こけ)” の例文
旧字:
山木はこけのように口を開いて茫失していたが、やがて眼性の悪い細い瞼の間からポロポロ涙をこぼしながら力任せに踏絵を抱きしめ
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それを言うのもまた、実に、てれくさくて、かなわぬのだが、私はこけの一念で、そいつを究明しようと思う。男子一生の業として、足りる、と私は思っている。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
此奴等こいつらがこの地獄宿へ引張込んだのを見懸けたから、ちびりちびり遣りながら、こけの色ばなしを冷かしといて、ゆっくりなぐろうと思ったが、勿体なくッて我慢ならねえ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といいながら車窓から首を突出して、服部時計店の時計台を見上げていたが、何を見たのか、ア、ア、ア、と息をひいてこけのように時計台を指さす。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まあ篤文家とでもいつたやうなこけの一念で生きて行きたいと思つてゐるのですが、どうも、つまらぬ虚栄などもあつて、常識的な、きざつたらしい事になつてしまつて、ものになりません。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
こけの集り、ぞろぞろあの人について歩いて、脊筋が寒くなるような、甘ったるいお世辞を申し、天国だなんて馬鹿げたことを夢中で信じて熱狂し、その天国が近づいたなら、あいつらみんな右大臣
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ちッ、こけだと思って、油断したばっかりに!」
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)