不吉ふきつ)” の例文
此の婚礼に就いて在所の者が、先住のためしを引いて不吉ふきつな噂を立てるので、豪気がうき新住しんじう境内けいだいの暗い竹籔たけやぶ切払きりはらつて桑畑にしまつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
そうして、同時にまた、そう云う怖れを抱くことが、既に発狂の予告のような、不吉ふきつな不安にさえ、襲われた。「発狂したらどうする。」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
葬送曲だの墓参だのと不吉ふきつなものばかり並べて、放送局も今夜はなんという智慧のないプログラムを作ったのだろう。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
くろとりという言葉ことばは、なにか不吉ふきつなことのように、みんなのみみかれたのです。けれど、だれもこころから、ほんとうにしんずるものはありませんでした。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あゝ、不吉ふきつうへにも不吉ふきつ賓人まれびとよ、わたくしこゝろ千分せんぶんいちでもおさつしになつたら、どうか奧樣おくさま日出雄樣ひでをさまたすけるとおもつて、今夜こんや御出帆ごしゆつぱんをおください。
「これでしばらくお目にもかかれぬのだ。たもとを分つと申しては不吉ふきつめくが当分はまずお別れ……。陣中何もないが」
そして、ものすごい音や、おそろしいさけび声や、ぞっとするような笑い声や、不吉ふきつな鳴き声にみちみちています。
若い者達がシャクの話に聞きれて仕事をおこたるのを見て、部落の長老連がにがい顔をした。彼等の一人が言った。シャクのような男が出たのは不吉ふきつきざしである。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
不吉ふきつなことをいうようだが、浜村屋はまむらやさんはひょっとすると、あのままいけなくなるかもれないからの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今度こんだおればんかもれない」とことがあつた。御米およねはそれを冗談じようだんともき、また本氣ほんきともいた。まれにはかくれた未來みらい故意こい不吉ふきつ言葉ことばとも解釋かいしやくした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
近頃日光の御山おやましきりに荒出して、何処どこやらの天領ではほたるかわず合戦かっせん不吉ふきつしるしが見えたとやら。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのとき大僧正だいそうじょうは、王さまに不吉ふきつなことばをささやきました。けれどもそれは王さまの心の中へまでははいりませんでした。結婚の式はぶじにあげられることになりました。
奈良街道ならかいどうからでは、途中でいざりやめくらに会うし、大阪口おおさかぐちから行っても、やはりめくらやいざりに会うので、どちらとも旅立ちには不吉ふきつである、脇道わきみち紀井街道きいかいどうをとおって行けば
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
はなはだ例が不吉ふきつであるが、精神病院にいってみると、やさしい女の乱暴するのをめるために大男が五人もかかることを見ると、いかに女の筋肉きんにくに力のひそんでいるかに驚かされる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
えたいの知れない不吉ふきつな塊が私の心を始終壓へつけてゐた。焦燥と云はうか、嫌惡と云はうか——酒を飮んだあとに宿醉ふつかよひがあるやうに、酒を毎日飮んでゐると宿醉に相當した時期がやつて來る。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
「死んでも? はて、何を不吉ふきつなことを! 死なばともにだ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
むかしから、人魚にんぎょは、不吉ふきつなものとしてある。いまのうちに、もとからはなさないと、きっとわるいことがある。」と、まことしやかにもうしたのであります。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一本歯の抜けたような松山の空席くうせきが、帆村の眼に或るいやな気持をよびおこさしめた。それは不吉ふきつな風景である。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それが、翌日になると、また不吉ふきつな前兆が、加わった。——十五日には、いつも越中守自身、麻上下あさがみしもに着換えてから、八幡大菩薩に、神酒みきを備えるのが慣例になっている。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
賓人まれびとよ、わらごとではありませぬ、こくといふのは、一年中いちねんちゆうでも一番いちばん不吉ふきつときなのです、ほか澤山たくさんあるのに、このこの刻限こくげん御出帆ごしゆつぱんになるといふのはんの因果いんぐわでせう
四白というのは、鹿毛かげ栗毛くりげをとわず、馬の四つ脚のひづめから脛に、そろって、白い毛なみを持っている特徴をいうのである。ごくまれにしかないが、あれば、不吉ふきつだと、むかしからいわれている。
さかさ屏風……不吉ふきつッ!
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この救援隊の十台のロケット艇がエフ十四号飛行場を出発するとき、地上では不吉ふきつ流言りゅうげんがおこなわれたが、それがとうとうほんものになったようでもある。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
このご結婚けっこんは、あかくろとの結婚けっこんです。あかが、くろ見込みこまれている。おひめさま、あなたは、皇子おうじわれることとなります。この結婚けっこん不吉ふきつでございます。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そう云う事は、林右衛門の代から、まだ一度も聞いた事がない。しかも今日は、初めて修理が登城をした日である。——宇左衛門は、不吉ふきつな予感に襲われながら、あわただしく佐渡守の屋敷へ参候した。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「やあ、民蔵たみぞうなんじはなにをもって、さような不吉ふきつをもうすのじゃ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、あかいろうそくは、不吉ふきつということになりました。ろうそくとしより夫婦ふうふは、かみさまのばちたったのだといって、それぎり、ろうそくをやめてしまいました。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
黒いリボンは、お葬式のときにだけつかう不吉ふきつなものだった。その不吉な黒リボンが花輪にむすびつけてあるのだから、佐伯船長以下一同がいやな顔をしたのも無理ではない。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「まッ、不吉ふきつな!」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、例の不吉ふきつ定刻ていこくにわざわざ合わせるようにして、この第三十九号室へ入ってきたというところから考えると、いよいよこの中の誰かが、死の国へ送りこまれるらしい。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いわつばめは、不吉ふきつ予感よかんがしたように、いきいきとしたかおをくもらしました。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
不吉ふきつ予感よかん……
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)