凜々りり)” の例文
子供の時分は色白な顔をしていたようでしたが、今逢う晃一郎氏はせ形の浅黒い見るからに凜々りりしい一高の学生になっているのです。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
中林先生の深い深い親切と智慧に、驚いて、感心してしまいながら、その乱れた髪毛かみの下に光る凜々りりしい瞳の光りを見上げていた。
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夢かとばかり、旅僧の手から、坊やを抱取った清葉は、一度、継母とともに立退たちのいて出直したので、凜々りりしく腰帯で端折はしょっていた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前髪を二つに分けた下から、美しい瞳が光っている。男らしさのうちに女らしさがあり、凜々りりしさのうちに狡滑こうかつらしさがあった。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わたくしの口から申すもはばかられますが、鼻筋凜々りりしく通り、眼は青みがかった黒い瞳で、口元の締り方に得も云われぬ愛嬌がございます。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
若党は百姓の出でしたが、面つきだって凜々りりしいところがあり、それに、がっちりしたいい健康と、それに叶う肉体を持っておりました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
翌日の昼はゴムマリがはずむような勢いでどこかのオバさんたちにせがれ凜々りりしさを吹聴して、あることないこと喋りまくっているのである。
青鬼の褌を洗う女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼女のひとみの底に刻みつけられた凜々りりしく逞しい小姓の姿の中に、昨日までの藤作のおもかげは、もはや探るべくもなかった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
わずかな間に、あんな凜々りりしい侍も病には勝てないで、こうも瘠せ細るものであろうか——とお粂が今更のような考えごと。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、赤い布で凜々りりしく髪を包んだ二十二三のこれも元気な婦人労働者が、何冊もの本を小脇にかかえて入って来た。
明るい工場 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
いや、大臣様でさえ、あまりの不思議に御驚きになって、暫くはまるで夢のように、髪長彦の凜々りりしい姿を、ぼんやり眺めていらっしゃいました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はもはや青ざめてもいず、また、うち沈んでもいなかった。その凜々りりしい顔は、若さの光に輝き、よろこびがその大きな黒い眼に生き生きとしていた。
凜々りりしい、澄んだ、ピンと張ったプラチナ線のような声です。明日は、マレー沖海戦だな、あれを歌いますね。でもね、明日は一箇所かしょまちがえます。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
馨子さんは実にやさしい方で、其上男も及ばぬ凜々りりしいたましいを持ってお出でした。春の初に咲く梅の花の様な方でした
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
忍び返しを越えて洩れる二階の灯を肩から浴びた黒紋付きに白博多のその侍は、呼吸を切らしている伝二郎の眼に、この上なく凜々りりしく映じたのだった。
やくそこそこの年配でしょうが、苦労をしたせいか、美しいうちにも、何となく凜々りりしいところのある娘です。
それで、大火となると、町家の騒ぎはいうまでもないが、諸侯だいみょうの手からも八方から御使番おつかいばんというものが、馬上で、例の火事頭巾ずきんを冠り、凜々りりしい打扮いでたちで押し出しました。
彼の心に描く本居宣長とは、あの先師平田篤胤に想像するような凜々りりしい容貌ようぼうの人ともちがって、多分に女性的なところを持っていた心深い感じのする大先輩であった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
応答の内にはいずれも武者気質かたぎ凜々りりしいところが見えていたが、比べ合わせて見るとどうしても若いのは年を取ッたのよりまだいくさにも馴れないので血腥気ちなまぐさげが薄いようだ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
年は二十はたちを越ゆるようやく三つ四つ、背高く肉やせたり、顔だち凜々りりしく人柄も順良すなおに見ゆれどいつも物案じ顔に道ゆくを、であうこの地の人々は病める人ぞと判じいたり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ここは京都二条通、辻に佇んだ一人の女、凜々りりとして説いている。年の頃は二十歳はたちぐらい、その姿は巫女、胸に円鏡をかけている。頭髪かみつかねて背中に垂らし、手に白綿しらゆうを持っている。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの時分やや小太りに肥えて居た女は、神々こうごうしいまでせて、すッきりとして、睫毛まつげの長い潤味うるみを持った円いまなこが、ぬぐうがごとくにえ返り、男を男とも思わぬような凜々りりしい権威さえそなえている。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私の眼は富士の左の方に一際高く挺立ていりつしているかと想われるや円錐形の山に惹き付けられた。北の槍ヶ岳のように怪奇かいきではないけれども、凜々りりしく引き締った威厳のある山だ。それに高さも高い。
北岳と朝日岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
風にもめげぬ凜々りりしさよ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
殿下は二十七歳、白晳はくせきひたい、亜麻色の髪涼やかに、長身の眼許めもと凜々りりしい独身の容姿は、全丁抹デンマーク乙女のあこがれの対象でいらせられる。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と驚いた二人の壮士は、その行手の扉が風もないのに向うから開いて、そこから狼藉者呼ばわりの凜々りりしい声を聞きました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何処どこかへ発散して行くと同時に、壁画は、一層、白昼の大胆な凜々りりしさとなまめきとの魅惑を拡大して、宗右衛門の眉間みけんに迫つて来たのであつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
恋人の凜々りりしい性格や、その男性的な容貌ようぼうや、その他いろ/\な美点が、それからそれと、彼女の頭の中に浮かんで来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
演壇では、筒袖つつそでの少年が薩摩さつま琵琶びわいて居た。凜々りりしくて好い。次ぎは呂昇の弟子の朝顔日記浜松小屋。まだ根から子供だ。其れから三曲さんきょく合奏がっそう熊野ゆや
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
といいかけてまず微笑ほほえみぬ。年紀とし三十みそじに近かるべし、色白くかおよき女の、目の働き活々いきいきして風采とりなりきゃんなるが、扱帯しごききりりともすそを深く、凜々りりしげなる扮装いでたちしつ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それにおうじて、あなたこなたのうちから、ワラワラワラけだしてくる。みんな同じげがみの少女、みんな同じ年ごろの少女、みんな凜々りりしい紅頬こうきょうの少女。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると長靴に乗馬服凜々りりしく少し汗ばんで、今遠乗りから帰って来たばかりという形をして居ります。
古銭の謎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
可愛いピオニェールになってる自分の息子や娘達が凜々りりしく隊伍を組んで雪ん中を「酔っ払い親父を排撃する!」って赤いプラカート担いで行進されちゃ、参るのさ
正月とソヴェト勤労婦人 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
書生は呆気あっけにとられたなり、思わず彼女の顔を見つめました。やっと木樵りを突き離した彼女は美しい、——というよりも凜々りりしい顔に血の色を通わせ、じろぎもせずにこう言うのです。
女仙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうしてどうした訳か、その上衣の上から第一番目の鈕は金剛石ダイヤモンドと違って一輪の大きな白薔薇を付けていましたが、それが又誠によく似合って、まぶしい位凜々りりしく華やかに見えました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
靴無き足の凜々りりしさよ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
優しいジーナは、あのあでやかな眼に涙ぐんで、凜々りりしいスパセニアは、涼しい瞳に一杯涙を溜めて、さぞびっくりして喜んでくれるでしょう。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
よゝと泣き崩れた瑠璃子は、再び自分自身を凜々りりしく奮い起して、女々しく泣き崩れているべき時ではないと思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その笑い方はやや鼻にかかる笑い方で、凜々りりしい小ナポレオン式の面貌とはおよそ縁のない意気地のなさであった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
黒髪をつかねて肩に懸けたるのみ、それかと見れば、おもかげは舞台なりし牛若の凜々りりしげなるには肖で、いと優しきが、涼しき目もて、振向きたるわが顔をば見し。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きょくの雪の様にいさゝか青味を帯びた純白のはなびら芳烈ほうれつな其香。今更の様だが、梅は凜々りりしい気もちの好い花だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
少年のひとみには、ゆくてを楽しむ心しかない。実に嘻々ききたるものである。わらじを穿く、刀を帯びる、笠を持つ。そうした旅装も少年の夢を凜々りりしく駆りたてる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男の子に、私はやはり凜々りりしい資質、英気を求めていて、太郎にそれが欠けていると腹立たしい。可愛さの逆の面で。女の子に(赤坊だからだけれど)は初めからちがったところがあって。
あの芳流閣の一番頂上の真青な屋根瓦の上にまたがって、銀色の刀を振り上げております犬塚信乃の凜々りりしい姿や、いかめしい畠山重忠の前で琴を弾いております阿古屋あこやの、色のさめたしおらしい姿を
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの凜々りりしい、水のしたたるような若い殿様ぶりが、今は頭の髪から着物に至るまで、まるで打って変って異人のような姿になり、その上に昔は、仮りにも一国一城を預かるほどの格式であったが、今は
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
右の脇腹わきばらの傷口を、両手でじっと押えながら、全身をきむしるほどの苦痛を、そのかぬ気で、その凜々りりしい気性で、じっとこらえているのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わたくしをだん/\避けて行く葛岡の素振そぶり、凜々りりしい運動の時間とは打って変って女らしさを見せる安宅先生。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
優しい眼……凜々りりしい口許くちもと……よく透る声……さっきまでの御親切だった殿下と、何の変ったところもない。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
凜々りりしく眼のあざやかなる、水の流るるごときを、まじろぎもせで、正面に向いたる、天晴あっぱれ快き見得なるかな。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれど、わたしを真の子のように可愛がって下された王允様は、行く末は必ず、凜々りりしい英傑の士を選んでかしずけてやるぞ——といつも仰っしゃって下さいました。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)