伏屋ふせや)” の例文
ひた土にむしろしきて、つねに机すゑおくちひさき伏屋ふせやのうちに、竹いでて長うのびたりけるをそのままにしおきて
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
しやちくぢらなかへ、芝海老しばえびごとく、まれぬばかりに割込わりこんで、ひとほつ呼吸いきをついて、橋場はしば今戸いまど朝煙あさけむりしづ伏屋ふせや夕霞ゆふがすみ、とけむながめて、ほつねんと煙草たばこむ。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これなどは明らかにしず伏屋ふせやの最も凡庸なる者の生活であって、和歌にはすでに見離され、俳諧はなおその客観の情趣を、取り上げてあわれとながめているのであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あのづるへんわが故國ここくでは今頃いまごろさだめて、都大路みやこおほぢ繁華はんくわなるところより、深山みやまをくそま伏屋ふせやいたるまで、家々いへ/\戸々こゝまる國旗こくきひるがへして、御國みくにさかえいわつてことであらう。
道路をはさむ畑に薄夜の靄気あいきがこめて、はるかの伏屋ふせや夕餉ゆうげのけむりが白く長くたなびくばかり——法恩寺橋のたもとに、宿なし犬が一匹、淡い宵月の面を望んで吠え立てていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
殺風景だと思っていたコンクリートの倉庫も見慣れるとしず伏屋ふせやとはまたちがった詩趣や俳味も見いだされる。昭和模様のコーヒー茶わんでも慣れればおもしろくなるかもしれない。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
死んでもうらみはない。しず伏屋ふせやでいたずらに、百年千年生きたとて何となろう。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
口の減らないじじいめが、何を痴事たわごとかしおる! 我が日本ひのもとは神国じゃ。神の御末みすえは連綿と竹の園生そのうに生い立ちおわす。海人あまが潮汲む浦の苫屋とまやしずまき切る山の伏屋ふせや、みなこれ大君おおぎみの物ならぬはない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
都大路みやこおほぢに世の榮華をつくすも、しづ伏屋ふせやあぜ落穗おちぼひろふも、暮らすは同じ五十年の夢の朝夕。妻子珍寶及王位さいしちんぱうおよびわうゐ命終いのちをはる時に隨ふものはなく、野邊のべより那方あなたの友とては、結脈けちみやく一つに珠數じゆず一聯のみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
数ならぬ伏屋ふせやにおふる身のうさにあるにもあらず消ゆる帚木
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「まあ、ようこそ。こんな伏屋ふせや勿体もったいない」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天離あまさかひな伏屋ふせやも、百敷もゝしき大宮内おほみやうち
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
道ばたの雪の伏屋ふせやの鬼やらひ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
よそに聴く安き伏屋ふせや
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
くら昨日きのふ今日けふ千騎せんきあめおそふがごとく、伏屋ふせやも、たちも、こもれるとりでかこまるゝしろたり。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夕貌ゆうがおの花しらじらと咲めぐるしず伏屋ふせやに馬洗ひをり
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
あまさかひな伏屋ふせやも、百敷ももしき大宮内おほみやうち
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ひなくて雛の餅伏屋ふせやかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
水戸黄門が竜神の白頭しろがしら床几しょうぎにかかり、奸賊かんぞく紋太夫を抜打に切って棄てる場所に……伏屋ふせやの建具の見えたのは、どうやらびた貸席か、出来合の倶楽部などを仮に使った興行らしい。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むしろ垂れ雪の伏屋ふせやといふ姿
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
みづを……みづをとたゞつたのに、山蔭やまかげあやしき伏屋ふせや茶店ちやみせの、わか女房にようばうは、やさしく砂糖さたうれて硝子盃コツプあたへた。藥師やくし化身けしんやうおもふ。ひとなさけは、ときに、あはれなる旅人たびびとめぐまるゝ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
伏屋ふせやかどの花も、幽霊のよろいらしく、背戸の井戸の山吹も、美女たおやめの名の可懐なつかしい。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両側の伏屋ふせやの、ああ、どの軒にも怪しいお札のいぬが……
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)