大海原おおうなばら)” の例文
伊那丸いなまるは、日ならぬうちに気分もさわやかになった。それと同時に、かれは、生まれてはじめて接した、大海原おおうなばら壮観そうかんに目をみはった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい」「はい」海軍機は、すでに、魔の海——大渦巻の上空を去って、夕靄ゆうもやの深くとざした大海原おおうなばらを、西方指して飛んでいる。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
小鳥ことりは、たかそらからりようとして、びっくりしました。なぜなら、真下ましたには、ものすごい、大海原おおうなばらがあったからです。
小さな金色の翼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この海を Pacific Ocean と言います、太平洋とか大海原おおうなばらとか訳しますかな、米利堅メリケンの国まではさえぎるものが一つもありません。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あるいは大海原おおうなばらの波の上に、あるいは細渓川ほそたにかわの流れのほとりに、つきぬ睦語むつごとかたり明かし、東雲しののめの空に驚きては天に帰りぬ。
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
また、セント・ヘレナの島に幽閉ゆうへいされた英雄えいゆうが、荒寥こうりょうたる岩頭に立って、胸に雄志をいだきながら大海原おおうなばらをながめやっている姿を見たこともあるのです。
白、黒、黄、青、紫、赤、あらゆる明かな色が、大海原おおうなばらに起る波紋はもんのごとく、簇然そうぜんとして、遠くの底に、五色のうろこならべたほど、小さくかつ奇麗きれいに、うごめいていた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこは、見渡すかぎり、際涯さいがいもない大海原おおうなばらのまっただなかであった。ありえないことが起こったのだ。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ぼうぼうたる南太平洋の大海原おおうなばらに、もう月もなければ星もない。たけりくるうあらしにもまれて黒暗々こくあんあんたる波濤はとうのなかを、さながらの葉のごとくはしりゆく小船がある。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
津や浦のはてから果を一網ひとあみにもせい、人間夥間なかまが、大海原おおうなばらから取入れますものというは、貝にたまったしずくほどにいささかなものでござっての、お腰元衆など思うてもみられまい
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
がいして平安一路な航海、月や星の美しい甲板で、浴衣ゆかたがけや、スポオツドレスのあなたが、近くに仄白ほのじろく浮いてみえるのを、意識しながら、照り輝く大海原おおうなばらを、眺めているのは
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
すでに陸地はとおくに消えてしまって、真青な大海原おおうなばらと、空中にのびあがっている入道雲との世界であった。その中を、飛行艇サウス・クリパー機は翼をひろげ悠々と飛んでゆく。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
放埒ほうらつな、移りな、想像も及ばぬパッションにのたうち回ってうめき悩むあの大海原おおうなばら——葉子は失われた楽園を慕い望むイヴのように、静かに小さくうねる水のしわを見やりながら
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
暇乞いとまごいのめにわたくしたき竜神りゅうじんさんの祠堂ほこらむかって合掌がっしょう瞑目めいもくしたのはホンの一瞬間しゅんかん、さてけると、もうそこはすでにたき修行場しゅぎょうばでもなんでもなく、一ぼう大海原おおうなばらまえにした
しかし船は少しも水のなかへ沈みそうではなく、気泡きほうのように波の上をかすり飛ぶように思われるのです。その右舷は渦巻に近く、左舷にはいま通ってきた大海原おおうなばらがもり上がっていました。
彼は、酋長しゅうちょうソロ君の肩をたたいて、はるかにひろがる夜の大海原おおうなばらをゆびさした。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
それで、大海原おおうなばらで、帆船が汽船に出あうと
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
大海原おおうなばらの空えて、今日けふゆるゆる
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こうしてみみをすますと、大海原おおうなばら波音なみおとのように、あるいは、かすかな子守唄こもりうたのように、都会とかいのうめきが、おだやかな真昼まひる空気くうきつたってくるのです。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
下関といえば内海の果てでございます、それから玄海灘げんかいなだへ出ますと、もう波濤山の如き大海原おおうなばらなんでございますよ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見るも島影一つ見えぬ大海原おおうなばらに帆を揚げ風斜めに吹けば船軽く傾き月さえにさえて波は黄金を砕く
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして、階段を上がって、パッと眼界がひらけたとき、そこに広漠こうばくたる別の世界があるのです。東京の現実の町を無視して、見渡すかぎりの大平原や大海原おおうなばらがあるのです。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
草山の向うはすぐ大海原おおうなばらでどどんどどんと大きななみが人の世を威嚇おどかしに来る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
露子つゆこにはピアノのおとが、大海原おおうなばらわたかぜおとこえたり、岸辺きしべせるなみおとこえたのであります。
赤い船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この大海原おおうなばらの波の上で、静かに、安らかに、一生を送りたいという人がありますか……ありましたらいらっしゃい、町人方も、お百姓衆も、お小姓こしょうも、殿様も
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はなは、はじめてあたりをおどろいたのであります。なぜなら、まえには、大海原おおうなばらひらけていて、すぐはるかしたには、なみが、せて、しろくだけていたからであります。
小さな赤い花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かとりの海と人麿ひとまろは詠みました、かとりといえば、たれしもが当然、下総しもうさ常陸ひたち香取かとり鹿島かしまを聯想いたします、はるばるとえびすに近い香取鹿島の大海原おおうなばらに、大船を浮べて碇泊した大らかな気持
やがてあかかみ大海原おおうなばらなみあいだしずんでしまって、えなくなったのであります。
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この大海原おおうなばらの月の夜——何というすばらしいながめでしょう。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大海原おおうなばらは、まだよくねむりからさめきらぬもののようでした。
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)