木賊とくさ)” の例文
九州では赤間あかま、三河では岡崎、尾張の木賊とくさ、越後の三条、信州では戸狩——殊に戸狩花火は松代まつしろ藩主の真田さなだ侯が自慢なものであった。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一杯飲んでいる内には、木賊とくさ刈るという歌のまま、みがかれづる秋のの月となるであろうと、その気でしのノ井で汽車を乗替えた。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「松葉色の様なる御納戸」とか、木賊とくさ色とか、鶯色とかは、みな飽和度の減少によって特に「いき」の性質を備えているのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
羊歯しだ木賊とくさの多く生えている谷沿いの、湿地を下りてから、路も立派についている、能呂川の縁の、広河原というところへ出た
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それから又苔類、士馬※すぎごけ類、羊齒しだ類、木賊とくさ類、蘇鐵そてつ類、公孫樹いてふ類、被子植物の中の單、雙子葉顯花植物類等にも、發光する種類があるさうだ。
光る生物 (旧字旧仮名) / 神田左京(著)
二時間も探し廻った末に漸く倒れ朽ちた国境の標木を見出して、辛くも木賊とくさ山との鞍部に辿り着くことを得たのであった。
思い出す儘に (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ところどころ大きなガレがあって、そんなところは特にその感を深くした。ひがし木賊とくさの廃屋の手前の沢で軽い昼食をとる。
Nさんは氷嚢ひょうのうを取り換えながら、時々そのほおのあたりに庭一ぱいの木賊とくさの影がうつるように感じたと云うことである。
春の夜 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さるによつて明日あすよりは、木賊とくさヶ原はら朱目あかめもとに行きて、療治をはんといふことまで、怎麼いかにしけんさぐりしり
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
法水の友人で、胎龍と並んで木賊とくさ派の双璧と唱われた雫石しずくいし喬村の家が、劫楽寺と恰度垣一重の隣にあって、二階から二つの大池のある風景が眼下に見える。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
申すまでもなく天の仕事に無理はないのであって、この庭にごらんの通り木賊とくさがつんつんと生えております。
奇妙なようすをした古生銀杏ベイエラの細い枝や、白柏木ウルマニアの根茎が蛇のようにからみあって、不気味に水の上へ垂れさがり、白亜紀のブエンタタという木賊とくさ網羊歯グロッソブテリス
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私は次の日も木賊とくさの中に寝ている彼を一目見た。そうして同じ言葉を看護婦に繰り返した。しかしヘクトーはそれ以来姿を隠したぎり再びうちへ帰って来なかった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
客間の庭には松や梅、美しい馬酔木あせびかや木賊とくさなど茂って、飛石のところには羊歯が生えていた。
雨と子供 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その頭上にはとねりこかしが、半かけの月光や星の光を、枝葉の隙からわずかこぼし、野葡萄のぶどう木賊とくさ蕁麻いらくさすすきで、おどろをなしている地面の諸所へ、銀色の斑紋を織っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庭にはよろよろとした松が四、五本あって下に木賊とくさが植えてある。ちり一つ落ちて居ない。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
褐色の木賊とくさのやうなものの群生が刈り殘されてあるのが、美しく珍らかに眺められた。
北信早春譜 (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
濕地蕗ヤチぶきや大いたどりの人影を沒する間をかき分け、水芭蕉や、濕地ぜんまいや、道一面の木賊とくさなどを踏み行き、一條の小流れへ出ると、ちよツとしたドロ柳の曲りくねつた幹の上で
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
どこかが少しきつく当たって痛むような場合に、その場所を捜し見つけ出してそこを木賊とくさでちょっとこするとそれだけでもう痛みを感じなくなる。それについて思い出すのは次の実話である。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
白の猫庭の木賊とくさの日たむろに眼はほそめつつまだうつつなり (一〇二頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
此処ここだけの別な前栽せんざいがあって、その向うに、かえでの老樹の新緑を透かして持仏堂のいらかが見え、石榴ざくろが花を着けている鉢前はちまえのあたりから那智黒なちぐろ石を敷き詰めたみぎわへかけて、おびただしい木賊とくさが生えているのを
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それから間の空地では木賊とくさのやうにだんだらに染め分けた糸を張つてかみさんや子供が手で操つて居た。伊予がすりを作るのなそうな。今朝遅く起き朝昼兼帯の飯で済したむくひは土手で腹が減つた。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
と手を振っていなむので、ではとぜひなく、後日の会合を約して、四ツ目屋の新助とお蝶のかごは、木賊とくさ谷をくだって山つづきの深くへ影を消しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此時は足拵あしごしらえがよかった為めに凍傷にもかからずに済んだが、一月の中旬、金峰きんぷ山麓の増富鉱泉から、木賊とくさ峠を踰えて黒平くろべらへ出た時の旅では、何等の用意もしないで
冬の山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「なるほど、あれが音に聞く木賊とくさ山と地主山か。……このようすを見ると、まるで山村。……おわこいうちにこんなところがあるとは思われない、いや、大したもんだ」
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
われ今日かの木賊とくさヶ原はらに行き、路傍みちのほとりなる松の幹の、よき処に坐をしめて、黄金丸が帰来かえりを待ちけるが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
それは一つには姉も弟も肺結核はいけっかくかかっていたためであろう。けれどもまた一つには四畳半の離れの抱えこんだ、飛び石一つ打ってない庭に木賊とくさばかり茂っていたためである。
春の夜 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
翌日よくじつは何だか頭が重いので、十時頃になってようやく起きた。顔を洗いながら裏庭を見ると、昨日きのう植木屋の声のしたあたりに、さい公札こうさつが、あお木賊とくさの一株と並んで立っている。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庭に生えている木賊とくさの恰好や色と云い、少しこわいような、秘密なような感情を起させる。積んである座布団に背を靠せて坐り、魔法の占いでもするように、私は例の百銭をとり出す。
百銭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「単に私は木賊とくさの役、殿が名玉でありましたゆえ、光を発したのでございます」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……ながむれば、幼い時のその光景ありさま目前まのあたりに見るようでもあるし、また夢らしくもあれば、前世がうさぎであった時、木賊とくさの中から、ひょいとのぞいた景色かも分らぬ。待て、こいねがわくは兎でありたい。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松が四、五本よろよろとして一面に木賊とくさが植えてある、爰処ここだ爰処だ、イヤ主人が茶をたてているヨ、お目出とう、(と大きな声をする。)聞こやしないや。ここは山北だ。おいおいあゆすしはないか。
初夢 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
┌ふと時をり木賊とくさの蔭を真白き猫耳立ててをどり何の気はひなき
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
却説さて江州甲賀ごうしゅうこうがの山奥木賊とくさ村庄屋家記かきによると、弦之丞は両刀をすて、農となってその地で終っている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此処で奥千丈山塊から東北に派出された所謂いわゆる芦毛山脈の突端と、木賊とくさ山の東峰から南に派出された尾根の突端とが、まるで袋の口を括ったように南北から迫り合って
それは、古生代三畳紀のレーチック植物といわれるものの一種で、そのころ、羊歯や木賊とくさなどとともに地球の全表面をおおっていた Nilsoniaニルソニア という蘇鉄である。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
玄関の東側には廊下があり、その廊下の欄干らんかんの外には、冬を知らない木賊とくさの色が一面に庭をうづめてゐるが、客間の硝子ガラス戸を洩れる電灯の光も、今は其処そこまでは照らしてゐない。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いふ時鷲郎が後より、黄金丸は歩み来て、呵々からからと打笑ひ、「なんじ黒衣。縦令たとひ酒に酔ひたりともわがおもては見忘れまじ。われは昨日木賊とくさヶ原はらにて、爾に射られんとせし黄金丸なるぞ」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「私から——ええ私から——私から誰かに上げます」と寄木よせきの机にもたせたひじねて、すっくり立ち上がる。紺と、濃い黄と、木賊とくさ海老茶えびちゃ棒縞ぼうじまが、棒のごとくそろって立ち上がる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふと時をり木賊とくさの蔭を真白き猫耳立ててをどり何のけはひ無き
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
殿は名玉私は木賊とくさ
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
笛吹川の一の釜の瀑、荒川の上流入川いりかわ谷の木賊とくさ瀑、釜沢の両門瀑などは、相当に見られる瀑である。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
玄関の東側には廊下らうかがあり、その廊下の欄干らんかんそとには、冬を知らない木賊とくさの色が一面に庭をうづめてゐるが、客間の硝子ガラス戸をれる電燈の光も、今は其処そこまでは照らしてゐない。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、金峰きんぷ木賊とくさに冷たい霧がながれてくるたびに、山は秋に染められてゆきます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六畳の座敷は南向みなみむきで、拭き込んだ椽側えんがわはじ神代杉じんだいすぎ手拭懸てぬぐいかけが置いてある。軒下のきしたから丸い手水桶ちょうずおけを鉄のくさりで釣るしたのは洒落しゃれているが、その下に一叢ひとむら木賊とくさをあしらった所が一段のおもむきを添える。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唐突に羊歯や木賊とくさ参々しんしんと密生した仄暗い沼沢の中へ押出された。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
左の山は陸測五万の金峰山図幅に二千四百六十八米と測られたもので、栃本の猟師は木賊とくさ沢ノウラ、梓山の猟師は雲切山と呼んでいる。右の山は言う迄もなく三宝さんぽう山である。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
が、離れへ行って見ると、清太郎は薄暗い電燈のしたに静かにひとり眠っている。顔もまた不相変あいかわらず透きとおるように白い。ちょうど庭に一ぱいに伸びた木賊とくさの影のうつっているように。
春の夜 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「裏山から阿弥陀街道あみだかいどうへ抜けろ。でなければ、木賊とくさの奥から秩父ちちぶの道へ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瀑布は入川いりかわ谷の支流荒川の権太瀑、真ノ沢に木賊とくさ瀑が懸っている。花崗岩の侵蝕谷には笛吹川の上流東沢、西沢の奇峡がある。花崗岩と古生層との侵蝕谷には入川谷、滝川谷がある。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)