白百合しらゆり)” の例文
顔のまわりの白いレースがちょうど白百合しらゆりの花びらのようでした。それを見るとおかあさんは天国をむねに抱いてるように思いました。
白百合しらゆり紅百合べにゆり鳶尾草いちはつの花、信頼心しんらいしんの足りない若いものたちよりも、おまへたちのはうがわたしはすきだ、ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
彼女は、もうすっかり覚悟を決めてしまったか、ほつれ髪もおののかせず、白百合しらゆりの花そのままな顔をしずかにうつむけている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白ばら、白百合しらゆり、白壁、白鳥。紅いものには紅百合、紅ばら、紅珊瑚べにさんご、紅焔、紅茸、紅生姜しょうが——青い青葉、青い虫、黄いろい菜の花、山吹の花。
明暗 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けれども窓の外では、いっぱいに咲いた白百合しらゆりが、十本ばかり息もつけないあらしの中に、その稲妻いなずま八分一秒びょうを、まるでかがやいてじっと立っていたのです。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
レターペーパーは丈七寸幅四寸五分ほどの大きさの中に八寸ぐらいの白百合しらゆりの茎のたわめられたのが左へ寄せて描いてあり、そのまわりがうす桃色にぼかしてある。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ふ。其處そこ花籠はなかごから、一本ひともと白百合しらゆりがはらりと仰向あをむけにこぼれてちた……ちよろ/\ながれにかげ宿やどる……百合ゆりはまた鹿も、ひめも、ばら/\とつゞいてこぼれた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕のテーブルの上の花瓶かびんけられている白百合しらゆりの花。僕のまわりの世界は剥ぎとられてはいない。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
灯の影もみえない藪影や、夜風にそよいでゐる崖際がけぎは白百合しらゆりの花などが、ことにも彼女の心をおびえさせた。でも、彼の家を車夫までが知つてゐるのでいくらか心強かつた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
米国アメリカの女詩人が、白百合しらゆりたとえた詩をつくってあげたこともあるし、そうした概念から、わたしはざくらのかたまりのように輝かしく、憂いのない人だとばかり信じていた。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
美奈子は裏の庭園で、切って来た美しい白百合しらゆりの花を、右手めてに持ちながら、なつかしい人にでも会うような心持で、墓地の中の小道を幾度も折れながら、父母の墓の方へ近づいて行った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あはれ白百合しらゆり
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
ブドリたちは、天幕てんとの外に出て、サンムトリの中腹を見つめました。野原には、白百合しらゆりがいちめんに咲き、その向こうにサンムトリが青くひっそり立っていました。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あゝ、したじめよ、おびよ、えてまたひかかげむなり。きみはだたしかゆき。ソロモンと榮華えいぐわきそへりとか、白百合しらゆりはなづべきかないなはぢらへるは夫人ふじんなり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
庸三の子供が葉子を形容したように彼女は鳥海山ちょうかいさん谿間たにまに生えた一もとの白百合しらゆりが、どうかしたはずみに、材木か何かのなかに紛れこんで、都会へ持って来られたように
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
京子の若い日の癖の無い長身、ミルク色にくくれたおとがい白百合しらゆりのような頬、額。星ばかり映して居る深山の湖のような眼。夏など茶絣ちゃがすりの白上布に、クリーム地に麻の葉の単衣帯ひとえおび
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
女中が、水を汲んで来ると、美奈子は、その花筒の古い汚れた水を、浚乾かえほしてから、新しい水を、なみなみと注ぎ入れて、り取ったまゝに、まだ香の高い白百合しらゆりの花を、挿入れた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
白百合しらゆり處女むすめで死んだ者の、さまよふたましひ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
よつツのはしやはらかにむすんだなかから、大輪おほりん杜若かきつばたはなのぞくも風情ふぜいで、緋牡丹ひぼたんも、白百合しらゆりも、きつるいろきそうてうつる。……盛花もりばなかごらしい。いづれ病院びやうゐん見舞みまひしなであらう。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みどりいよ/\こまやかにして、夏木立なつこだちふかところやまいうさとしづかに、しかいまさかりをんな白百合しらゆりはなはだへみつあらへば、清水しみづかみたけながく、眞珠しんじゆながれしづくして、小鮎こあゆかんざし宵月よひづきかげはしる。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)