てつ)” の例文
「え? また駕籠ですか。南蛮幽霊のときもそうでござんしたが、あいつと同じてつで、また江戸じゅうを駆けまわるんでげすかい?」
だからこの第一部だけをとつて、又しても『假面の告白』のてつを踏みはしまいかと心配するのは、おそらく杞憂といふものだらう。
……日吉や、お父っさんは、御無念なので、あんなことばかしいうけれど、おまえまでが、お父っさんのてつを踏んではいけないよ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここ数旬にして帝都は挙げて睡魔の坩堝るつぼと化し、黒死病の蔓延によって死都と化した史話の如く、帝都もそのてつを踏むおそれなしとしない
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
兎も角も溝口屋へ行つた平次は、三河町の佐吉のてつをふまないやうに、外廻りから探索の手をつけました。表通りは六間間口の磨き拔いた格子。
果然くわぜんれはいくばくもなくして漢族かんぞくのためにほろぼされた。ひと拓拔氏たくばつしのみならず支那塞外しなさくぐわい蠻族ばんぞくおほむねそのてつんでゐる。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
で、背に腹はかえられぬのてつを踏んで、有楽町のガード横丁まで引っかえして来ると、小八というおでん屋へ這入った。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そこで、告白の遺書を書かせて、黒鉛の弾を示し、射ったらまず川に転げて落ちて、俺の二のてつを踏めと云ってやった。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
……其時は自分はバイロンのてつを踏んで、筆を劍に代へるのだ、などと論じた事や、その後、或るうら若き美しい人の、うるめる星の樣な双眸まなざしの底に
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
天才は不遇なうちに味もあれば同情もあるのだ——虚名を求めて彼女のてつを踏むときバクレンとなるなかれ。(鉄箒)
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
京都の公卿をして、再び護良親王もりながしんのうてつを踏ましむるなかれという気概のために、憎まるるものがないとはかぎらない。烈しく憎まるる時は暗殺される。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
南清なんしんで植民会社を創立したり、その当時の不遇政客のてつを踏んで南船北馬なんせんほくば席暖まるいとまなしと云う有様であったが、そのうちにばったり消息が無くなって
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
日本の歴史にして果たして西洋史とてつを同じゅうするものならば、我々もちかごろ言う国家々々という声が今後いくらか弱りはせぬかと懸念にえないと同時に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その天資、慷慨こうがいにして愛国の至情に富む、何ぞその相たるのはなはだしき。しこうしてその文章をなげうち去りて、殉国じゅんこく靖難せいなんの業につきたるが如き、二者ともにそのてつを同じうせり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ここに女優たちの、近代的情熱の燃ゆるがごとき演劇は、あたかもこのてつだ、ととなえてい。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれらがこの侮辱に対して、なにゆえに手をつかねていたかということは、出奔し去った五人の婿を前車のてつとしたのみではない、が、ここではまず談話の本筋を進めることにする。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この勢いに乗じて事のてつを改むることなくば、政府にて一事を起こせば文明の形はしだいに具わるに似たれども、人民にはまさしく一段の気力を失い文明の精神はしだいに衰うるのみ。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし、それは他事ひとごとではありません。今度は私自身がその仕舞図を描くことになったのですから、そんな前車のてつをふまないように注意しなくてはいけないと思って緊張しているのです。
けれども、江戸の俳人の象徴派が試みたことは、彼が鎌倉の末に手をつけて、失敗のてつを示して置いたのであつた。彼は、自分の後進者には、この方面には進ませようとせなかつたらしい。
そのときヨーロッパ文明諸国が今日の、イタリー、スペインおよびポルトガルのてつを踏んで産業的、商業的および政治的従属状態に陥らないで済むための唯一のチャンスは、社会革命にある。
百露のてつ、それあにかんがみせざるべけんや。たといここに人あり、いま現に雲漢うんかんよりくだるも、その言行神聖ならずんば、人いずくんぞ上帝の一子なりとなさんや。いわんやその子孫においてをや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
師匠の団十郎もそれがために往々傲慢ごうまんの誤解をまねいたが、彼もやはりそのてつを踏んでいたのであろう。そうして一面にはすこぶ覇気はきに富んでいたらしく、一種精悍せいかんの気がその風貌にみなぎっていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今其てつを蹈んで、無邪気な山人の心を勝手に忖度そんたくし、而も夫をもって自己の不明を弁解するの具に供しようとすることは、真に恥ず可きの至りであるが、この際暫く読者の寛恕かんじょを得て筆を進めたい。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
安政二年あんせいにねん十月二日じゆうがつふつか江戸大地震えどだいぢしんおいて、小石川こいしかは水戸屋敷みとやしきおい壓死あつしした藤田東湖先生ふぢたとうこせんせい最後さいごと、麹町かうじまち神田橋内かんだばしない姫路藩邸ひめぢはんていおい壓死あつしした石本李蹊いしもとりけいおう最後さいごまつたおなてつまれたものであつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
支那に路上春をひさぐのぢよ野雉やちと云ふ。けだし徘徊行人かうじんいざなふ、あたかも野雉の如くなるを云ふなり。邦語にこの輩を夜鷹よたかと云ふ。ほとんど同一てつに出づと云ふべし。野雉の語行はれて、野雉車やちしやの語出づるに至る。
「復た阿爺おやじてつみはしないか、それを豊世は恐れてる」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(たとえ、勝家のてつをふむまでも、まだ無傷の兵力と、残余の柴田党を糾合きゅうごうして、抗戦を長びかせば、そのうちに、四囲の変化も起ろう)
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともかくも溝口屋へ行った平次は、三河町の佐吉のてつをふまないように、外廻りから探索の手をつけました。表通りは六間間口の磨き抜いた格子。
ねえ法水君、捜査官が猟奇的な興味を起したばかりに、せっかく事件の解決を失った例が決して少なくはないのだぜ。いや、僕も危うくそのてつむところだったよ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あのてつを踏んで、あの時とは場合も違うし、清吉と、マドロスとは、性格に於ても比較にならないが、それでも、万々一……清吉のことを考え出してみると、駒井も
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こゝに女優たちの、近代的情熱の燃ゆるが如き演劇は、あたかも此のてつだ、ととなへてい。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自分はバイロンのてつを踏んで、筆を剣に代へるのだ、などと論じた事や、その後、或るうら若き美しい人の、潤める星の様な双眸さうぼうの底に、初めて人生の曙の光が動いて居ると気が付いてから
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私だって情熱があれば、蓮ちゃんのてつを踏む位何でもないけれど……職業なンか持ってると、そうそう男のひと一と目見て、一途いちずにやれないからなの、——でもそろそろ本当は困ってンのよ。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「井伊大老のてつを踏むと申すか!」
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
『年号ばかり、建炎とあらためても、金の皇帝がまたそれをやれば、同じてつをくりかえすに決っている。ただ長いか短いかだけだ』
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
作ろうとして、その実行に取りかかって、失敗しなかったものは一人もありません、みな失敗です、駒井さん、あなたの理想も、事業も、そのてつを踏むにきまっています、失敗しますよ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かりに持明院統の量仁かずひとを皇太子とはなされていても、もうそんな歴代のおろかなてつは、御自身ふたたびもうなどとは思ってもおられない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
須磨子なども寄ってたかって高い処へ押し上げてしまってそうして梯子はしごを引いたような形だから、ああいう運命に落つるのもむを得ないのであった、今また沢正にも同じてつを踏ませるな
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それは分るが、何千年来、愚なる前例を、史に見ながら、なぜまた、二つのものが、分りきった愚のてつをふむのか、拙者には、怪しまれる」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それゆえ、現朝廷の内々のおぼしめしを伺うても、またぞろ、承久のてつを踏んではと、俄に起ちもせぬのではなかろうか
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まずはこのおなじてつを踏みはずさない人間通有の欲の目に迎えられ、武士大衆は公然、ごうごうと不平を鳴らしだした。
今とても先生せんじょう金右衛門が、あぶなく同じてつを踏むところであったのを、身をかわして、その野槍のをつかみ、片手で大刀を抜かんとして見せながら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そう無造作にいってくれるな——おれのてつをふんで、ふたたび亡父ちちの名を汚すようでは、今つぶした方がいい」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前に、佐久間、柴田などが、みな同じてつをふんで失敗を繰り返した築城の地は、尾張寄りのそこの一角だった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今のうちに、尊王そんのうの大義を建て、外夷を討つ計を立てなかったら、この日本は、支那と同じてつをふむほかない。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
所詮しょせんふたたび乱世じゃ。室町家の末路のてつを踏もうも知れぬ。いや、勝家には危ぶまれる。どうあろう? 諸侯
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……しかし年を経て、彼の勢力が駸々しんしんと諸州に根を張るようにでもなったすえには、一朝いっちょうには仆せますまい。なぜなら前に北条の仆れたてつを見ておりますから
「新野は小城であるし彼の軍隊は少数なので、つい敵をあなどったため、呂曠、呂翔も惨敗をうけたものです。——何でまた、貴殿まで同じてつを踏もうとなさるか」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心ある人は、かくてはやはり南宋の泰平も、その芸術の殿堂も、久しからずして北宋や唐や漢代のてつをふむものではないかと、どこかで危ぶんでいたことであるだろう。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴公はしきりと、いちど失敗したてつを二度は踏まんといったが、その失敗は、棒自身が、棒であることを知らず、剣のごとき気をもって、浅薄あさはかな計画で敵へ近づいたからだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)