叱咜しった)” の例文
互いに口角泡を飛ばして世の頽廃たいはいを怒り、人心の堕落と無恥を叱咜しったしている、「要するに彼らは猿だ、犬だ、豚だ」などとわめく。
蛤鍋はまなべかなんかをつつきながら、しきりと女に酌をとらせていたものでしたから、右門は大声に叱咜しったすると、まずその荒肝をひしぎました。
一箇の釜は飯が既にけたので、炊事軍曹が大きな声を挙げて、部下を叱咜しったして、集まる兵士にしきりに飯の分配をやっている。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
剃刀を持ったまゝわな/\ふるえているお久には、河内介の叱咜しったの声もおそろしかったが、それ以上に道阿弥の顔つきの方が物凄ものすごかった。
黄人こうじんの私をして白人の黄禍論こうかろんを信ぜしめる間は、君らはすべからく妻を叱咜しったし子をしいた太白たいはくを挙げてしかして帝国万歳を三呼さんこなさい。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
地唄に、三味がまじって、踊りはじめたが、心に憂悶のある光丸は、幾度も手をまちがえて、師匠から、はげしく叱咜しったされた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そこで、まっ先に、同輩たちを呼びたてながら、ただごとならぬ悲鳴、物音、叱咜しったの場所まで、ひと息に、けつけて来た。
頭上ずじょうの騒動はいよいよ爛熟らんじゅくし、ポルトガル人の叱咜しったする声にまじって、帆柱の倒れる音や重いものを曳きまわす音、大鋸おおがで木を挽く音、手斧で打ち割る音
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かくの如く勢強き恐ろしき歌はまたと有之間敷これあるまじく、八大竜王を叱咜しったする処、竜王も懾伏しょうふく致すべきいきおい相現れ申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
イエスは弟子たち一同を鋭く見まわしつつ言下に、「退さがれ、サタン! 汝は神のことを思わず、かえって人のことを思う」と強く叱咜しったし給うた(八の三一—三三)。
ふたりがびくびくもので、一、二寸前へ刻み出たとき、源十郎は、大刀につば鳴りをさせて叱咜しったした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こんな場合にいつも先陣を争う髯将軍はいかにせしぞとのちに聴けば、将軍、剛力の遅々ぐずぐずしゃくに触って堪らず、暫時しばし叱咜しった督励していた為に、思わず大いに遅れたという事だ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
その当惑した二人の者を、尚もなぶろうとでもするかのように、三度、勇ましい鬨の声が谷の四方から湧き起った。猟犬の猛々しく吠ゆる声。何者をか叱咜しったする人間の叫び。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
燕王戦んで営にかえるに、塵土じんど満面、諸将もる能わず、語声を聞いて王なるをさとりしという。王の黄埃こうあい天にみなぎるの中にって馳駆奔突ちくほんとつして叱咜しった号令せしの状、察すきなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
喃々なんなん私語しごする貴婦人達を叱咜しったして、「こんな豚共ぶたどもかせるピアノではない」とピアノのふたとざしてサッサと帰ったこともあり、普仏戦争当時、戦塵せんじんを避けたリヒノフスキー邸で
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
時計のゼンマイを巻きあげてすべての想像上の観客を叱咜しったし、独白すると同時に世界じゅうにむかって呼びかける——どういうわけがあるのかわたしは了解にくるしむのであるが
公子 外道げどう、外道、その女を返せ、外道。(叱咜しったしつつ、窓より出でんとす。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おい! みんな!」と、周囲にちらかっている乾児達を呼んだ。烈しいしかり付けるような声だった。喧嘩けんかの時などにも、叱咜しったする忠次の声だけは、狂奔している乾児達の耳にもよく徹した。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いつもならば戦場で千騎万騎を叱咜しったする坂東声を筒いっぱいにふり立てて、頭から噛みつくように罵りたけるわがままのあるじが、これほどの強い忍耐力をもって自分に対するというのが
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これが大ぜいの若者たちを自由自在に操縦もし叱咜しったもしたあの気嵩きかさで美しく張のあった母かと、呆れもし暗涙あんるいむせびながら、身震いが出るほど嫌味なものを感じますが、粗末にはできません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
係官は苦笑をしのびながら叱咜しったした。角帯の男の瞳には、その自分の権威なきみじめな様子を、想うゲーム取りに蔑んで見られはしまいかと云う馬鹿な危惧が、ありありと表われていたからである。
撞球室の七人 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
叱咜しったしていない時は笑っている。
とゴルドンが叱咜しったした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
すると美佐子は彼の叱咜しったをキッカケにして一層声を放って泣いた。「堪忍かにして下さい、あたしあなたに今日まで隠していたことがあるのよ」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一見剣客と思われる逞しい五分月代ごぶさかやきが、突如そこに姿を見せると、明らかに新手の助勢であることを示しながら、叱咜しったするように叫びました。
城内からあふれ出た若侍たちは、うろたえている人足どもを叱咜しったして、その空濠の底から、石に押しつぶされた工人こうじんの死骸を引きあげさせている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「泣蟲ッ、朝腹あさっぱらからんだ。」と父は鋭い叱咜しったの一声。然し、母上は懐の片手を抜いて、静に私のかしらを撫で
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
それまでにも、妙に、威圧されるものを感じていたのに、その叱咜しったの声は、完全に、時次郎を打ちのめした。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と強く自らを叱咜しったしている弥生は、それでも、これがあの栄三郎のおすまいかと思うと、今にも眼がしらが熱くなってきそうで、そこらにあるとぼしい世帯道具の一つ一つまでが
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
刀真っ向に振り冠り、暗々たる土蔵くら内に踏み入りながら、冬次郎は叱咜しったした。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
無法に住して放逸無慚むざん無理無体に暴れ立て暴れ立て進め進め、神とも戦え仏をもたたけ、道理をやぶって壊りすてなば天下は我らがものなるぞと、叱咜しったするたび土石を飛ばしてうしの刻よりとらの刻
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ツカツカと愛一郎のそばへ行くと、ドスのきいた声で、中村が叱咜しったした。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「起て」宗利は叱咜しったした、「沙汰するまで閉門を申付ける」
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また鈍根どんこんの子弟をじしめて、小禽しょうきんといえども芸道の秘事を解するにあらずや汝人間に生れながら鳥類にもおとれりと叱咜しったすることしばしばなりき
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その叱咜しったを、振り向けもしないのだ。兵は発狂状態をやがておこす。——二十八日合戦は、こうして加茂の一角で勝った。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と知るや、突然見物人を押し分けて前へ出ると、ぎらりおのれのわきざしを抜き放って、それを黙山の手に持たせながら、叱咜しったするように鋭く叫びました。
それをば無理無体に荒くれた馬子供まごども叱咜しったの声激しく落ちた棒片ぼうぎれで容捨もなく打ちたたく、馬は激しく手綱たづなを引立てられ、くつわの痛みに堪えられぬらしく、白い歯をみ、たてがみを逆立て
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まさに神采しんさい奕々えきえきとして、梟雄きょうゆう弾正太夫をさえ、叱咜しったし去らん勢いである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
マンは、毎朝、食事のとき、金五郎と勝則とを叱咜しったする。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それは瀕死ひんしの者のこえとは思えぬ烈しい叱咜しっただった
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
上眼づかいに栄三郎が叱咜しったする。源十郎は笑った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、心では叱咜しったしてみるものの、どうしようもないふるえを白い刀身にきざむだけで、いつまで斬ッてかかれなかった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恐らくは真向浴まっこうあびせにすさまじい叱咜しったの声をでも浴びせかけるだろうと思われたのに、主水之介の姿を見眺めるや大きく先ず莞爾かんじとして打ち笑ったものです。
馬上から大音を挙げて叱咜しったしたが、父はきっと正則を見上げて、某の運が拙いばかりに、汝を生け捕って此のようにすることが出来なかったのは残念であると、臆する色もなく云い返したと云う話。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「くどい!」と広太郎、腹に据えかね、はじめて叱咜しったを響かせた。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かれは自分を叱咜しったするようにうめいた。
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、路地の口から往来の左右を、いわゆる“こわらしき者”といわれる権柄けんぺい叱咜しったで、群集を、押しひらいた。
けしきばみながらどやどやと木刀小太刀だちひっさげて駆け迫ってきた門人どもに莞爾かんじとしたみを送ると、叱咜しったしたその一喝いっかつのすばらしさ! すうと胸のすくくらいです。
「あかん、あかん、弾けるまで夜通しかかったかてりや」と激しく叱咜しったする声がしばしば階下の奉公人共をおどろかした時によるとこの幼い女師匠は「阿呆あほう、何で覚えられへんねん」とののしりながらばち
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いかがでござるな!」と西川正休、叱咜しったするように声を掛けた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)