尽している処を見ますと、その形跡から見れば、天晴あっぱれ孝子です。よめにも行かないで、一身を犠牲にしておっ母さんを大切にしています。そこでその思想はどうです。
天晴あっぱれなる手練、そなたというものを見つけたのは嬉しい。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
次には天晴あっぱれの勇士であって、しかも優美に、おとなしい
「ヤ。天晴あっぱれである。淳八郎も嘆くでないぞ。チョーセイは神業である。その方の不覚ではない。世にも稀代な神業があるもの哉」
読んで独り自ら評価して居る。ただこの評価は思想を同じゅうして居ないものの評価で、天晴あっぱれ批評と称して打出して言挙ことあげすべきものでないばかりだ。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
連合つれあいの今の後室が、忘れずに、大事にかけてござらっしゃる、お心懸こころがけ天晴あっぱれなり、来歴づきでお宝物にされた鏡はまた錦の袋入。こいつもいわい。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「聞かないでも分かるのか。まるで巫女いちこだね。——御前がそう頬杖ほおづえを突いて針箱へたれているところは天下の絶景だよ。妹ながら天晴あっぱれな姿勢だハハハハ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誠に天晴あっぱれな大和男児の姿である。この美しい姿を眺めながら妙な夢のような事を考えてみるのであった。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今日より奢侈しゃしを禁じ海防のために尽くすであろう。それに致しても江戸から長崎、長い道程を大鵬を追い、ついに正体を確かめたところのそちの根気は天晴あっぱれのものじゃ。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三十七羽すぐりてこれを庭籠にわこに入れさせ、天晴あっぱれ、この鶏にまさりしはあらじと自慢の夕より、憎からぬ人の尋ねたまい、いつよりはしめやかに床の内の首尾気遣いしたまい
敵ながら天晴あっぱれなことをいった。流石さすがは首領として名ある人物だけのことはあった。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この奇利を易々やすやすつかんだ椿岳の奇才は天晴あっぱれ伊藤八兵衛の弟たるに恥じなかった。
行儀学問も追々覚えさして天晴あっぱれ婿むこ取り、初孫ういまごの顔でも見たら夢のうちにそなたの母にっても云訳いいわけがあると今からもううれしくてならぬ、それにしても髪とりあげさせ、衣裳いしょう着かゆさすれば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かような手段てだてをとりましたのも、何とかして、御主君のこころを慰め、ふたつには、武将の御最期として、すでに天晴あっぱれなお覚悟を示されながら、可惜あたら、浅井長政は血迷うて亡びたなどと
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誠にうも、それだから娘よりわしが惚れたのだ、お前の志は天晴あっぱれなものだ、其の様な奴は突放つきッぱなしでいよ、腹は切らんでも宜いよ、わたしのようにもお頭にとゞけを出して置くよ、それから何うした
『どうかそうしてくれ、わが天晴あっぱれの若者、』と王様も言いました。
彼は半ば口のうちで言った、「天晴あっぱれ!」
「それは、天晴あっぱれのお心付きじゃ」
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
希代きたいの名木なれば「聞く度に珍らしければ郭公ほととぎすいつも初音はつね心地ここちこそすれ」と申す古歌にもとづき、銘を初音とつけたり、かほどの品を求め帰り候事天晴あっぱれなり
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
天晴あっぱれ夕雲のくれないに彩られつと見えたのは、塀にあふるるむらもみじ、垣根をめぐ小流こながれにも金襴きんらん颯とみなぎったので。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人はしばらくしてグード・モーニング流にこの難解な言句ごんくを呑み込んだと見えて「なかなか意味深長だ。何でもよほど哲理を研究した人に違ない。天晴あっぱれな見識だ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敵ながら天晴あっぱれと言いたい穏当な名答。ところが先生みるみる悄気しょげかえった。とうてい我々に理解のつきかねる深刻さをもって断頭台の人の如く顔色を改めたそうである。