荒浪あらなみ)” の例文
というわたしをこの人はまだこどものように見てなにかと覚束ながる。たがいに眼を瞠目みはって、よくぞこのうき世の荒浪あらなみうるよと思う。
愛よ愛 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
陸を行けば、じき隣の越中の国に入るさかいにさえ、親不知子不知おやしらずこしらずの難所がある。削り立てたような巌石のすそには荒浪あらなみが打ち寄せる。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小さな汽船ぐらいはたちまちひとみにするほどの荒浪あらなみたけり狂っているから、その入江には出入りする船舶の数もすくない。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
たちまわたしそば近々ちか/″\よこぎつて、左右さいうゆき白泡しらあわを、ざつと蹴立けたてて、あたか水雷艇すゐらいてい荒浪あらなみるがごと猛然まうぜんとしてすゝみます。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
轟々ごうごうたる躁音は、どうやら、この巌の下が深いふちであって、そこへ荒浪あらなみが、どーんどーんと打ちよせている音を模したものらしいことが呑みこめた。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
荒浪あらなみたか印度洋インドやう進航すゝみいつてからも、一日いちにち二日ふつか三日みつか四日よつか、とれ、けて、五日目いつかめまでは何事なにごともなく※去すぎさつたが、その六日目むいかめよるとはなつた。
この時分じぶんになると、もはや、汽船きせんふえもきくことができませんでした。荒浪あらなみは、ますますれて、くらそらしたに、うみは、しろくあわだっていたからであります。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
特に近世のいわゆる植民地獲得時代では、世界中がその荒浪あらなみの影響を受けた。その時代における徳川三百年の鎖国は、世界の中で、一つの特異な文化をこの国に作り上げた。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
荒浪あらなみのような内的要求がともすれば彼を長篇へ誘おうとしたのもこの時代のことである。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
と喜んで居りますると、俄然がぜん一陣の猛風吹き起って、たちま荒浪あらなみと変じました。見る/\うち逆捲さかまく浪に舟は笹の葉を流したる如く、波上はじょうもてあそばれてる様は真に危機一発でございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それに、不思議な花の山々の、無数の曲線の交錯が、まるで小舟の上から渦巻き返す荒浪あらなみを見る様に、恐しいいきおいで彼女を目がけておし寄せるかと疑われたのです。決して動きはしないのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その學生がくせいころから、閣下かくか學問がくもんはら出來できて、わたしのやうに卑怯ひけふでないから、およぎにたつしてはないけれども、北海ほくかい荒浪あらなみ百噸ひやくとん以下いかおそれない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
荒浪あらなみげきする洋上をすれすれに飛んだり、あるいはまた、雲一つない三千メートルの高空にのぼったりして、消えた巨船の行方をさがしもとめたけれど
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくし世界せかい漫遊まんゆう目的もくてきをもつて、横濱よこはまみなと出帆ふなでしたのは、すで六年ろくねん以前いぜんことで、はじめ亞米利加アメリカわたり、それから大西洋たいせいよう荒浪あらなみ横斷よこぎつて歐羅巴エウロツパあそび、英吉利イギリス佛蘭西フランス
お聞きよ此を! 今、現在、私のために、荒浪あらなみに漂つて、蕃蛇剌馬ばんじゃらあまんに辛苦すると同じやうなわかい人があつたらね、——お前は何と云ふの!何と言ふの?
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
刃物はもののような風がぴゅうぴゅうと吹きつける。めりめりと音がしたと思ったら、筏の一部がかんたんにわれて、あっと思うまもなく荒浪あらなみにもっていかれてしまった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かくて吾等われら運命うんめいたくする弦月丸げんげつまるは、アデンわんでゝ印度洋インドやう荒浪あらなみへと進入すゝみいつた。
きよこれを! いま現在げんざいわたしのために、荒浪あらなみたゞよつて、蕃蛇剌馬ばんじやらあまん辛苦しんくするとおなじやうなわかひとがあつたらね、——おまへなんふの!なんふの?
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)