かぶと)” の例文
同時に、周囲にいた黄信、史進、秦明らが、たちどころに、彼の上へおいかぶさり、そのよろいもかぶといで、捕縛ほばくしてしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時は夏から秋にかけたころであるし、きりぎりすとかぶとといかにも調和されているのでもわかるのである。この句には前書がある。
螽蟖の記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これまで来た者はそのまえにかぶとをぬいだ。それは事を荒立てないためであったが、結果としては国許のれんちゅうを増長させた。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だがやがて新吉は一たまりもなくかぶとを脱がして巴里女に有頂天にならした出来事があった。新吉は建築学校教授の娘のカテリイヌに遇った。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
妖婦の様に隈取った、大きな目、突き出た脣、そして、背鰭せひれの一本が、戦国時代の武将のかぶとの飾り物に似て、目覚ましく伸びているのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こいつ、頭に鹿しかの角のやうなかぶとかぶつてるし、六本の足には釣針つりばりみたいな鈎爪かぎつめをもつてる。力が強いんだぞ。——うん、いゝこと思ひついた。
かぶと虫 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
とあっさり米友がかぶとを脱いだのは、この怖るべきおしゃべりの洪水にかかっては受けきれないからしての予防線ではないのです。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分は上野うえのの戦争の絵を見るびに、官軍のかむった紅白の毛甲けかぶとを美しいものだと思い、そしてナポレオン帝政当時の胸甲騎兵きょうこうきへいかぶとを連想する。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
地蔵十輪経じぞうじゅうりんきょうに、この菩薩はあるいは阿索洛アシュラ身を現わすとあるから、かぶとこうむり馬に乗って、甘くない顔をしていられても不思議はないのである。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
五月の節句に飾るものも三月とは大違いで、やり、刀、かぶとよろい、弓、矢、それから人形でもなんでも黒い腹掛けをかけた力のある金時きんときのたぐいです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「甲州勢退くと見るや、城兵一時に安心し、凍えた身肌を暖めんものとかぶとを脱ぎよろいを解き弓矢を捨て刀鎗とうそうさやにし……」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
秋の夕日を受けつくぐりつ、かぶとの浪よろいの浪が寄せては崩れ、崩れては退く。退くときは壁の上櫓の上より、傾く日を海の底へ震い落す程のときを作る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
作り髭を付け、唐冠からかんむりかぶとを著け、金札緋威きんざねひおどしの鎧に朱塗の重籐しげとうの弓を握り、威儀堂々と馬に乗って洛中を打ち立った。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「行けねえよ、あっいけねえ、とうとう悪魔にやられた。」じいさんはひたいを押えてよろよろしました。かぶとむしが飛んで来て、ぶっつかったようすでした。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
山へ登るにゃア、そんならば反対に浮袋うきをつけたらいいだろうてンだ。まず、おめえサン方は海へもぐる時と同じように、潜水着を着てしっかりかぶとをかぶる。
「それは動物です。人間や馬や鳥や魚や、それからかぶとむしや蝶々やみみずや……みんな動物です」
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一人が、槍をもって、かぶとをつけた頭を持上げながら、腹いに進んでいた。その後方から、竹胴に、白袴しろばかまをつけ、鉢巻をしたのが、同じように、少しずつ、前進していた。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
因循姑息いんじゆんこそくの術中に民衆を愚弄したる過去の罪過を以て当局に責むるが如きは、吾人の遂に忍びざる所、たゞ如何にして勝ちたる後のかぶとの緒を締めむとするかの覚悟に至りては
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
力から武勇が生れ出るとは思わないが、亡父のかぶとかしらにのせただけで、首を自由にふることの出来なかった宮内は、心の底の方では、あきらめをつけねばならぬと覚悟はしていた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
大衆老少すべて七千余人がかぶとの緒をしめ、奈良坂と般若はんにゃ寺の二個所に防備を施してこれによったのであるが、もとより四万の軍勢には敵せず、夜に入って、二個所の防砦ぼうさいも破られ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それから私は顔を彫りました。後藤氏は馬をやりました。私は楠公の顔をやってかぶとかぶせた。石川さんも手伝いました。竹内久一先生はどうであったか、少しは手伝われたかも知れません。
黒きかぶとと朱の色の蒸汽喞筒ぽむぷの馬ぐるま
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
冠毛しげき青銅のかぶとを持たず、圓形の
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
かぶと虫の首の細さを知り得まい
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
かぶとに、なほも色白いろじろ
騎士と姫 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
彼の“むざんやなかぶとの下のきりぎりす”の句は、空想の所産ではない。じっさいに、この地方の平家史蹟を歩いた果ての嘆息であったろう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人のやりの穂先がしわって馬と馬の鼻頭はなづらが合うとき、鞍壺くらつぼにたまらず落ちたが最後無難にこの関をゆる事は出来ぬ。よろいかぶと、馬諸共もろともに召し上げらるる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もしも昌平にして、この世界の事情を多少でも知っていたら、そんなむだな口はきかなかったであろうし、少なくともその辺でかぶとをぬいだに違いない。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
新田義興にったよしおきという大将が殺された矢口ノ渡しでは、どうかすると馬のひづめの足音が不意に聞えて、竜頭りゅうずかぶとをかぶった大将の姿が現われるということを聞きました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家臣立花大蔵長槍を揮って城をじて、一番槍と叫びもあえず、弾丸三つまでもかぶとを貫いた。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大阪近郊の平坦な地勢は、かぶと武庫むこ六甲ろくかふの山々を望むあたりまで延びて行つてゐる。耕地はよく耕されてゐて、ぶだう畠、甘藷の畠なぞを除いては、そこいらは一面の青田だ。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「俺のかぶとは、明珍みょうちんの制作で、先祖伝来物だが、これでも、弾丸は通るかのう」
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
かぶとを冠り鎧を着、薙刀なぎなたを小脇に掻い込んでいるその風采には不思議はないが
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左右に三丈の高さをもつ如意輪観音と虚空蔵菩薩こくうぞうぼさつ坐像ざぞうが並び、それをまた身丈各四丈もある金色の四天王が彩色華かなかぶとに身を固めて四隅を護持し、内陣の東西に懸けた五丈にあまるとばりには
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
遠樹ゑんじゆは金のかぶとなり
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
白羽のかぶと銀の楯
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
あの良い槍、良い剣、良いほこ、良いかぶと、良い戦袍せんぽう、良い馬、そしておびただしい車馬に積んできた食糧や宝は、すべて皆、汝たちに与えられる物だ。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歩く道が一筋で、さきが進んでいる以上は、こっちの到着点も明らかに分っているんだから、できるだけ早くかぶとを脱いで降参する方が得策であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神主の丹波さまもかぶとをぬぐくらい、親父はもの識りで頭がよかった、どうかして死ぬまでに本を一冊書きてえ、と云った、どうしても書くんだと云ってた
秋の駕籠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
式部手鑓てやりにて真柄が草摺くさずりのはずれ、一鑓にて突きたれど、真柄物ともせず、大太刀をもって払い斬りに斬りたれば、匂坂がかぶとの吹返しを打ち砕き、余る太刀にて鑓を打落す。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
印度インド産の黒檀の卓子テーブル波斯ペルシャ織りの花毛氈もうせん。アフガニスタンの絹窓掛け。サクソンの時計。支那の硯。インカ帝国から伝わった黄金こがね作りの太刀やかぶと。朝鮮の人参は袋に入れられ柱に幾個いくつか掛けてある。
白羽のかぶと銀の楯
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
馬遵と夏侯楙が、矢倉の上から望み見ると、そのかぶとといい馬といい年頃といい、姜維にはちがいないが、どうもいっていることは合点がゆかなかった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真鉄まがねたて黒鉄くろがねかぶとが野をおおう秋の陽炎かげろうのごとく見えて敵遠くより寄すると知れば塔上の鐘を鳴らす。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奮然として退いた昌景は、同志の面々が集まって居る席に来て「説法既に無用、皆討死討死」と云い棄てて、縁側から馬に打乗り、かぶとの緒をしめるを遅しと戦場に馳せ向ったと云う。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼が万三郎の温たかい思い遣りに対して、また、そんなにも彼がおちぶれ、敵味方となっていながら、剣士として尊敬してくれることに対して、——ついにかぶとをぬぎ、半兵衛それ自身をとり戻した。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
騎馬武者は甲冑かっちゅうよろっていた。しかしそれとて名ばかりで、満足なものは一人もない。ある者はかぶとだけ猪首に着なし、鎧も脛当すねあてもあてていない。ある者は鎧の胴だけ着けて、甲なしの鉢巻であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山上の一石に、ゆったり腰をすえ、かぶとよろいの革紐かわひもなどを締め、草の葉露をなめてやおら立ちかけた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かぶとも着よう、よろいも繕おう、槍も磨こう、すわという時は真先に行こう……然しクララはどうなるだろう。負ければ打死をする。クララには逢えぬ。勝てばクララが死ぬかも知れぬ。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
厚い鉄を以って満身のかぶとを造り、勇士を募って之にかぶらせ、敵中に突入させれば、敵は刺す隙を見出せずして勝を得る事必せりと云う。試みに造ってみたが重くて、誰も動く事が出来なかった。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)