各自めい/\)” の例文
彼等は默然として、恰も各自めい/\の記憶を一心に辿つてゐる樣子であつた。チエスタ孃は頬杖をついて、遠くを見据ゑながら腰かけてゐた。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
谷底の石の間から湧く温泉の中へ吾儕は肩まで沈んで、各自めい/\放肆ほしいまゝに手足を伸ばした。そして互に顏を見合せて、寒かつた途中のことを思つて見た。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
讓渡ゆづりわたしの證書が作られて、セント・ジョン、ダイアナ、メァリー、私の四人は各自めい/\相當の資産を所有することになつた。
例へば我々が、我々の從事してゐる新聞の紙面を如何に改良すべきか、又は社會部の組織を如何に改造すべきかに就て、各自めい/\意見を言ひ合ふとする。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
殿様と家老と連歌師と、各自めい/\の境遇が思はれるやうな三人三様のふうは面白かつたが、それよりも面白いのは、その日少しも時鳥が啼かなかつた事だ。
下宿人は大勢居るのだが、大抵各自めい/\の部屋で自炊するか、さもなくば現在のおれのやうにそとへ出て食ふのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼等かれら各自めい/\つて種々いろ/\かくれた性情せいじやう薄闇うすぐらしつうちにこつそりとおもつて表現へうげんされてた。女房はようばう言辭ことば悉皆みんなかほたゞ驚愕おどろき表情へうじやうもつおほはしめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それで各自めい/\の持場が定まると、漁のすむまで他の場處へ釣糸を据ゑる事は出來ねえ、場處を變へることは出來ねえんだ。で、今度の俺の場處は船尾の方にあるんだ。
無邪氣むじやきなる水兵等すいへいら想像さうぞうするがごとく、其時そのとき光景くわうけいはまあどんなであらう。電光艇でんくわうてい評判ひやうばん櫻木大佐さくらぎたいさ榮譽ほまれ各自めい/\むねにある種々しゆ/″\たのしみ、それ管々くだ/\しくふにおよばぬ。
あれはまた、あれなりに露悪家だから面白い。昔しは殿様と親父おやぢ丈が露悪家で済んでゐたが、今日こんにちでは各自めい/\同等の権利で露悪家になりたがる。尤もわるい事でも何でもない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
汝ほどの學識ものしりは廣き東京みやこくほどにて、塵塚の隅にもごろごろと有るべし、いづれも立身出世の望みを持たぬはなく、各自めい/\ことはかはりて、出世の向きも種々さま/″\なるべけれど
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其處そこ各自めい/\が、かの親不知おやしらず子不知こしらずなみを、巖穴いはあなげるさまで、はひつてはさつつゝ、勝手許かつてもと居室ゐまなどのして、用心ようじんして、それに第一だいいちたしなんだのは、足袋たび穿はきもので、驚破すは
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうしてこれを持つて、私たちは森に行き、そこで各自めい/\一番好きな處を選んで、おなか一ぱい晝食ひるを濟ますのであつた。
『どうもみません。各自めい/\勝手にやることにしようぢや有ませんか。まあ、うして膳に向つて見ると、あの師範校の食堂を思出さずには居られないねえ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
芝居好の金持の若旦那とか——各自めい/\新しい時代の空氣を人先に吸つてゐると思ふ種々いろ/\の人が、時々日を期して寄つて、勝手な話をする會の事を書いたのがある。
無名会の一夕 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今日こんにち世界せかい海上かいじやうおいては、晝間ちゆうかん萬國信號ばんこくしんがうはあるが、夜間信號やかんしんがうは、各國かくこく海軍かいぐんおいて、各自めい/\秘密ひみつなる信號しんがういうするほか難破信號なんぱしんがうとか、いま海蛇丸かいだまるげた爆發信號ばくはつしんがうのやうな
それから又競走があつて、長飛ながとびがあつて、其次にはつち抛げが始まつた。三四郎は此槌抛つちなげに至つて、とう/\辛抱が仕切しきれなくなつた。運動会は各自めい/\勝手にひらくべきものである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
十二時頃になるとキキイを除いた三人の女は、派手はで身装みなりをして大きな帽の蔭に白粉おしろいを濃くいた顔を面紗ヹエルに包み、見違へるやうな美しい女になつて各自めい/\何処どこへか散歩に出てく。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それに就いて一応聴いておかなければならぬのは各自めい/\の志望で、女のうちきたいものを、お医者へやつても気の毒なやうに、英吉利好きの男を亜米利加へやつてもつまらなかつた。
趣向は何なりと各自めい/\に工夫して大勢の好い事が好いでは無いか、幾金いくらでもいゝ私が出すからとて例の通り勘定なしの引受けに、子供中間の女王によわう樣又とあるまじき惠みは大人よりも利きが早く
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『此奴は隨分皮肉に出來てる男さね。——つまり君のいふのは平凡主義さ。それはさうだよ。人間なんて、君、そんなに各自めい/\違つてるもんぢやないからねえ。』
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
無数の人間にんげん付着ふちやくした色が、広い空間くうかんで、絶えず各自めい/\に、且つ勝手に、うごくからである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
巨額きよがくの金を失つて、現在は、彼等に財産を分つ程に豐かではなかつたので、彼等は各自めい/\、自分で働いて行かなければならなかつたと、彼等はハナァに云つて聞かしたことがある。
『猫』の作者は、胃の悪い黒猫のやうに、座蒲団の上に円く胡坐あぐらを掻いて唯にやにや笑つてばかしで、別にむくれてゐる容子ようすもなかつた。芸妓達は各自めい/\色々な事を訊いたり、喋舌しやべつたりした。
二十日はおまつりなればこゝろ一ぱい面白おもしろことをしてと友達ともだちのせがむに、趣向しゆこうなになりと各自めい/\工夫くふうして大勢おほぜいこといではいか、幾金いくらでもいゝわたしすからとてれいとほ勘定かんでうなしの引受ひきうけに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あちらの隅に書物、こちらの隅に風呂敷包、すべて斯の部屋の内に在る道具といへば、各自めい/\勝手に乗出して踊つたり跳ねたりした後のやうで、其乱雑な光景ありさまは部屋の主人の心の内部なかく想像させる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)