豌豆えんどう)” の例文
つぎに豌豆えんどうに青味を入れて水煮にしたものが出た。みな塩を入れて食うようすなので、自分も塩を入れ、これもたちまち食いおわる。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
植物として私の最も好む山百合、豌豆えんどうの花、白樺、石楠花しゃくなげのほかに、私は落葉松という一つの喬木きょうぼくを、この時より加えることにした。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
農家の垣には梨の花と八重桜、畠には豌豆えんどう蚕豆そらまめ麦笛むぎぶえを鳴らす音が時々聞こえて、つばめが街道を斜めにるように飛びちがった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
つまり二合のスープが出来ます。仏蘭西豆の代りに豌豆えんどうの柔いのを煮て漉して混ぜてもいいのです。これで普通は六人前になります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
大根、桜島、蕪菜、朝鮮芋(さつま芋)、荒苧あらお(里芋)、豌豆えんどう、唐豆(そら豆)、あずき、ささげ、大豆、なた豆、何でもあった。
私の父 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
スイトピーを日本の豌豆えんどうに較べてみるもいい。スイトピーの花の美しさなどというものは、実にうすっぺらな造花美に過ぎない。
味覚の美と芸術の美 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
此頃の馳走ちそう豌豆えんどうめしだ。だが、豌豆にたかる黒虫、青虫の数は、実に際限がない。今日も夫婦で二時間ばかり虫征伐むしせいばつをやった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼女は、人参、大根、ねぎ、トマトをすすめ、それからさやをむきたての豌豆えんどうをハンケチへ入れて見せ、それからまた、籠に入れた鳥類を見せる。
この間、留守のとき、「誰か来て、これをおいて行きました」と、おとなりの女中さんが、さや豌豆えんどうの袋をくれました。
うちの畑でとれるもの——キャベツ、トマト、アスパラガス、豌豆えんどう、オレンジ、パイナップル、グースベリィ、コール・ラビ、バーバディン、等。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
茄子畑なすばたけがあると思えば、すぐ隣に豌豆えんどうの畑があった。西洋種のうりの膚が緑葉のうろこの間から赤剥あかむけになってのぞいていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だが閑子は、垣根のそとに豌豆えんどうをまいているのだ。ミネをみても手を洗おうとはしないのだ。ミネがきたことについて、何の気も回らないのだろうか。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
僧院の庭はさほど広くもなかったのですが、それでも六十坪ほどの土地を利用して、豌豆えんどうを栽培して見ました。
グレゴール・メンデル (新字新仮名) / 石原純(著)
野菜は夏がよいので、茄子なす隠元いんげんなど、どちらも好まれますが、こと豌豆えんどうをお食べになるのが見ものでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
並行線でもこれに若干じゃっかんの斜線を画き加えると不並行線に見え、一個の豌豆えんどうでもこれを中指を人差し指の上に折り重ねてなでると確かに二つあるごとくに感ずる。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
子供の時分に蜻蛉とんぼを捕るのに、細い糸の両端に豌豆えんどう大の小石を結び、それをひょいと空中へ投げ上げると、蜻蛉はその小石を多分えさだと思って追っかけて来る。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
向直った顔が、斜めに白い、その豌豆えんどうの花に面した時、眉を開いて、じった。が、瞳を返して、右手めてに高い肱掛窓ひじかけまどの、障子の閉ったままなのをきっ見遣みやった。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おわかりでしょう。」と彼女は言いながら、膝の上のさらをもち上げた。「豌豆えんどうさやをむいていますの。」
つまり大阪の児童は蔭ぼうしで育った豌豆えんどうのようなものです。背は高いが身が入っておらないのです
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
それでも所々ところどころ宅地の隅などに、豌豆えんどうつるを竹にからませたり、金網かなあみにわとりを囲い飼いにしたりするのが閑静にながめられた。市中から帰る駄馬だばが仕切りなくれ違って行った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
胡麻ごまの油だの、豌豆えんどうまめだの、チーズだのを売りさばいて、自分たちは食う物も食わずに、一銭二銭の小銭から何千という金を積み上げて、あいつに仕送りしてやったのだ。
顔は黒ずんだ嗅煙草色で、鼻は鉤形かぎがたに曲っていて長く、眼は豌豆えんどうのようで、口は大きく、歯並は立派、それを見せびらかしたいらしく口を耳まで開けてにたにた笑っている。
鐘塔の悪魔 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
老人「ところが大学の教授などはサッサンラップ島の野菜になると、豌豆えんどう蚕豆そらまめも見わけられないのです。もっとも一世紀より前の野菜だけは講義のうちにもはいりますがね。」
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
豌豆えんどう蚕豆そらまめも元なりはさやがふとりつつ花が高くなった。麦畑はようやく黄ばみかけてきた。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
とある漁師の家の窓からは女の子がたった一人かおを出していた。その前の畑には、いかにも雨に濡れた黄の菜の花が咲き群れていた。それに豌豆えんどうの花、背の低い唐黍とうきび葱坊主ねぎぼうず
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
その一通を開いてみると、古生からよこしたので端書はがき大の洋紙に草花を写生したのが二枚あつた。一つはグロキシアといふ花、今一つは何ピーとかいつて豌豆えんどうのやうな花である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
土曜日には、白スープと豌豆えんどう素麺そうめん、それにどろどろのおかゆが出ます。これにはみんなバタがつくのでございます。日曜には、乾魚とお粥がスープにつくことになっております。
高く葦を組んでそれにからみ附かせた豌豆えんどうの数列には、蝶々の形をした淡紅色の愛らしい花が一ぱいに咲いていた。農夫とその女房達やが、そこここに俯向うつむいて何か仕事をしていた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
夏中雨ばかりだし、いやあな風が吹くし、風は何のしにもなりはしないし、ブラシュヴェルは大変吝嗇けちだしさ。市場には豌豆えんどうもあまりないので、何を食べていいかわかりゃしない。
また出入りの饀屋の主人は有名な頑固屋であるが、他の製饀所では普通白饀の原料は芋を混合して製し、純粋の白豌豆えんどうを用いないものであるが、この人は正直で白豌豆を使用している。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
みすぼらしい豌豆えんどう蚕豆そらまめの畑、ごく下等な野菜類の畑が小麦の代りになっている。
堰堤の外側にはかもめの群が白い羽を夕陽に染めて飛んでいた。おかの畑には豌豆えんどうの花が咲き麦には穂が出ているが、海の風は寒かった。権兵衛は沙や礁の破片かけらを運ぶ物を避け避けして往った。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すると、指の間は五六粍になって、月の大きさが豌豆えんどうほどに大きくなりました。
智恵の一太郎 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
焙烙ほうろくで、豌豆えんどうをいるような絡繹らくえきたるさんざめき、能役者が笠を傾けて通る。若党を従えたお武家が往く。新造が来る。丁稚でっちが走る。犬がほえる。普化僧ふけそうが尺八を振り上げて犬を追っている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
次郎が昼寝をしているお鶴の耳に豌豆えんどうを押しこんで、大騒ぎをしたこと、改作爺さんの入歯を玩具にして、一日、どうしてもそれを返そうとしなかったこと、北山の山王祭の人ごみの中で
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
たくさんのからすが一羽のとびとたたかい、まことに勇壮であったとか、一昨日、墨堤を散歩し奇妙な草花を見つけた、花弁は朝顔に似て小さく豌豆えんどうに似て大きくいろ赤きに似て白く珍らしきものゆえ
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
わざわざ不時の客にそなえて幾週間もしまってあった渦巻型の肉饅頭を添えた玉菜汁シチイだとか、豌豆えんどうをあしらった脳味噌だとか、キャベツを添えた腸詰だとか、去勢鶏ブリャルカ焙肉あぶりにくだとか、胡瓜きゅうり塩漬しおづけだとか
我々が幼い頃にからす豌豆えんどうなどと名づけていたものと同じ草かと思う。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
『もしこの危機にアメリカ戦争が終熄しなかったならば、もし海軍のために備えられた特に豌豆えんどうの有り余る貯蔵が売りに出されなかったならば、我国にはいかなる荒廃と恐怖の光景が展開されたことであろう。』
「早くあの豌豆えんどうを買ってちょうだい、塩いりよ。」
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
珍しい青豌豆えんどうの御飯に
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
薔薇ばらにも豌豆えんどうにも数限りもなく虫が涌く。地は限りなく草をやす。四囲あたりの自然に攻め立てられて、万物ばんぶつ霊殿れいどのも小さくなってしまいそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
中川「それでは贅沢ぜいたく過ぎて味も悪い。僕の家では球葱たまねぎスープだの豌豆えんどうスープだのと野菜ばかりのスープも出来るよ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
メンデルの実験を行った豌豆えんどうのなかには、種子がまるくて黄いろい色をしたのと、しわがあって、緑色をしたのとがありましたが、これを交配させてみると
グレゴール・メンデル (新字新仮名) / 石原純(著)
豌豆えんどうが花咲き、夏みかんがみのり、れんげの花の咲いている暑いような陽の道をお墓へとねってゆきました。
「お神さんは、わたしたちの分に、裸麦や蚕豆そらまめ豌豆えんどうや、なにやかやを入れたパンを作ってくれました」
子供の時分にとんぼを捕るのに、細い糸の両端に豌豆えんどう大の小石を結び、それをひょいと空中へ投げ上げると、とんぼはその小石をたぶんえさだと思って追っかけて来る。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今来た入口はいりぐちに、下駄屋と駄菓子屋が向合って、駄菓子屋に、ふかし芋と、でた豌豆えんどうを売るのも、下駄屋の前ならびに、子供のはきものの目立ってあかいのも、ものわびしい。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殊に怪しきは我が故郷の昔の庭園を思ひ出だす時、先づ我が眼に浮ぶ者は、爛熳らんまんたる桜にもあらず、妖冶ようやたる芍薬しゃくやくにもあらず、溜壺に近き一うねの豌豆えんどうと、蚕豆そらまめの花咲く景色なり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
サコスキの上靴うわぐつをはき、毛のはいった外套がいとうを着、大司教のような様子をし、門番のついた家の二階に住み、松露を食い、正月には四十フランもするアスパラガスを食いちらし、豌豆えんどうを食い