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歪
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ゆが
ふりがな文庫
“
歪
(
ゆが
)” の例文
蒼白
(
あおじろ
)
い、仮面のような顔に、
歪
(
ゆが
)
んだ嘲笑が、刻みつけられでもしたように動かず、血ばしった眼は、けものめいた光りを放っていた。
やぶからし
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
手紙の文句はプツリときれてをりますが、その意味は邪念に充ちて、
拙
(
まづ
)
い假名文字までが、
呪
(
のろ
)
ひと怨みに引き
歪
(
ゆが
)
められてゐるのです。
銭形平次捕物控:230 艶妻伝
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
老婆の顔は平生の二倍ほどにも見えたくらい一面に
腫
(
は
)
れ上って、目も鼻もなくなったようになり、口ばかりが片方に
歪
(
ゆが
)
み寄っていた。
ひかげの花
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
池の中で旗亭の風雅な姿は積み重なった洋傘のように
歪
(
ゆが
)
んでいた。その一段ごとに、鏡を
嵌
(
は
)
めた陶器の階段は、水の上を光って来た。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
安島二郎氏が突然に
歪
(
ゆが
)
んだ顔を上げた。中腰になって両手を伸ばした。両袖のカフス・ボタンからダイヤの光りがギラギラと
迸
(
ほとばし
)
った。
山羊髯編輯長
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
▼ もっと見る
ただ
撓
(
たわ
)
み曲った茎だけが、水上の形さながらに水面に落す影もろとも、いろいろに
歪
(
ゆが
)
みを見せたOの字の姿を池に並べ重ねている。
雛妓
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
イボタの虫なんて買ひに行くのはイヤだと駄々をこねようと思つたが、へんに唇が
歪
(
ゆが
)
んで来るばかりで、口を
利
(
き
)
くことが出来なかつた。
イボタの虫
(新字旧仮名)
/
中戸川吉二
(著)
夫は
怪訝
(
けげん
)
そうな目で彼女を見た。土佐犬のような顔! が、その犬のように
尖
(
とが
)
った口を急に
侮蔑
(
ぶべつ
)
の笑いに
歪
(
ゆが
)
めて彼女の夫は駆けだした。
猟奇の街
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
蒼
(
あお
)
ざめた唇が
歪
(
ゆが
)
み、彼女は久し振りで、忘れられたモナ・リザの笑ひを笑つた。村瀬は彼女の顔を見たが、もう何も言はなかつた。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
いかに感情の激越を表現するのでも、ああまでぶざまに顔を引き
歪
(
ゆが
)
めたり、唇を曲げたり、
仰
(
の
)
け
反
(
ぞ
)
ったり、もがいたりしないでもいい。
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
その
辛
(
つら
)
い気持ちをお
互
(
たが
)
いにざっくばらんにいえないだけに、余計焦々して私はピントを合せるのに、微笑の顔が
歪
(
ゆが
)
みそうであった。
清貧の書
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
けれど彼には、よき父親と忠僕の家貞があり、ちまたに
歪
(
ゆが
)
められがちな青春も、幾度となく、自暴自棄の淵からは救われつつ行く。
随筆 新平家
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「
怨死
(
うらみじに
)
じゃの。こう髪を
啣
(
くわ
)
えての、
凄
(
すご
)
いような美しい
遊女
(
おいらん
)
じゃとの、
恐
(
こわ
)
いほど品の
好
(
い
)
いのが、それが、お前こう。」と口を
歪
(
ゆが
)
める。
註文帳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
耄
(
ぼ
)
けなさるな——と言外に含ませて、老人の幻想はむざんに壊された。彼の
惨憺
(
さんたん
)
たる思いは、顔のかたちをありありと
歪
(
ゆが
)
めていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
と、新田もさすがに本気すぎた彼自身を嘲るごとく、薄笑の唇を
歪
(
ゆが
)
めて見せたが、すぐに真面目な表情に返ると、三人の顔を見渡して
路上
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ドサ貫の話が、激しい痛苦を伴って私の脳裏に
閃
(
ひらめ
)
いたのである。(——市川玲子を殺したふてえ野郎だったのだ。)私は顔を
歪
(
ゆが
)
ませた。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
室内は
流石
(
さすが
)
に詩人の神経質な用意が
行
(
ゆき
)
渡つて、筆一つでも
歪
(
ゆが
)
んで置かれない程整然として居た。小さな卓に菊の花が
活
(
い
)
けてあつた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
頬にも大きい疵のあとがあって、口のまわりにも
歪
(
ゆが
)
んだ引っ吊りがあって、人相のよくない髭だらけの
醜男
(
ぶおとこ
)
だったということです
半七捕物帳:18 槍突き
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
出張
成金
(
なりきん
)
めとか、奥さんがかおを
歪
(
ゆが
)
めて、何々さんは出張ばかりで、——うちなんか三日の出張で三十円ためてかえりましたよ。
虚構の春
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
本能という言葉が誤解をまねき
易
(
やす
)
い属性によって
煩
(
わずら
)
わされているように、愛という言葉にも多くの
歪
(
ゆが
)
んだ意味が与えられている。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
美術にあっては、一方にミレーやゴーガン等の、抒情派があり、一方にピカソやセザンヌ等の、
歪
(
ゆが
)
んだ科学的の叙事詩派がある。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
明白に、嫌惡、恐怖、憎惡の
表
(
あら
)
はれた表情が、殆んど
面變
(
おもがは
)
りするまでに彼の顏を
歪
(
ゆが
)
ませた。しかし、彼はたゞかう云つたゞけであつた——
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
川並
(
かわなみ
)
の三次郎(五十歳近い)が、角材の下に
転木
(
ころぎ
)
——二本か三本——を入れ、その
歪
(
ゆが
)
みを正しながら「ようッこのウ」と音頭をとっている。
中山七里 二幕五場
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
上
(
かみ
)
さんは顔が
歪
(
ゆが
)
んで醜いが、率直でいいところがあるらしい。私は部屋を借りようと思ふ。そこで、いくら支払ふかと問うた。
南京虫日記
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
仏法を宗派的なものに限定したり、乃至は外来の思想体系として知的に対したりするとき、歴史の根本は
歪
(
ゆが
)
められるのである。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
その上を、ダンスの人影が玄妙に
歪
(
ゆが
)
んで、一組ずつはっきり映ったり、グロテスクに
縺
(
もつ
)
れたりして眼まぐるしく滑って行った。
踊る地平線:11 白い謝肉祭
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
驚いたことには、Rの顔が妙に
歪
(
ゆが
)
み出したものだ。そして、今にも爆発しようとする笑声を、一生懸命かみ殺している声音で
百面相役者
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
向う正面の坂を、一頭だけ取り残されたように登って行く白地に紫の波型入りのハマザクラを見ると、寺田の表情はますます
歪
(
ゆが
)
んで行った。
競馬
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
ドレゴはそう応えて、苦しそうに顔を
歪
(
ゆが
)
めた。水戸はそれ以外彼を追求しなかった。今この友人を更に苦しめてはならないと思ったからだ。
地球発狂事件
(新字新仮名)
/
海野十三
、
丘丘十郎
(著)
おばあさんは初めての愚痴で、整つた顏を
歪
(
ゆが
)
め、ワッといふ聲こそ立てなかつたが、制御を失つた泣き方になつてしまつた。
おばあさん
(旧字旧仮名)
/
ささきふさ
(著)
がっくりと根の抜けた島田
髷
(
まげ
)
は大きく横に
歪
(
ゆが
)
んで、
襟足
(
えりあし
)
に乱れた毛の下に、ねっとりにじんだ
脂汗
(
あぶらあせ
)
が、
剥
(
は
)
げかかった白粉を
緑青色
(
ろくしょういろ
)
に光らせた
歌麿懺悔:江戸名人伝
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
笑っていいか、泣いていいかわからないもののように、白い
匂
(
にお
)
わしい美女の顔は
歪
(
ゆが
)
み、紅い唇は、熱烈な呼吸に乾いて来る。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
この将軍は、癇癪の発するや、賜謁の際と雖も眼を繁く叩き、口を
歪
(
ゆが
)
め、膝を上下するに、進見のもの辛うじて、失笑を禁ぜしほどであった——
『七面鳥』と『忘れ褌』
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
私は一体に話を
歪
(
ゆが
)
める人は大嫌いである。そういう人とはつきあいたくないと思っている。それにしても親爺もいやな云い方をしたものである。
安い頭
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
入り乱れた四肢とからだの
歪
(
ゆが
)
んだ線のくぼみに動かぬ陰影をよどませ、鈍くしろい眼だけがそのよどみに細くとろけ残る。
原爆詩集
(新字新仮名)
/
峠三吉
(著)
これと共にあの風流をねらったいわゆる雅物は、趣味の犠牲に堕したものが多く、無用な飾りや単なる思いつきのために
歪
(
ゆが
)
められているのです。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
夜は
梟
(
ふくろう
)
の声があちこちにします。家は
歪
(
ゆが
)
みかかって支柱のある小さな古家でしたが、水がよいのと、静かなのとを主人が喜んで極めたのでした。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
瓦
(
かわら
)
が落ちてくればちょうどそれに打たれる場所、家が庭の方に
歪
(
ゆが
)
んで倒れればちょうどその軒に打たれる場所であった。
地異印象記
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
見ると、年若い助手の久吉も、
矢張
(
やは
)
り気が
顛倒
(
てんとう
)
したものか、
歪
(
ゆが
)
んだ顔に、血走った眼を光らせながら、夢中になって、カマに石炭を
抛込
(
なげこ
)
んでいる。
鉄路
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
その時与吉の鼻の穴が
震
(
ふる
)
えるように動いた。厚い
唇
(
くちびる
)
が右の方に
歪
(
ゆが
)
んだ。そうして、食いかいた柿の
一片
(
いっぺん
)
をぺっと吐いた。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その貪慾をどれ位いの程度に
歪
(
ゆが
)
めつつあるかを思い、近代における画家の仕事のいよいよ複雑なる困難さを私は考える。
油絵新技法
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
生くる正義はこの事によりてわれらの情をうるはしうし、これをして一
度
(
たび
)
も
歪
(
ゆが
)
みて惡に陷るなからしむ 一二一—一二三
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
ここらは割に土地が低いので、河原からあふれ出た泥水が、ものすごい勢いで家を
歪
(
ゆが
)
めたり、押流したりしたのだろう。
幻化
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
と、坂本さんが、ぼくの
肩
(
かた
)
を
叩
(
たた
)
き、「秋子ちゃんからじゃないか」と笑いながら、言います。皆の顔が、
一瞬
(
いっしゅん
)
、
憎悪
(
ぞうお
)
に
歪
(
ゆが
)
んだような気がしました。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
同時に、あの眼の
縁
(
ふち
)
の細い真直な線と、細い真直な脣と、鼻の凹みとが、見事に悪魔的に見える皮肉さを見せて
歪
(
ゆが
)
んだ。
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
物体に
歪
(
ゆが
)
みを生じさせるのは、力ではなくて圧力である。棒で
掌
(
てのひら
)
を押してみても何でもないが、それと同じ力で針でつけば、つきささるわけである。
立春の卵
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
明治維新の大業が
藩閥
(
はんばつ
)
とか政党閥によって
歪
(
ゆが
)
められ、あげくの果が軍閥の暴挙となって今日の事態をまねくに至った。
咢堂小論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
僧侶らしい顔もあった。皆の顔は苦痛のために、眼は
引釣
(
ひきつ
)
り、口は
歪
(
ゆが
)
み、唇や頬には血が附いていた。そこからは嵐のような
呻吟
(
うめき
)
と
叫喚
(
さけび
)
が
漏
(
も
)
れていた。
切支丹転び
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
みつは・みぬまと若やぐ霊力とを、いろいろな形にくみ合せて解釈してくる。それが、詞章の形を
歪
(
ゆが
)
ませてしまう。
水の女
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
『あゝ、まだ蟲ア啼いてる!』とお
八重
(
やへ
)
は少し顏を
歪
(
ゆが
)
めて、後れ毛を掻上げる。遠く近くで戸を開ける音が聞える。
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
歪
漢検準1級
部首:⽌
9画
“歪”を含む語句
歪形
歪曲
引歪
仮歪
正歪
歪像
歪力
歪子山
歪屈
歪曲美