白痴こけ)” の例文
旧字:白癡
我ながらこの間抜々々した恰好、白痴こけが虫歯を押さえている手付きにもさながらで、ほとほと自分がいやになってきた。とたんに
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「親分、かう言つたわけだ。三輪の親分に白痴こけ扱ひにされても腹は立たねえが、親分の事まで何とか言はれちや我慢がならねえ。それに——」
彼はへら/\/\と笑ったあとは、寂しくぽかんとした平常の少年に還り、たゞ始終、誰かより立優り度い白痴こけの一念通りに動いて行きます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まるっきり白痴こけみてえになってたが、それでもどこをどう手繰たぐったものか捜し当てて来た、おさんはそういう女なんだ
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
浮気の痕跡あとがタップリと血の中に残っている。この白痴こけ野郎ッ……てな毒の名前なめえだったと思いますがね。ヘエ。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「竜手様さまと来らあ! 竜の手だとよ、うふっ、利いた風なことを言っても、田舎ざむれえなんて、下らねえ物を持ち廻りやがって白痴こけなもんだなあ。」
ひどいもんですねえ、家へ帰りますと、せがれの面まで白痴こけ面に見えてうす汚なくてたまらない。いったいいつまでそんなことをやらかそうというんです。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
梅花のにおいぷんとしたに振向ふりむけば柳のとりなり玉の顔、さても美人と感心した所では西行さいぎょう凡夫ぼんぷかわりはなけれど、白痴こけは其女の影を自分のひとみの底に仕舞込しまいこんで忘れず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くらものはあるまいとてくちぜいねばわがおもしろにひと女房にようぼひようしたてる白痴こけもあり、豆腐おかべかふとて岡持おかもちさげておもていづれば、とほりすがりのわかひとふりかへられて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それなら、実は此方こっちとうからその気ありだから、それ白痴こけが出来合ぐつを買うのじゃないが、しッくりまるというもンだ。嵌まると云えば、邪魔の入らない内だ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
政吉 何をいやがる、白痴こけにするねえ。政吉は江戸を逃げて高山在の、久々野くぐのという処に、僅な知辺しるべをたよって行き、山国の者に半分なったが、根性は元の江戸の男だ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
白痴こけなことこくなてえば。二両二貫が何高値たかいべ。われたちが骨節ほねっぷしかせぐようには造ってねえのか。親方には半文の借りもした覚えはねえからな、俺らその公事くじには乗んねえだ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
みっともないから事の次第はいわない、とにかく、その時分、いまにして思えばくうな話。——らちくちもない夢のような話をたよりに、わたしは、白痴こけみれんな毎日を送っていた。
春深く (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ともかく白昼の市街を歩みながら、すべてが白痴こけのように朦朧とした感じであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
この次郎左衛門はこれまでに幾たびとなく血の雨を浴びて来た男だ。貴様たちの鈍刀なまくらがなんだ、白痴こけ秋刀魚さんまを振り廻すような真似をしやあがったって、びくともするんじゃあねえぞ。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
トヾの結局つまり博物館はくぶつくわん乾物ひもの標本へうほんのこすかなくば路頭ろとういぬはらこやすが学者がくしやとしての功名こうみやう手柄てがらなりと愚痴ぐちこぼ似而非えせナツシユは勿論もちろん白痴こけのドンづまりなれど、さるにても笑止せうしなるはこれ沙汰さた
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「なあ、こいつ白痴こけじゃないのかい?」
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一人だけ繩目をのがれて、今でも人もなげに御府内を荒し廻り、この平次を白痴こけにして喜んで居る。俺はこの房吉を縛つて、江戸中の人を安心させたいのだよ
この女郎の日和はお内儀で、勝手と蔵を一度往来して今あ母屋にいなさることは、これ、跡の向きを見りゃあ白痴こけにもわからあ。もう一つの草鞋わらんじものは——。
「そう致しましょう」と重太夫が云った、「このみちだけは白痴こけでも人並、ということを申しますが、どうやらおだれどのはそのほうも人並ではないようです」
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……これ見ろ、この手紙の終りに、白痴こけと言わんばかりの文句が書いてある。……この手紙は、おれの名あてだから、白痴というのは、おれのことか知らんて。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いかにまことのさまであったとて、その奇矯な振舞いは人を白痴こけにするにも程があると先生を失せさした山まで加担人かとうどのように憎まれ、一たんは山におもてを背けます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さてもそののち室香むろかはお辰を可愛かわゆしと思うより、じょうには鋭き女の勇気をふり起して昔取ったる三味しゃみばち、再び握っても色里の往来して白痴こけの大尽、なま通人つうじんめらがあい周旋とりもち
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
殊に『有喜世新聞』では「黒田騒動」における右団次の浅川主水あさかわもんどの闇試合を評して、白痴こけがさんまを持って二十五座を踊っているようだと罵倒したので、右団次贔屓びいきの反感を買ったらしく
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「たらいうだ? 白痴こけ
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「待たねえ、こんな腑抜ふぬけとは知らず、今日まで待っていたのはこっちが白痴こけだ、親分の恨みはこの丹三一人で立派にお晴らし申してみらあな、この人でなしめ」
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白痴こけが銭勘定をしやしめえし、同じことばかりいってたって仕様がねえ。なにしろめでたく千秋楽になったんだから、鶴のことなぞもうどうだっていいじゃないか。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
お樂は恐る/\たるの呑口をひねつて、地酒といつても自慢のを一本、銅壺どうこへ投り込んで、早速のかんをすると、盆へ猪口ちよくを添へて、白痴こけがお神樂かぐらの眞似をする恰好で持つて出ます。
かけてどうなさるお気だ。ねえ、物は思案ずく、出るところへ出てちいっと困るのはお前さん方じゃござんせんか。白痴こけが犬のくそを踏みあしめえし、下手なしかめっ面あ当節流行はやらねえぜ
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
白痴こけづらに青っ洟、これが十二万五千石のお世つぎとは、誰だって気がつくはずはあるまい。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それは大抵馬糞墨でザラ紙に書いた白痴こけ脅かしで、気違いの仕業でなければ、不良少年の悪戯いたずらにきまって居りますが、此手紙は恐ろしく念入で、単なる脅かしや悪戯いたずらとも思えぬ
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「変な話しというやつだ」と六郎兵衛は盃を取り、妹に酌をさせながら云った、「いま自分の口で云ったことくらい覚えていろ、きさまは頭が悪いうえに、男のことがあると白痴こけみたようになる」
「転んだ。白痴こけの一人相撲。面目ねえ。」
出来そこないの冬瓜とうがんのような方図ほうずもない顎をぶらさげ、白痴こけか薄のろかと思われるような間のびのした顔をしているくせに、感がいいというのか、どんな入りくんだアヤでも
厚化粧で滿面のこびをさらけ出して歩く女は、これに比べると、まさに白痴こけも同樣です。
牛込のほうの男は白痴こけのようになってしまったそうだ
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
垢染んだ黒羽二重の袷を前下がりに着、へちまなりの図ぬけて大きな顎をぶらぶらさせ、門口かどぐちに立ちはだかって、白痴こけが物乞するようなしまりのない声で呼んでいるのが、顎十郎。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「こんな手數のかゝる謎々が、白痴こけや氣違ひの智慧で拵へられるものか。來いツ八」
白痴こけなだけです」
そいつは俺の狙ふつぼだつたんだ、お玉は卒中か心の病で頓死したことにされると此方こつちの仕事は樂だつたが、今となつては、白痴こけになり切つてゐるわけにも行くめえ、お玉の殺されたわけを
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
身體にぶちなく、舌にも眼にも何んの變りもなく、血が一しづくも出てゐないとすると、——お粂さん、俺は白痴こけにされても宜いから、こんなことは氣がつきたくなかつたよ、あんまりむごたらしい
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
お勝手から平次と八五郎はすべり込むやうに丁子屋の屋根の下へ入つて居りました。大袈裟おほげさで、白痴こけおどかしな正面から入るよりは、搦手からめてから攻めた方が、この城は樂に落せるやうな氣がしたのです。
下手へたでも白痴こけでも幕府の御繪所を預かる狩野に頭を押へられ、衆愚の前に眞技倆を示す折もなく、悶々もん/\の日を送つてをりましたが、その不平に加へてその日のかてにも差支へる貧苦に打ち負かされて
八五郎は白痴こけが大きななまずでも釣つたやうな大袈裟げさな顏をするのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
白痴こけが鯉でも釣つたやうな勢で飛んで來ました。