まこと)” の例文
この二家が枕山を推して畏友いゆうとなしているのは、その前途まことに測るべからざることを証してあまりあるものであろうとの意を述べている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まことに自由であり複雑であったが、感心のことには井上嘉門は、どんな粗末な客であっても、追い返すということはしなかったそうな。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
成る程志士的気慨の溢れてゐるやうな人で、言語も態度もまことに純朴だが一旦国を論じ世を議するとなればその熱烈さには敬服した。
札幌時代の石川啄木 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
まことや蛇は寸にしてその気ありで、予当時動物心理学などいう名も知らなんだが、よほど奇妙と思うて、当日の日記に書き留め居る。
政府が人権を蹂躙じゅうりんし、抑圧をたくましうしてはばからざるはこれにてもあきらけし。さては、平常先輩の説く処、まことにその所以ゆえありけるよ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
けれども、長屋の八さんはてんで悟りをひらかないから、八さんがこんなことを喋る時のだらしない目尻といったらまことに言語道断である。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
少い部数で、一々本の番号を付し、非常に立派な装幀で、一見まことに豪華なものである。限られた少数の富裕な見手を目当てにしたものだろう。
日本にまだ一の私立大学なかりし時代に於て、君が同志社を基礎として君が私立大学設立の計画を立てられたのはまことに壮挙といわねばならぬ。
しかも受信機がなくてこれが聴えるから、まことに始末が悪い。安眠も出来ないから、おめを願いたいというのであります。
袷着て吾が女房の何とやら、綿入れの重きを脱ぎすてて初袷に着代えた当座、まことや古き妻にも眼の注がるるものである。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
自分で罪を犯しておきながら、かまえて訝しまれるような態度をとり繕わずにいると云うことはまことに道理に合わない。
遺書に就て (新字新仮名) / 渡辺温(著)
まことに八才の龍女がその功力を以て成仏せしというなる、法華経の何の巻かを、ずんじては抜き、誦じては抜くにあらざれば、得て抜くべからざるものをや。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陣々相らび簇々相薄まりそのさかんなることまことに空前の盛観であってよくもかく殖えたものかなと目を瞠らしめた。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「諸君が米国における事業はまことに立派なものだが、それ以上に諸君は日本語を普及させなければならぬ。」
夫故土地解放は私としてまことに已むを得ない結果行つたもので何と非難されても致し方ありませぬ。
狩太農場の解放 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
まことに危急存亡の秋なるに、この行ありしをあやしみ、又たそしる人もあるべけれど、余がエリスを愛する情は、始めて相見し時よりあさくはあらぬに、いま我數奇さくきを憐み
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
その厳しいおしつけを学衆の中には迷惑がる者もおりまして、いま義堂などと嘲弄ちょうろうまじりにはしたない陰口を利く衆もありましたが、御自身を律せられますこともまことにお厳しく
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
又この人並ひとなみならぬ雲雀骨ひばりぼね粉微塵こなみじんに散つてせざりしこそ、まことに夢なりけれと、身柱ちりけひややかにひとみこらす彼のかたはらより、これこそ名にし負ふ天狗巌てんぐいわ、とたりがほにも車夫は案内あないす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
支那産のものは屬名は分つても大半は、直ぐと種名は判じ難かつた。「支那南北記」や「大同石佛寺」のうちに植物の事を顧慮することの出來たのは、まことに是人のお蔭である。
すかんぽ (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
こんな処へ導かれて来て、こんな怪物共ばけものども取囲とりかこまれたからは、自分の智恵や力で自分の運命を左右する訳には行かぬ。運を天に任すと云うのは、まことに今のお葉の身の上であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この曲には音節より外、別に一種の玲瓏たる精神ありとはおぼさずや。われ。まこと宣給のたまふごとし。若し精神といふもの形體を離れて現ぜば、まさに此詩の如くなるべし。マリア。
まことに異様な結論に到達したのであったが、併し、私は非常に複雑でいながら、実に秩序整然たる彼の長談義ながだんぎに、すっかり堪能した形で、今は最早もはや異議を挟む元気も失せていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
於是乎ここにおいてか千六百十一年、彼等ハ相図リテ移住ノ儀ヲ定メ、永ク英人タルヲ得、且ツ基督キリスト教団ノ基礎ヲ据ヱ得ル処ヲ求メタリケルニ、あめりかハまことニ能ク此等ノ目的ニフモノナリキ。
余のるところにては、彼の青年は美の一字のために、捨つべからざる命を捨てたるものと思う。死そのものはまことに壮烈である、ただその死をうながすの動機に至っては解しがたい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
○肺を病むものは肺の圧迫せられる事を恐れるので、広い海を見渡すとまことに晴れ晴れといい心持がするが、千仞せんじんの断崖に囲まれたやうな山中の陰気な処にはとても長くは住んで居られない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
莫遮それはさうと現今げんこん建築けんちく本義ほんぎとか理想りさうとかについ種々しゆ/″\なる異論ゐろんのあることはまこと結構けつこうなことである。建築界けんちくかいにはへず何等なんらかの學術的風波がくじゆつてきふうはがなければならぬ、しからざれば沈滯ちんたい結果けつくわ腐敗ぶはいするのである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「宝島」はまことに少年文学であると同時に成人をも十分に愉しませ得る小説であり、大衆文学であると同時に文学に対して最も優れた理解力と鑑賞力とを有する人々にも愛読され得る作品である。
宝島:01 序 (新字新仮名) / 佐々木直次郎(著)
その矗々ちくちくとして、鋭く尖れるところ、一穂の寒剣、晃々天を削る如く、千山万岳鉄桶を囲繞せる中に、一肩を高くき、あたまに危石あり、脚に迅湍あり、天柱こつとして揺がず、まことに唐人の山水画
さうかと思ふと、その前に長野ながの県からなんとか云ふ人が、盗難見舞たうなんみまひの手紙をよこした。これも未知の人だつた。それにもかかはらず、手紙の末に、あなたに序文を書いていただいてまこと難有ありがたいと書いてあつた。
偽者二題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これら凡てこまやかなる自然の布置ふちまことに愛すべきものあり。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
まこと兵曹へいそうげんごと日本海軍につぽんかいぐんため慶賀けいがすべきことである。
こころゆくまで悔ゆるはまことに魂を休むればなり
帝国政府は今回ローマの法王庁へ原田健氏を初代公使として派遣することになったが時局がらまことに機宜を得た外交手段だと思う。
ローマ法王と外交 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この語まことに神に通ずで、人間のみかは畜類について察するも、齢の加わるに随って心情の移り変るかくのごとき例甚だ多し。
先師慊叟こうそうカツテ予ニ語ツテ、吾京師および芳山ノ花ヲ歴覧シキ。然レドモ風趣ノ墨水ニ及ブモノナシト。まことニ然リ。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
銭湯へ辞書を持込む手段はないからまことに是非もないのであるが、彼は自然に痲痺した妄想の虜となり、やがて悪夢と区別のない不快な放心が断続してゐた。
上述マダケ、ハチク、クロチクの花は予いまだそのよく果実を結びたるを見ず。これまことに怪むべし。しかもその雌雄両殖器の状態は完全にして敢て欠けし所なし。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その厳しいおしつけを学衆の中には迷惑がる者もをりまして、いま義堂などと嘲弄ちょうろうまじりにはしたない陰口を利く衆もありましたが、御自身を律せられますこともまことにお厳しく
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
まことは、兩側りやうがはにまだいへのありましたころは、——なか旅籠はたごまじつてます——一面識いちめんしきはなくつても、おな汽車きしやつたひとたちが、まばらにも、それ/″\の二階にかいこもつてるらしい
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
千万謝言の後、架上の書をいて読んだと云ふ、その灑々しや/\たる風度が、まことに愛すべきである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
こういう物が欲しいと思えば直ぐ眼の前に現れるという、まことにお伽噺とぎばなしの世界みたいです。
それから少く見て一ヶ月後、多分は三ヶ月後に(脅迫状が来始めたのは二月頃からであった)同氏が天井裏へあがった時、まことに偶然にも釦がそのポケットから落ちたという、持って廻った順序なのだ。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
要する結果になり、まことに驚異すべき好成績を示している。
一首の三十一文字のむねまことにかくのごときものあり。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
万事さう云ふ風でまことに困る
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こういう人達と旅行をしたのだ、さぞ不愉快だったろうと君は思うかも知れないが、その実は正反対で、まことに陽気で愉快だった。
赤げっと 支那あちこち (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
独身の家に良僕を得ざると雑賓の多きとはまことに忍びがたきものである。独居のわたくしが常に書賈しょこ新聞記者等の来訪を厭うのはあえて自ら高しとなすが故ではない。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのうえ手と足をかれて全治一ヶ月の重傷とある。ところが話はこれからさきがまことに愉快である。
或いは土御門つちみかど三宝院さんぽういんへ資財を持運ばれたよしが、載せてございますが、いざそれが吾身わがみのことになって見ますれば、そぞろに昔のことも思いでられてまことに感無量でございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
朝鮮語であさをアチム、例推するに本邦で上世、晨すなわち日の出る事をアズマと呼び、東は日の出る方故、東国を朝早く鳴く鶏にあわせて鳥が鳴く吾妻と称えただろうと、まことに正説で