向日葵ひまわり)” の例文
庭の桔梗ききょうの紫うごき、雁来紅けいとうの葉の紅そよぎ、撫子なでしこの淡紅なびき、向日葵ひまわりの黄うなずき、夏萩の臙脂えんじ乱れ、蝉の声、虫のも風につれてふるえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
女たちが彼の庭の向日葵ひまわりのやうに、彼の皮膚を黄色い花粉で一ぱいにしてゐた。彼は飽かなかつた。伊曾は野蛮な胸を有つてゐた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
向日葵こうじつあおいと書いて、ひまわりと読むんでしたね、その次は、に、、を、与えよ——続けて読むと『向日葵ひまわりに眼を与えよ』となるワ。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「新緑の間」だの「白鳥の間」だの「向日葵ひまわりの間」だの、へんに恥ずかしいくらい綺麗きれいな名前がそれぞれの病室に附せられてあるのだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
箱の頂きには土が盛られ、そこに植えられた十本の薬草、花開いて黄金色こがねいろ向日葵ひまわりのような形であったが、ユラユラと風に靡いている。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そばには長大ちやうだい向日葵ひまわりむし毒々どく/\しいほどぱいひらいて周圍しうゐほこつてる。草夾竹桃くさけふちくたうはながもさ/\としげつたまま向日葵ひまわりそばれつをなして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
瑠璃子るりこ夫人を、あの太陽に向って、豪然と咲き誇っている向日葵ひまわりたとえたならば、それとは全く反対に、鉢の中の尺寸の地の上に
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そしていまや、その横町の両側の花畑には、向日葵ひまわりだの、ダリヤだの、その他さまざまの珍らしい花が真っさかりであった。……
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
三藏の家の庭の向日葵ひまわりが一度𢌞ると三津の濱に二艘の汽船が著いて三藏は一册の小説を讀み終る。八月に入つてからは自ら筆を取つて書く。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
毎朝実枝にさんざんきたてられるまでクニ子はひと時花畑に入りこんでジキタリスの花の数をかぞえてみたり、向日葵ひまわりと背比べをしたり
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
語学的天才たる粟野さんはゴッホの向日葵ひまわりにも、ウォルフのリイドにも、乃至ないしはヴェルアアランの都会の詩にもすこぶる冷淡に出来上っている。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
曇暗どんあんの雲にかくれて、太陽の光も見えない夏の昼に、向日葵ひまわりはやはり日の道を追いながら、雨にしおれて傾いているのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
丁度便所の坑のそばに、実をむしり残した向日葵ひまわりの茎を二三本縛り寄せたのを、一本の棒に結び附けてある。その棒が石垣に倒れ掛かっている。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昼間は雪を太陽がキラキラてらして、向日葵ひまわりの種売りの女が頭からかぶっている花模様のショールの赤や黄の北方風の色。
夏の日ざかりに向日葵ひまわりが軒を越えるほど高く大きく咲いたのも愉快であったが、紫苑が枝や葉をひろげて高く咲き誇ったのも私をよろこばせた。
大村も英二も、火星を覗きにかけつける筈になっていた天文台のことも忘れ、夕闇に浮んだ窓辺の向日葵ひまわりをしのぐ巨大な菊の花に見入っていた。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
向日葵ひまわりの花を見ようとするとわれわれの目にはすぐにヴァン・ゴーホの投げた強い伝統の光の目つぶしが飛んで来る。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
古い家に向日葵ひまわりのような花を黄に大きく画いたのがあった。宿に著くと時がまだ少しあった。僕は顔を洗い勘定をすましそれから麦酒ビールを一杯飲んだ。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
大輪の向日葵ひまわりの、しおれきってうなだれた花畑尻はなばじりの垣根ぎわに、ひらひらする黒いちょうの影などが見えて、四下あたり汚点しみのあるような日光が、強くみなぎっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
向日葵ひまわりに大きい日輪のあるのが一万点、月見草に青い月の出ているのが五千点という風にして勝負を決めるので、余り巧劣によらない暢気な競技であった。
御殿の生活 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
向日葵ひまわりの化物のような真紅な蘇鉄花イリアム・ソニアがいたるところで悪夢のような毒々しい花を開き、二尺もある大蜻蛉ステーデクチヤ
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
光る鉄道線路を越えたり、群る向日葵ひまわりを処々の別荘の庭先に眺めたり、小松林や海岸の一端に出逢であったりして尋ね廻ったが、思い通りの家が見つからなかった。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
窓の下には背の低くて小さい向日葵ひまわりと、赤がちの黄の金盞花きんせんかが咲いていた。セーニャははいり口から飛び込むと、もう窓に顔を見せて、ぴっと下唇を尖らした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
何故向日葵ひまわりは黄色いか。何故草は緑か。何故すべてがかくるか。この疑問が、この神通力じんずうりき広大な魔物を苦しめ悩ませ、ついにみじめな死にまで導いたのであった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
鳶色の肌をしたこの魔法使は、皆の見る前で砂を盛った植木鉢のなかに、一粒の向日葵ひまわりの種子を蒔く。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
それへ向日葵ひまわりが秋波を送り、退屈し切った麦の穂が——ユウトラクトの停車場で、ハンブルグ行きの汽車を待つあいだ、私たちはかの親切なるアムステルダムの紳士
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
ちょうど庭一面に生い繁った仲間のけばけばしい花の間から太陽をめがけてぐっと伸び出ている大きな向日葵ひまわりのように、仮髪かつらの花壇からにゅっと現れ出ているのが
向日葵ひまわり毎幹まいかん頂上ちょうじょうただ一花いっかあり、黄弁大心おうべんたいしんの形ばんごとく、太陽にしたがいて回転す、し日が東にのぼればすなわち花は東にむかう、日が天になかすればすなわち花ただちに上にむか
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
もう一人の嫁のヷルヷーラは、開けはなした二階の窓際で、向日葵ひまわりの種子をかじっていた。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
門までわずか三四けん左手ゆんでほこらの前を一坪ばかり花壇にして、松葉牡丹まつばぼたん鬼百合おにゆり夏菊なつぎくなど雑植まぜうえの繁った中に、向日葵ひまわりの花は高くはすの葉のごと押被おっかぶさって、何時いつにか星は隠れた。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向日葵ひまわりが日の光の方に延びて成長してゆくように、神様のめぐみの導きの方へむかってお進みなさい。私はあなたの愛をもみ消そうとはもはやいたしません。それはあなたのものです。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
時とするとびっくりさせるような向日葵ひまわりがあったりカンナが咲いていたりする。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
私の幼い心は向日葵ひまわりのように、いつも太陽の方を向いています。私は自分の花のさかりをずっと先の方に望んでいるのですよ。ええ、それだけの力はなお自分のうちに感ぜられるのです。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
或日驟雨ゆふだちが晴れそこなつたまゝ、夜になつても降りつゞくやうな事でもあると、今まで逞しく立ちそびえてゐた向日葵ひまわりの下葉が、忽ち黄ばみ、いかにも重さうな其花が俯向いてしまつたまゝ
虫の声 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
わたしはただただ二等車に一人ぼっちでいたくなさに、彼と一緒に、向日葵ひまわりの殻の一ぱい吹き散らされた、煙草の烟のもう/\している、汚い三等車へ行き、彼の傍に並んで腰を下ろしました。
埃及エジプトと、羅馬ローマと、そうしてドラヴィデア王国の星たちが美々しく称神の舞踊をおどりつづけ、塔の根もとには向日葵ひまわり日輪にちりんへ話しかけ、諸国から遊学に来た大学者のむれが天文の書物を背負い
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
五郎は何となく、向日葵ひまわりの方に歩いていた。向日葵は盛りが過ぎて、花びらが後退し、種子のかたまりが、妊婦の腹のようにせり出している。美しい感じ、えている感じは、もうなくなっていた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
向日葵ひまわりの花のように光のなかにあゆむことが出来ると堅く信じます。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
向日葵ひまわり白蓮びゃくれんとが、血を含んで陽の中にふるえているようだ。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
太陽にそむきてさきし向日葵ひまわりはそのとがにしてしをれたるかも
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
向日葵ひまわり——ええ、あたしさえその気になれば。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ホテルでは、夫人の部屋は二階にあって、向日葵ひまわりの咲いている中庭に面していた。そしてその部屋の中に、ほとんど一日中閉じこもっていた。
聖家族 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
続いて豆をるような音がすると、驚き呆れている三人の眼の前へ、二尺四方もある向日葵ひまわりの彫刻が、床から抜け出して二三寸セリ上ります。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
夏の日ざかりに向日葵ひまわりが軒を越えるほど高く大きく咲いたのも愉快であったが、紫苑が枝や葉をひろげて高く咲き誇ったのも私をよろこばせた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
向日葵ひまわりの苗を、試みにいろんな所に植えてみた。日当たりのいい塵塚ちりづかのそばに植えたのは、六尺以上に伸びて、みごとな盆大の花をたくさんに着けた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
朝、洗面所で麻川氏にう。「僕、昨夜、向日葵ひまわりの夢を見ました。暁方あけがたまでずっと見つづけましたよ。」と冷水につけた手で顔をごしごしこすながら氏は私に云う。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大村と英二が思わず顔を見合せてしまったのは、つい庭先の、遅咲きの向日葵ひまわりだとばかり思っていた大輪の花が、そういわれて見れば如何いかにも菊に違いないことだった。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
或るひるすぎ青年共産主義同盟員コムソモーレツニキータを先にたてて、財産調べの委員三人が、裏庭の、枯れた向日葵ひまわりと素焼きの壺をひっかけた柵のむこうへ現われた時、アグーシャは
ピムキン、でかした! (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それは、輝く太陽よりも、咲誇る向日葵ひまわりよりも、鳴盛なきさかせみよりも、もっと打込んだ・裸身の・さかんな・没我的な・灼熱しゃくねつした美しさだ。あのみっともないさるの闘っている姿は。
流れに沿うた裏口のポーチも板張りの平面で、それに二、三段の無造作な周辺、水ぎわの緑の草、盛りの紅葵、あるいは向日葵ひまわり、様々の夏草の花壇、柳の根といった風である。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)