裁縫さいほう)” の例文
「上野ですか、ハイおツリでちゅ」ぐらいならよいが、家の中を飛び廻って裁縫さいほうする妻、洗濯せんたくしている女中にも、一々聞いてまわる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
気分が悪くて裁縫さいほうの稽古から帰って来たのであった。彼女は其れっきり元気には復さなかった。彼女の家では牛乳をとってのませた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
右側の雑木ぞうきの一団が月の陰をこしらえている処に、細ぼそとしたカンテラのいて、女が一人裁縫さいほうしながら外の方を見ていた。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あれ以来、おくさんもまたひと役かって、四年生五人の裁縫さいほうをうけもっていたのだ。しかし、雑巾ぞうきんさしの裁縫はちっとも苦労ではなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
このお教室きょうしつでは、あなたのおかあさんもおけいこをなさったのですよ。おかあさんは、どの課目かもくもよくおできになったが、お裁縫さいほうもおきでした。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
すると、裁縫さいほうほんとか、料理れうりほんとか、あるひまた育兒いくじくわんするほんとかいふものがある。ほどこれは、大抵たいてい場合ばあひ婦人ふじんのみにようのある書物しよもつである。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かわ草摺くさずり、旗差物はたさしものまく裁縫さいほう鎧下着よろいしたぎ、あるいはこまかいつづれにしき、そのほか武人ぶじん衣裳いしょうにつく物や、陣具じんぐるいをつくるものばかりがみ、そして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かの女は早くから学校をやめさせられ、うちにいてお料理りょうりをこしらえたり、お裁縫さいほうをしたり、父親や兄弟たちのために家政かせいを取らなければならなかった。
母は母で、近所の家のお裁縫さいほうをしてやったので、そのお礼に大根やいもやその他の野菜ものが始終持ち込まれて食うだけの保証はまずこれで安心であった。
忘年会の会場は小学校の裁縫さいほう室、青年会と処女会の合流で、えんたけなわとなり余興がはじまった。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
両親の居間のふすまをするするあけて、敷居のうえに佇立ちょりつすると、虫眼鏡で新聞の政治面を低く音読している父も、そのかたわらで裁縫さいほうをしている母も、顔つきを変えて立ちあがる。
玩具 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いったいチベット婦人は裁縫さいほうというような事は決してしないです。つづくりする位の事でもやはり裁縫師を頼んでして貰わなければならん。その裁縫師は男であって女の裁縫師はない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
母上は習字科を兄上は読書算術科を父上は会計をあによめ刺繍ししゅう裁縫さいほう科を弟は図画科を弟の妻は英学科をそれぞれに分担し親切に教授しけるに、東京市内は勿論近郷きんきょうよりも続々入学者ありて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「ねエ、私、お裁縫さいほうの看板でも出したいけれど……」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ふさげない事になつてにもにもまぬかれぬ弊風へいふうといふのが時世ときよなりけりで今では極点きよくてんたつしたのだかみだけはいはつて奇麗きれいにする年紀としごろの娘がせつせと内職ないしよくの目も合はさぬ時は算筆さんぴつなり裁縫さいほうなり第一は起居たちゐなりに習熟しうじよくすべき時は五十仕上しあげた
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
彼は不意に日本刀を抜いて、裁縫さいほうしていたじぶんの女房を殺して、それから店へ出て主人を殺し、そして、己もそのやいばたおれたものであった。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かよは、このごろ、裁縫さいほうをしながら、ときどきおもしたようにあたまげて、そとをながめるのがたのしみでありました。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかもそれをじぶんでよく知っていて、無試験の裁縫さいほう学校にゆきたがった。だが彼女の母はそれを承知しょうちせず、毎日、彼女にいんうつな顔をさせた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
余等が千歳村にして程なく、時々遊びに来る村の娘の中に、あかぬけした娘が居た。それがいさちゃんであった。彼女は高等小学をえ、裁縫さいほう稽古けいこに通った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
だからあたしも世間並せけんなみに、裁縫さいほうをしたり、割烹かっぽうをやったり、妹の使うオルガンをいたり、一度読んだ本を読み返したり、うちにばかりぼんやり暮らしているの。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
母親のしかりとがめる声がした。平三郎は入口へ立って室の中を見た。室の中では母親がの婢と並んで裁縫さいほうをしていた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
母親ははおやは、むすめ裁縫さいほうおしえたり、また行儀ぎょうぎならわしたりしたいとおもったからです。けれどむすめは、それよりか、自分じぶんかってにおどりたかったのであります。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、婦人ふじんういふほんませたらいゝかといふのは、料理れうりとか裁縫さいほうとか育兒いくじといふものよりも、もつと婦人ふじん精神的要求せいしんてきえうきうたすべき書物しよもつたづねるのであらう。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ま、ひとのことにして、おまえだってすすんでなったじゃないか。お母さんの二のいふみたくないって。まったく老眼鏡ろうがんきょうかけてまで、ひとさまの裁縫さいほうはしたくないよ」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
妻は裁縫さいほうの師匠をやれと勧められた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ある相場師の娘が、父親にねだって買ってもらった衣服きものを、知りあいの裁縫さいほう師の処へ縫わしにやった。
娘の生霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つまり、料理れうりとか裁縫さいほうとか、育兒いくじとかといふ書物以外しよもついぐわいに——婦人ふじん實生活じつせいくわつなかつとめる役割やくわりくわんした書物以外しよもついぐわいに、婦人ふじんにのみようのある書物しよもつがあるかどうかといふこと疑問ぎもんである。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おまえも田舎いなかになるのよ。やまへいったり、野原のはらをかけまわったりして、きっとじょうぶになりますよ。としは、もうあと二ねんですから、卒業そつぎょうしたらお裁縫さいほうでもならえばいいとおもいます。
青い草 (新字新仮名) / 小川未明(著)
内職の裁縫さいほうをやろうとすると、文吉は、やっぱり内職原稿のペンをおいて
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
が、僕はつい近頃やはり当時から在職していたT先生にお目にかかり、女生徒に裁縫さいほうを教えていた或女の先生も割下水に近い京極子爵家(?)の溝の中で死んだことを知ったりした。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一軒の茶店ちゃみせのような家が眼の前にあった。そこはみちの幅も広くなっていた。一けんくらいの入口には納涼台すずみだいでも置いたような黒い汚い縁側えんがわがあって、十七八の小柄な女が裁縫さいほうをしていた。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いまのおさんたちは、どういうものか、お裁縫さいほうがきらいですが、これからの日本にっぽん婦人ふじんは、ひととおりのお仕事しごとができなければ、大陸たいりくへもいけないと、校長先生こうちょうせんせいもおっしゃっておいでです。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、僕はつい近頃やはり当時から在職してゐたT先生にお目にかかり、女生徒に裁縫さいほうを教へてゐた或女の先生も下水げすゐに近い京極きやうごく子爵家(?)のどぶの中に死んだことを知つたりした。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)