のび)” の例文
とちょっと考えたもんだから、涎も拭かずに沈んでいると、長蔵さんが、ううんとのびをして、寝たままにぎこぶしを耳の上まで持ち上げた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(ファウストは依然鏡の中の像を見ゐる。メフィストフェレスは椅子の上にてのびをし、払子を揮ひつゝ語り続く。)
云出しければお光は大いに驚怖おどろきて是は/\忠兵衞樣をつと道十郎不慮ふりよのことにて死去しきよ致してより八ヶ年の其間そのあひだせがれの脊だけのびるのをたゞたのしみに此世を送り人に後指うしろゆび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
前垂まへだれがけの半纏着はんてんぎ跣足はだし駒下駄こまげた穿かむとして、階下かいかについ下足番げそくばん親仁おやぢのびをするに、一寸ちよつとにぎらせく。親仁おやぢ高々たか/″\押戴おしいたゞき、毎度まいどうも、といふ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
パタリと話がんだ。雪江さんも黙って了う、松も黙って了う。何処でか遠方で犬の啼声が聞える。所謂いわゆる天使が通ったのだ。雪江さんはあくびをしながら、ついでのびもして
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
野干獅我が忠告を容れぬから碌な事が起るまいと呟く、どんな事が起るかと問うと虎が巣から出てのびあくびし四方を見廻し三たび吼えて汝の前に来り殺さんと欲する事疑いなしと言うた
お孃さんの玉ちやんは、臺所の聲よりは、おかあさんの聲が耳にはいつたので、可哀らしい、むく/\とふとつた拳を二本にゆうと出してのびをして、おかあちやん讓りの黒い目をぱつちりいた。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
すべてが順当に行った。播いた種はのびをするようにずんずん生い育った。仁右衛門はあたり近所の小作人に対して二言目には喧嘩面けんかづらを見せたが六尺ゆたかの彼れにたてつくものは一人もなかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あしを延しながら一つのびをして、撓垂しなだれるように奥様の御膝へ乗りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
暫時しばらくすると、ひとり書籍ほんを草の上に投げ出して、のびをして、大欠おおあくびをして
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それから毎日かかさずに注意していると、葉と葉との間からは総て蕾がめぐんで来た。それが次第に伸びてひろがって来た。もうこうなると、発育の力は実に目ざましいもので、茎はずんずんとのびてゆく。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、のびをしまして、にゅっと高くなって
「ああしんど」 (新字新仮名) / 池田蕉園(著)
ト平気でのびをしながら、また欠伸をした。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
のびをした手で腕をさずりながら
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「代助はまだかへるんぢやなからうな」とちゝが云つた。代助はみんなから一足ひとあしおくれて、鴨居かもゐうへに両手がとゞく様なのびを一つした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今まではさも殊勝なりし婦人おんないなずまのごとき眼を新聞に注ぐとひとしく身をそらし、のびを打ち、冷切ひえきったる茶をがぶり、口に含み、うがいして、絨毯じゅうたんの上に、どっと吐出はきいだ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弓のようにってのびをしながら、大きな口をアングリいてあくびをする所なぞは、が眼にもあんまりみっとも好くもなかったから、父は始終厭な犬だ厭な犬だと言って私を厭がらせたが
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
代助はながのびを一つしてあがつた。風呂場で身体からだいてゐると、門野かどのすこ狼狽うろたへた容子でつて
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
空へ上れば峰へのびる、向うへかかれば海へ落ちて、いつ見ても、この水に、月の影が宿りません。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
枕元には新聞が二枚そろえてあった。代助は、門野が何時、雨戸を引いて、何時新聞を持って来たか、まるで知らなかった。代助は長いのびを一つして起き上った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大漢子おほをのこ兩手りやうては、のびをして、天井てんじやう突拔つきぬごとそらざまにたなかゝる、と眞先まつさきつたのは、彈丸帶たまおびで、外套ぐわいたうこしへぎしりとめ、つゞいてじうろして、ト筈高はずだかにがツしとけた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しゃがんだ。煖炉敷ハースラッグの前でしゅっと云う音がする。乱れた紙は、静なるうちに、惓怠けったるのびをしながら、下から暖められて来る。きな臭い煙が、紙と紙の隙間すきまのぼって出た。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(へん、ちゃぶ屋の姉さんじゃあるまいし、夜更よふけにお客は取りませんからね、昼間寝たりなんかしませんよ、はい、憚様はばかりさまでございますよ、いたのはそこに出してあら、)といいずてにのびをして
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男はしきりに烟草たばこをふかしてゐる。長い烟りを鼻の穴から吹き出して、腕組をした所は大変悠長に見える。さうかと思ふと無暗に便所か何かに立つ。立つ時にうんとのびをする事がある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
小六は大きなのびを一つして、にぎこぶしで自分の頭をこんこんとたたいた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小六ころくおほきなのびひとつして、にぎこぶし自分じぶんあたまをこん/\とたゝいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)