さむ)” の例文
「でもうちこと始終しじゆうさむしい/\とおもつてゐらつしやるから、必竟ひつきやうあんなことおつしやるんでせう」とまへほゞやうとひかへした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
米「まア一服召上りませ、今日はく入らっしゃって下さいました、平常ふだんわたくしと嬢様ばかりですから、さむしくって困ってるところ、誠に有難うございます」
ああ、静かな日だ、さむしい昼過ぎだ、と思うと、自分は訳もなく、その辺に冷たい石でもあらば腰かけて、自分にもわからぬ何事かを考えたくてたまらなくなった。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人々ひとびと御主おんあるじよ、われをもつみくなしたまへ、この癩病らいびやうものを。」あゝさむしい、あゝ、こはい。だけに、生来しやうらいしろいろのこつてゐる。けものこはがつてちかづかず、わがたましひげたがつてゐる。
向うの方に大きな竹籃たけかごのようなものが二つ三つ浮いていたので、蛸ばかりでさむしいと思った叔父は、船をその一つのわきぎ寄せさした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
筆「はい嘸段々おさむしゅうございましょう」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
奥さんは最初から、無人ぶにんさむしいから、客を置いて世話をするのだと公言していました。私もそれをうそとは思いませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助はさむしいでしょうと云って、つい座敷に上り込んで、一つ火鉢ひばちの両側に手をかざしながら、思ったより長話をして帰った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうね。内幸町へ行っても好いけど、あんまり広過ぎてさむしいから。——久しぶりにここへ泊ろうかしら、ねえ叔母さん」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけさむしいでせうとつて、つい座敷ざしきあがんで、ひと火鉢ひばち兩側りやうがはかざしながら、おもつたより長話ながばなしをしてかへつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「しかし退屈ね。そんなにさむしくっちゃ。朝から晩まで寝ていらっしゃる訳にも行かないでしょう」と御米がまた云った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると母は真面目まじめな顔をして、「二郎、御前がいなくなると、うちさむしい上にも淋しくなるが、早く好い御嫁さんでも貰って別になる工面くめん御為おしよ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しか退屈たいくつね。そんなにさむしくつちや。あさからばんまでらつしやるわけにもかないでせう」と御米およねまたつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
町とは云い条、そのじつ小さな宿場としか思われないくらい、小供の時の私には、さびってかつさむしく見えた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「だつて、にいさんが留守勝るすがちで、嘸御さむしいでせうなんて、あんまり思遣おもひやりが好過よすぎる事をおつしやるからさ」と云ふ言葉があつた。代助は其所そこへ自分をはさんだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「何しろさむしいには違ないんだね。それもあいつの事だから、人情で淋しいんじゃない、よくで淋しいんだ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は軍人の妻君さいくんというものはみんなこんなものかと思って感服しました。感服もしたが、驚きもしました。この気性きしょうでどこがさむしいのだろうと疑いもしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さむしいからもっといてくれというのがおもな理由であったが、母や私が、食べたいだけ物を食べさせないという不平を訴えるのも、その目的の一つであったらしい。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寒い戸外の空気に冷えたそのほおはいつもより蒼白あおじろく自分の眸子ひとみを射た。不断からさむしい片靨かたえくぼさえ平生つねとは違った意味の淋しさを消える瞬間にちらちらと動かした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕はそのたびに娘さんから、こうして活きていてもたった一人でさむしくってたまらないから、どうぞ助けて下さいとそですがられるように感じた。——その眼がだよ。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いいえ、さっきから、もうお帰りか、もうお帰りかと思って待ってたの。しまいにあんまりさむしくってたまらなくなったから、とうとううちへ手紙を書き出したの」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際自分はこう突然人家が尽きてしまおうとは、自分が自分の足で橋板を踏むまでも思いも寄らなかったのである。——そのさむしい山の方から、小僧が一人やって来た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いもとが学校へ行き帰りに、戸山の原を通るのがいやだといひしましてね。それに僕がよる実験をやるものですから、おそく迄つてゐるのがさむしくつて不可いけないんださうです。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おひまなら、今日どうです、いっしょに行っちゃ。吉川よしかわ君と二人ふたりぎりじゃ、さむしいから、来たまえとしきりに勧める。吉川君というのは画学の教師で例の野だいこの事だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さむしくって不可いけないから、又来て頂戴ちょうだい」と云った。下女はまだ裏で張物をしていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さむしくつて不可いけないから、又て頂戴」と云つた。下女はまだうら張物はりものをしてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「神経は起さなくっても淋しいんだから仕方がありません。僕はこれからうちへ帰って母の顔を見るときっと泣くにきまっています。今からその時の涙を予想してもさむしくってたまりません」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さむしい夜道で、急に人声を聞いた人があるかないか知らないが、聞いて見るとちょっとな感じのするものだ。それも普通の話し声なら、まだ好いが、おおいと人を呼ぶ奴は気味がよくない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御米も久しぶりに綿のった重いものをてて、肌にあかの触れない軽い気持をさわやかに感じた。春と夏の境をぱっと飾る陽気な日本の風物は、さむしい御米の頭にも幾分かの反響を与えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう寄席よせもやめて、しもうたになっていたようであるが、私はそこのうちの軒先にまだ薄暗い看板がさむしそうにかかっていた頃、よく母から小遣こづかいを貰ってそこへ講釈を聞きに出かけたものである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
健三は兄の道伴みちづれになるには余りに未来の希望を多く持ち過ぎた。そのくせ現在の彼もかなりにさむしいものに違なかった。その現在から順に推した未来の、当然淋しかるべき事も彼にはよく解っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「近頃は女ばかりでさむしくっていけません」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「姉さんはそれでさむしくはないですか」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ねえさんはそれさむしくはないですか」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「三千代さんはさむしいだろう」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「津田君、僕はさむしいよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さむしいな」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)