茣蓙ござ)” の例文
膝の下の隠れるばかり、甲斐々々しく、水色唐縮緬とうちりめんの腰巻で、手拭てぬぐいを肩に当て、縄からげにして巻いた茣蓙ござかろげにになった、あきない帰り。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが、その時に行幸を拝ませようということなんだろうが、土地の八十以上とかの老人たちが、茣蓙ござを敷いた上に並んでいるんだ。
私は隠居ではない (新字新仮名) / 吉田茂(著)
貞烈なお關の峻拒しゆんきよに逢つて、首を三太刀まで切つた上、茣蓙ござに包んで目黒川に流した始末を、平次は手に取る如く語り聞かせたのです。
堀に面した商家の土蔵に添って、七歳か八歳になる女の子が二人、陽の当る地面に茣蓙ござを敷き、その上に坐ってお手玉をしていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やがて鍋が煮立つと、どうしたわけか、酋長夫妻が急に起ち上って、右座の寝床の境に茣蓙ござをおろして、そこへ入ってしまった。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
今まで山のように積んであった寺銭も場銭ばせんも盆茣蓙ござも、賽目さいのめまでも虚空に消え失せて、あとには夥しい砂ほこりが分厚く積っているばかり。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私はすぐに庭に敷いてある茣蓙ござの上で、手伝いに来ていた小みなさんという年増芸者から、石童丸の顔をこしらえてもらった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
その黒い板の上に、茣蓙ござを敷いて、それが居間にも、食堂にも使われる。寝るのもたいていは、この種類の部屋である。
北陸の民家 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
私の話が主婦の友の六月号に八頁ばかり出ていましたが、それを見た、柏木の茣蓙ござなど売っている店の主婦が私に会いたいというので会ってみた。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
下では梵妻と娘が茣蓙ござの四隅を持ち、上からちぎって落す柿を受けていた。老僧も監督するような形で、懐手ふところでをしながら日向ひなたに立って眺めていた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
母親は青葉の映りの濃く射す縁側へ新しい茣蓙ござを敷き、俎板まないただの庖丁だの水桶だの蠅帳だの持ち出した。それもみな買い立ての真新しいものだった。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おくみは下へ行つて瓦斯ガスをつけて鉄瓶をかけて置いて、裏の茣蓙ござを片づけて、張り物なぞをこちらへ持つて帰つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
ふとそのなかに茣蓙ござの敷いてあるのが目にとまったので、僕はいそいで靴をぬごうとすると、そのままあがれという。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
荷馬車や旅商人や、茣蓙ござを着、大きな檜笠ひのきがさを被つた半島𢌞りの学生の群にも幾組か出遇つたり追ひ越したりした。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
偃松の枝をうずたかく積み重ねた上に茣蓙ござを敷いて、鹿の寝床のようなものが出来上った頃、海神の弄ぶ紅玉のような落日の影が日本海の水平線上に顕れたが
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
客が揃わないので、盆茣蓙ござはまだ始まっていなかった。やがて、二十人ほどになると、開帳された。もう、こういう雰囲気にも、金五郎はおどろかない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
真夏のころで、寝床といっても、茣蓙ござ一枚だった。むれ臭い蚊帳のそとでは、蚊が物すごいうなりを立てていた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私がここへ着いたのは午後五時頃で小屋は開くようになっていましたし、茣蓙ござや天幕等もあり、火も難なく焚けましたので、着物等を乾かし九時頃寝ました。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
路傍に茣蓙ござを敷いてブリキの独楽こまを売っている老人が、さすがに怒りを浮かべながら、その下駄を茣蓙の端のも一つの上へ重ねるところを彼は見たのである。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
そこへ茣蓙ござなんぞ敷きまして、その上に敷物しきものを置き、胡坐あぐらなんぞかないで正しく坐っているのがしきです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
納戸なんど部屋の隅に伊丹樽を隠しておいて、そのなかへ醪を造り、その上へ茣蓙ござの蓋をして置く。それを、一日に何回となく杓子しゃくしで酌み出しては鍋にいれてくるのだ。
濁酒を恋う (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
私は滞在中雨の降る日以外は、他に約束のない限りは、いつも夕方の六時を心待ちしました。素晴らしいかすりしま浮織うきおりの着物が色々と茣蓙ござの上に拡げてあります。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その上へ茣蓙ござを付し、檜木笠ひのきがさを被っているのだから「どうも御気の毒様で」といわれたのも無理はない。
源氏自身が遺骸いがいを車へ載せることは無理らしかったから、茣蓙ござに巻いて惟光これみつが車へ載せた。小柄な人の死骸からは悪感は受けないできわめて美しいものに思われた。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その二人のお嬢さん達は、青い茣蓙ござの上に始終横になって雑誌を読んだり、果物を食べたりしていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
白洲しらすごっこだ。道理で、地面に茣蓙ございて、あれが科人とがにんであろう、ひとりの子供が平伏している。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうしてなしを作り、墨絵をかきなぐり、めりやすを着用し、ひるの貝をぶうぶうと鳴らし、茣蓙ござね、芙蓉ふようの散るを賞し、そうして水前寺すいぜんじの吸い物をすするのである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
板の間の隅に巻いて立てかけてあったしきのし茣蓙ござが、思うさまの足の力でされて、まんなかを煎餅せんべいにへこまして曲っていた。ミネはその時のことをよく思い出す。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
... 読んでいたらいいじゃないかね。海の上へ出ると気がまたからりとかわるものだから」そして「おおい! ここへ茣蓙ござを敷いて、栗の罐詰と酒を持って来てくれないか」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
下駄の時のように下足係の厄介やっかいにならずにすむから、私も実は一度はいてみた事があるのであるが、どうも、足の裏が草履の表の茣蓙ござの上で、つるつる滑っていけない。
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
一つの部屋が各家族の全員用に充てられ、各人は、わずかに天井から垂れた茣蓙ござで区劃された別々の寝床に寝るのである。一つの共通の部屋が食事のために用いられる1
露が深いからこれで払って行けと、二尺余の木の枝をくれるのを、それにも及ばぬと元気のよい青年だ。茣蓙ござをくるくると身に巻いて、泳ぐようにして前へ進んでくれる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
奥の院の夜は寂しくとも、信心ぶかい者の夜詣よまゐりが断えぬので、燈火の断えるやうなことは無い。また夜籠よごもりする人々もゐると見え、私等の居る側に茣蓙ござなどが置いてある。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
一人は主人あるじの綱義で柔道で固めた肉体は堂々として立派である。もう一人の男は旅人と見え、三斗笠さんどがさを冠り茣蓙ござを纏い手に竹杖を突いているが何うやら夫れは仕込杖らしい。
赤毛氈や茣蓙ござを敷いて重箱を開くもあれば、菰樽こもだるをかつぎ込んで騒ぐもあり、摺鉢山から竹の台、動物園前などいっぱい、ここへも仮装の連中や踊子が繰り込んで唄う、舞う
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
私達は茣蓙ござを持つたり、煙草盆を持つたり、茶器を携へたりして、午前の日影のをりをり晴れやかに照りわたる間を土手の方へと行つた。水田の中では水鶏くゐなの声が頻りにきこえた。
ある日の印旛沼 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
庭の一隅に板を並べ茣蓙ござを敷き、其處を夕餉の席とした。生方君と今一人、二三日前から泊り合せてゐる眞田紐行商人の老爺との三人が半裸體になりながら冷酒のコツプを取つた。
樹木とその葉:34 地震日記 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「と、いって、まさか茣蓙ござをかかえて、柳原やなぎはらをうろつきもしねえのさ、ただね、手先きが器用なものだから、おのずと、この節お金が吸いついてならないというわけですよ、ほらね——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
湯の中ではそれぎりしか口をかなかった。何でも暑い時分の事と覚えている。余が身体からだいて、茣蓙ござの敷いてある縁先で、団扇うちわを使って涼んでいると、やがて長谷川君が上がって来た。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は顔をしかめながら、茣蓙ござだけが敷いてある寝台の上にゴロリと横になった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二人は荷馬車に布いた茣蓙ござの上に、後向になつて行儀よく坐つた。傍には風呂敷包。馬車の上で髪を結つて行くといふので、お八重は別に櫛やら油やら懐中鏡やらの小さい包みを持つて来た。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
奥の方には岩を穿うがって棚を作り、鍋やら茶碗やら、小さな手ランプなどの道具が少しばかり置かれてある。部屋の隅にはあぶらに汚れた蒲団ふとんが置いてある。老人はややみにくからぬ茣蓙ござを一枚敷いてくれた。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
化學藥品かがくやくひん油類ゆるい發火はつかたいしては、燃燒せんしようさまたげる藥品やくひんもつて、處理しよりする方法ほう/\もあるけれども、普通ふつう場合ばあひにはすなでよろしい。もし蒲團ふとん茣蓙ござ手近てぢかにあつたならば、それをもつおほふことも一法いちほうである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
蒲団はべつたり汗に染みるので、茣蓙ござを敷いてゐた。
幼少の思ひ出 (新字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
船長の好意で甲板の片隅に花茣蓙ござが敷かれた。
風蕭々 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
茣蓙ござか、囲炉裏いろりか、飯台はんだいか。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
赤土の庭へ茣蓙ござ一枚
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
今灯をけたばかり、油煙も揚らず、かんてらの火も新しい、店の茣蓙ござの端に、汚れた風呂敷を敷いて坐り込んで、物れた軽口で
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貞烈なお関の峻拒しゅんきょにあって、首を三太刀まで切った上、茣蓙ござに包んで目黒川に流した始末を、平次は手に取るごとく語り聞かせたのです。
暗くじめじめした、かなり広い土間に、茣蓙ござを敷いた腰掛が並び、壁によせて、しおれた菊や、しきみや、阿迦桶あかおけなどが見える。
夕靄の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)