“こけ”のいろいろな漢字の書き方と例文
語句割合
73.7%
白痴7.8%
蘚苔3.2%
虚仮2.5%
此処2.1%
1.6%
1.4%
1.4%
蘇苔0.9%
地衣0.7%
(他:21)4.7%
(注)作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
しげき若葉をる日影の、錯落さくらくと大地にくを、風は枝頭しとううごかして、ちらつくこけの定かならぬようである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあいだから、夕陽ゆうひは赤くななめにこけの野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のようにゆれて光りました。
鹿踊りのはじまり (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
朽木くちきの根から、滴々てきてきと落ちている清水にのどをうるおそうとして、ふと、こけや木の葉に埋もれている道しるべの石をみると、
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くらものはあるまいとてくちぜいねばわがおもしろにひと女房にようぼひようしたてる白痴こけもあり
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「なあ、こいつ白痴こけじゃないのかい?」と彼は、リャボーヴィチの前に立停ったり、メルズリャコーフの前に立停ったりしながら言うのだった。
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼はへら/\/\と笑ったあとは、寂しくぽかんとした平常の少年に還り、たゞ始終、誰かより立優り度い白痴こけの一念通りに動いて行きます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いや、時には、もつともつと身体を汚してみないかと、ひそかに自分にけしかけて、じつと蘚苔こけのやうなものが、皮膚に厚くたまるのを楽しんでゐるかに見えたりする。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「僕らは、あの危険な開口をのぼり、大烈風をやぶった。それだけでも、前人未達の大覇業だいはぎょうということができる。帰ろう。今夜は蘚苔こけのなかへ寝て、明日は戻ろう」
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
甲斐は断崖の途中で立停り、その古い樫や、がけりついている蘚苔こけや、歯朶しだなどを眺めやった。
「親分、こう言ったわけだ。三輪の親分に虚仮こけ扱いにされても腹は立たねえが、親分の事まで何とか言われちゃ我慢がならねえ。それに——」
我が大王おほきみが母王とするがごとく従遊したまひ、痛酷いたましきことし。我が大王の告げたまふところに、世間は虚仮こけだ仏のみれ真なりと。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
果してしそうなら、その人生の贅沢の道具に使われている葛岡は勿論のこと、葛岡のヒューマンのために義憤を起したつもりのわたくしまで、このくらい虚仮こけな役割りはございますまい。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
正直に打明ぶんまけて旦那さまに話いして、私が千代に代って切られた方がいと覚悟をして此処こけえ出やした、さアお切んなせえ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
母「あゝ薄暗い座敷だな、行灯あんどんを持って来な……お若/\、此方こっちへ出ろよ、此処こけへ出ろ、う少し出てよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
太「そんな事を言っちゃア心細くなって仕様がねえ、ばゝあや、多助が高平までくって寄ったから、此処こけうよ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
由「へえ、こりゃアどうも深い訳があるに違いないのでしょう、どうも此の鯉のこけばかりを煮て出すなんてえのは恐れ入りました、不思議で、どういう訳で、えゝ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
幸「鯉こくなどは此処へはいのが来る、信州から来るのは不良いけねえのがあるという……これは結構……ウム鯉のこけなどを引いたのア不思議で、鱗がちっとも無いねえ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こけのある鉛色なまりいろ生物いきもののやうに、まへにそれがうごいてゐる。
といいながら車窓から首を突出して、服部時計店の時計台を見上げていたが、何を見たのか、ア、ア、ア、と息をひいてこけのように時計台を指さす。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
山木はこけのように口を開いて茫失していたが、やがて眼性の悪い細い瞼の間からポロポロ涙をこぼしながら力任せに踏絵を抱きしめ、
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それを言うのもまた、実に、てれくさくて、かなわぬのだが、私はこけの一念で、そいつを究明しようと思う。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
胸傍むなわきの小さなあざ、この青いこけ、そのお米の乳のあたりへはさみが響きそうだったからである。辻町は一礼し、墓に向って、きっといった。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひよつと覗き込んだ目と同時に、足が踏み込んだ庭らしい所は、やはり黴くさい、こけらしい物ものつて居らぬ、何となく、醤油くさく味噌くさい、土も赤ちやけ、煤ぼけた地面であつた。
戞々たり 車上の優人 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
冷たいかえでの肌を見ていると、ひぜんのようについているこけの模様が美しく見えた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
そして、その罰で、蘇苔こけみたいに皮膚の上に厚くなる垢のやうなものが、心の底にも重つ苦しくたまつて来るのであるが、普通なら耐へられないところを、無神経を装つて鈍感でゐる。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
そのあとにははやくも青々あおあおとした蘇苔こけ隙間すきまなくしてるのでした。
蘇苔こけ付きの石燈籠どうろうに灯がはいっていて、それがときおりまたたくのが見えた。
この地衣こけのために、いははいろ/\うつくしい模樣もようもんあらはしてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
このたい上部じようぶはそれこそ地衣こけもないはだかのまゝの岩石がんせきです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
海藻かいさう地衣こけがこの浮標うき垂下たれさがつてゐる。
さしあげた腕 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
「またその身にこけまた檜榲ひすぎい」というのは熔岩流の表面の峨々ががたる起伏の形容とも見られなくはない。
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
またその身體からだにはこけだのひのき・杉の類が生え、その長さはたにみねつをわたつて
ここに「その形はいかに」と問ひたまひしかば、「そが目は赤かがちの如くにして身一つに八つのかしら八つの尾あり。またその身にこけまた檜榲ひすぎ生ひ、そのたけたに八谷を度りて、その腹を見れば、悉に常に垂りただれたり」とまをしき。
と云う。その変物だという中には、間抜け、黙んまり棒、時によると馬鹿こけかもしれないという意味が籠っている。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
お石は、唇を噛んでジリジリしながら、どう考えても馬鹿こけ阿呆あほうに違いない自分の亭主を呪った。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「こげえな家が何でえ! 畜生! 夜もねねえでかせいだんなあ何のためだ、ひとう馬鹿こけにしてけつかる」
田舎風なヒューモレスク (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
『世の中には、呆痴こけがいる。人へ音物いんもつをよこすに、餌を食わせたり、世話がやけたり、その上に、やがては死ぬときまっている厄介物を贈ってくる奴があろうか、いくら、お上の畜類保護令にびるとは申せ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「口でいうお惚気のろけぐらいは、わっしも寛大に扱いましょうよ。が——だ、ただしだ、そんな方へ体ぐるみ、籠抜かごぬけにすっぽ抜けようなんてもくろみは、ムダですからおよしなせえ、エエ、悪いこたあ言いません。世の中に骨折損というくれえ、呆痴こけな苦労はないからなあ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨の日には、こずえから雨滴あまだれがボタボタ落ちて、苔蘚こけの生えた坊主の頭顱あたまのような墓石はかは泣くように見られた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
要垣かなめがき緑葉みどりばかこまれた墓があるかと思ふと、深い苔蘚こけに封じられた墓が現はれて来た。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
麗しい五月の 地苔こけ
五月の空 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
峯「馬鹿にしちゃアいけねえ、そんなら何故中の条の木村屋で左様そう云わねえ、木村屋で挽けませんと云えば他の車を頼もうじゃアねえか、からかっちゃアいけねえぜ、東京者だって東京ばかりの車を挽くんじゃアねえ、此地こけえ来て渋川で一円に一升の仲間入をして居る峯松だ、大概てえげえにしやアがれ、馬鹿にするな」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
隠すも何もねえ、此処なうちへ来て芸妓げいしゃねえって皿小鉢をほうって暴れるので、仕方がねえから、わし用があって此家こけえ来て居りやんしたが、見兼て仲へ這入った処が、わし胸倉アるから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くの「はいうだろうと思って……知って居りやす、わしはもうとても助からぬ、こんな事もあろうかと思ったから、私は此家こけえ間違の出来でかさねえように頼みに来ただけれども、最早仕様がねえが、おさだが可愛相だよ……お父さんの身を貴方あんた、心にかけて大切でえじにしなんしよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「これは奇妙だ、この瓶の口栓キルクはすでに腐っておる、そのうえ瓶の外にしている海苔こけは、決してこの近海に生ずる物ではない、南洋の海苔こけだ、南洋の海苔こけだ、このような海苔こけの生じているので見ても、この瓶のよほど古い物である事が分る、思うに難破船の甲板からでも投げたものだろう」と
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「それが、……赤斑あかふもあれば、死顔は痴呆こけのよう。下痢くだしたものは、米磨汁とぎじるのようで、嘔吐はいたものは茶色をしております。どう見たって、虎列剌に違いねえので……」
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
亭主ていしゆは五十恰好がつかういろくろほゝこけをとこで、鼈甲べつかふふちつた馬鹿ばかおほきな眼鏡めがねけて、新聞しんぶんみながら、いぼだらけの唐金からかね火鉢ひばちかざしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「そなたのやうな生物しり。……。唐山にはかういふ故事がある。……。和漢の書を引て瞽家こけおどし。しつたぶりが一生のきずになつて……」というのである。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
其間をトマムの剰水あまり盆景ぼんけい千松島ちまつしまと云った様な緑苔こけかたまりめぐって、流るゝとはなく唯硝子がらすを張った様に光って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
福一うちゑみつゝ、いためし所は候はず、今夜こよひのおめでたを申さんとてこそやどはいでたれ、なにやつのしわざにや、ほりあげの道きのふとはちがひてあしもとあしくしおきたれば、あやまちてこけたるがまどをもおしやぶりておち入たる也、わろさにてしたるには候はずゆるし玉へといふ。
お身にも似合わんことを云う。一人と一人の太刀打すら、あれは剣でするのではない、精神こころでする。いわんや、戦を眼でするか、眼で采配がとれようか。肉眼で見える陣地や兵のうこきだけを以て戦をする阿呆こけがあったら、たちまち敗けじゃ。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木の根や岩角につまづいてこけつまろびつ、泥まぶれになつて這ひあるくそのざまは……。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)