くひ)” の例文
この木造の大づちは建築かくひ打ちでもなければ滅多に使ふものでなく、少し泥などの附いたまゝ、納戸にあるのは、甚しい不調和です。
呂昇なぞも、女義太夫としては外貌そつぽもよし、声もよいが、平常ふだん咽喉を使ひ過ぎるせゐで、首がぼうくひのやうにがつしりと肥つてゐる。
わたくしはいつも此桟橋のはづれまで出て、太いくひに腰をかけ、ぴた/\寄せて来る上潮の音をきゝながら月を見る……。
町中の月 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
で、のものどものつたはうは、ぐるみ地壓ぢおさへのくひ露顯あらはに、どろくづれた切立きりたてで、うへには樹立こだち參差すく/\ほねつなぐ。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
カンがへるも仕方なく、ルラ蛙もつれて、新婚旅行に出かけました。そしてたちまちあの木の葉をかぶせたくひあとに来たのです。ブン蛙とベン蛙が
蛙のゴム靴 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ニラジイランド、ヴェネジュラ、マレイ諸地方しよちはうには海底、川底、湖底抔にくひを打ち込み水面上すゐめんじやう數尺すうしやくの所に床を張り屋根やねを設けて住居とする者有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
殊に廉一を怒らせたのは、池のくひを造る為めに、水際の柳をつた事だつた。「この柳はこの間植ゑたばつかだに。」——廉一は叔父をにらみつけた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
当川あてかは(三角なるあみにてとるをいふ)○ひ川(水中にくひをたてあみをはり、さほにて水をうちさけをおひこむ)○四ツ手網であみ(他国におなじ)○金鍵かなかぎ
弱い朝日の光が霧を透すので青青あをあをとした水が、紫を帯び、其れに前の家家いへいへの柱や欄干や旗やゴンドラを繋ぐくひなどが様様さま/″\の色を映してるのがたまらなく美しい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
米俵には松丸太のくひしつかと結びつけられ、地に挿し込まれてあつたのである。
初代谷風梶之助 (新字旧仮名) / 三木貞一(著)
知たかぶり岩があつてたにがあつて蕎麥が名物是非一日遊ばうぞやと痛む足を引ずりて上松あげまつも過ぎしがやがて右手の草原くさはらの細道に寐覺ねざめとこ浦嶋の舊跡と記せしくひあるを見付けガサゴソと草の細道を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
出るくひを打たうとしたりや柳かな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
どこやらにくひ打つ音し
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ガラツ八は少し這ひ加減に葭簾よしずの下の方を押すと、其處だけは、くひと縁が切れて、手に從つて、かなり大きい穴が開いて行くのです。
百樹もゝきいはく丁酉の夏北越ほくゑつに遊びて塩沢に在し時、近村に地芝居ありときゝて京水とともに至りしに、寺の門のかたはらくひたてよこなが行燈あんどんあり、是にだいしていはく
ほしたくひの穴に落してやりたいね。上に何か木の葉でもかぶせて置かう。それは僕がやって置くよ。面白いよ。
蛙のゴム靴 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
奇觀きくわん妙觀めうくわんいつつべし。で、激流げきりう打込うちこんだ眞黒まつくろくひを、したから突支棒つツかひぼうにした高樓たかどのなぞは、股引もゝひきさかさまに、輕業かるわざ大屋臺おほやたいを、チヨンとかしらせたやうで面白おもしろい。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがて、舟は桟橋さんばしについた。みよしがとんとくひにあたると、耳の垢とりは、一番に向ふへとび上る。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
川に臨んだ入口ごとにゴンドラを繋く数本のくひ是亦これまた青や赤に彩られて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「糸をつけて水の中に沈めたもの、——場所は水へ降りる段の右側、三番目のくひから、下へ長く引いた糸がある筈です」
百樹もゝきいはく丁酉の夏北越ほくゑつに遊びて塩沢に在し時、近村に地芝居ありときゝて京水とともに至りしに、寺の門のかたはらくひたてよこなが行燈あんどんあり、是にだいしていはく
と云ふのは、最初、土手を下りて、あぶなつかしいくひを力に、やつと舟へ乗つたと思ふと、足のふみどころが悪かつたので、ふなべりが水をあほると同時に、大きく一つぐらりとゆれる。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その橋を渡ってやなぎの並木に出るだらう。十町ばかり行くと白いくひが右側に立ってゐる。そこから右に入るんだ。するときのこの形をした松林があるからね、そいつに入って行けばいゝんだ。
(新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
元來ぐわんらいきしやなぎは、家々いへ/\根太ねだよりもたかいのであるから、破風はふうへで、切々きれ/″\に、かはづくのも、欄干らんかんくづれた、いたのはなれ/″\な、くひけた三角形さんかくけいはしうへあししげつて、むしがすだくのも
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「晝頃で、へエー、夕立の來る少し前でございました。潮が引くとくひの間からかう白いものが見えましたので——」
いつか打砕うちくだく時は大力の男くひなどにてしたゝかに打て、やう/\をれおちてくだけたる四五尺なるを、わらべらがうちよりて手遊てあそび雪舟そりにのせて引きありきあそぶもあり。
影法師が搖れると、びんの毛がサラサラと風にほつれて、凄いほど華奢きやしやな手が、生垣のくひにもたれるのです。
芝居小屋は鎭守ちんじゆの森の後ろ、北向の薄寒さうな空地に、くひを打ち、板を張り、足りないところは、葭簾よしずと古い幕をめぐらして、どうやら恰好だけはつけて居りました。
二人の船頭はそれを聞くと、堤の下のくひに繋いだともづなを解いて、もう艪を押す支度をして居ります。
佐渡屋の妹娘のおのぶといふ十四になるのと、手代の直次郎とおひの與之助の三人、女主人のお兼は、すぐ助けられて大したこともなく、娘のお絹はくひか何んかで肩を打ちましたが
「橋架でなきや水の中にくひでもあつたのかな」