木挽こびき)” の例文
そうすると、いろいろ難儀なことが出来て、実に閉口したと帰って来てから後藤君が話された処によると、木挽こびきは木を四ツにしたのです。
小屋の横に、おおきな材木が枕木に横たわっているし、辺りに大鋸屑おがくずが積もっているなどから見ても、これは木挽こびき職人の寝小屋らしかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、一両日前会津の山奥から送つてきた狸を、木挽こびき町の去る割烹店へ提げ込んだ。そこの主人が、料理に秘術を尽すと言ふことであつた。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
京橋木挽こびき町の或る大建築の前の缶詰兼洋酒類煙草屋は、震災前、海軍大学その他、高等海員向きの女の世話をするので通人間に知られていた。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
お前の着物もぬってくれるし、お前が木挽こびきの仕事につかれて帰ってくると、ちゃんとゴハンの支度ができていて、つかれた肩をもんでくれるなア。
紀の国橋を渡って木挽こびき町の方へしばらく行ったところにこの正さんの古物骨董の店があって、正さんは雨さえふらなければ毎夕車の上に荷をのせて
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
實地を知らない友人に空想と笑はれない爲め、渠はあちらで實見した材料の控へ帳と、相當な大工並に木挽こびきに製調させた見積り書とを出して見せた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
十六歳から六十歳までの人別にんべつ名前をしたため、病人不具者はその旨を記入し、大工、そま木挽こびき等の職業までも記入して至急福島へ差し出せと触れ回した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
現に前表における木挽こびきのごとき、一日八時間の労働ならば、その消費総熱量は約五千カロリーなれども、もし労働時間を延長してかりに十二時間となさんか
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
越中沢岳から東に派出した尾根の突端に在る木挽こびき山は、奥廊下の大勢を窺うには好都合の位置を占めている。
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
道具箱からのみ金槌かなづちを持ち出して、裏へ出て見ると、せんだっての暴風あらしで倒れたかしを、まきにするつもりで、木挽こびきかせた手頃なやつが、たくさん積んであった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高田の藩中数十軒のまきは、皆この山中より伐出す。およ奉行ぶぎょうより木挽こびきそまやからに至るまで、相誓ひて山小屋に居る間、如何いかなる怪事ありても人に語ること無し。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「こんど木挽こびき町の森田座で」とおくみは俯向うつむきながら答えた、「芝居狂言の語り物に出たところ、たいそう評判がいいので、上方かみがたの興行に買われてゆくのだそうです」
木挽こびき與吉よきちは、あさからばんまで、おなじことをしていてる、だまつて大鋸おほのこぎりもつ巨材きよざいもとひざまづいて、そしてあふいで禮拜らいはいするごとく、うへからきおろし、きおろす。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
角川の家は代々の郷士で、かたわらに材木伐出きりだしの業を営んでいたので、家の雇人等も木挽こびきの職人と一所に山奥へ入ることが屡々しばしばある。重蔵も十二三歳の時から山へ入った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いやしい運命に滿足することを説教し、木挽こびきや水汲みの職さへ神の奉仕にあれば正しとした僕が——神に命ぜられた牧師の僕が、落着がなく殆んど氣がくるひさうなんです。
のち木挽こびき町の芝居守田勘弥かんや座の出方でかたの妻となったが、まもなく夫と死別し、性来の淫奔大酒いんぽんたいしゅに加うるにばくちを好み、年中つづみの与吉などというならずものをひきいれて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大橋流の書もいし、絵は木挽こびき町の狩野かのうの高弟で、一僊いっせんといって、本丸炎上の時は、将軍の居間の画を描いたりしたほど出来たし、漢学も出来る、手をとって教えてもらった。
父は若いころ、田植をどりといふのを習つてその女形をんながたになつたり、堀田ほつたの陣屋があつた時に、農兵になつて砲術を習つたり、おいとこ。しよがいな。三さがり。おばこ。木挽こびきぶし。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
堀際には立木があり、一方には木挽こびき仕事座しごとざ、一方には水揚みずあげした角材がある。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
本誌七巻三号の倉光君の報告せられた「かまとクグ」(五九頁)によると、今でも山陰地方では、山子・木挽こびき・石屋等に限って、かます様の藁縄製の袋を携帯しているが、旧皮屋部落の青年が
荒い歯ののこぎりを借りて来て木挽こびきのまねをやつては見たが、薪にこしらへたとて所望者があらうわけもないので、腹をへらすだけ馬鹿らしいと、そのまゝ打つちやらかして置いたそれなのだ。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
日暮れごろから、木挽こびき町のさる料理屋の大広間で、社の懇親会があった。雨がびしょびしょ降っていた。庭の木立が白くけむっていた。池の岸に白と紫の大輪の杜若かきつばたえんに水々しく咲いていた。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
どうしておろそかな労力では洗いきれるものではなかったのですが、もとよりそれをいとう右門ではないので、その翌早朝伝六を従えると、まず第一番に木挽こびき町なる柳生の道場に出向きました。
黒いひげ、首に重々しくたれさがった毛、没表情の太いしわが寄ってるひたい、粗雑な木彫のように変な四角形な顔、短い腕、短いあし、でっぷりした胸、まるで木挽こびきかオーヴェルニュの人夫みたいだった。
そのために、彼は常に往来する要処要処に、「馬継うまつぎ」をする小屋をもっている。多くは猟師りょうしの小屋か、木挽こびき小屋などであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その木挽こびきの代が十円ほど。木代、木挽代、運賃引ッくるめてずっと高く積ってまず四十五円位のものであろうと私は見ました。
また大工とか木挽こびきとかいう山の木に関係のある職業の人が、今でも御太子様といって拝んでいるのも、仏法の方の人などは聖徳太子にきめてしまっておりますが
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
木挽こびき業者のごときは、その労働中の所要熱量は休業中のほとんど五倍ないし六倍に達するのである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
おくみが案内して、木挽こびき町へ芝居見物にでかけたのだそうである。その年の三月に、木挽町五丁目は森田勘弥かんやの芝居が建ったが、おくみはそこへ律を案内したのであった。
しかし自分ひとりではさすがに不安でもあるので、喜平は自分の店へ出入りの銀蔵という木挽こびきの職人を味方にひき込もうとすると、銀蔵も年が若いので面白半分に同意した。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「かうやつて、かういてるんだぜ、木挽こびき小僧こぞうだぜ。お前樣まへさんはおかみさんだらう、柳屋やなぎやのおかみさんぢやねえか、それねえ、此方こつちでお辭儀じぎをしなけりやならないんだ。ねえ、」
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
先ず神田辺から相生町、深川の木場、日本橋の裏通り、京橋の八丁堀、木挽こびき町、新富町あたりの彼等の昔の巣窟を探検して見ると、どうしたことか彼等の巣窟らしい気分がちっともない。
最も近く大きな蛞蝓なめくじを匍わしたような鬼ヶ岳と、黒部の谷を横さまに駿馬の躍るが如き木挽こびき越中沢二山との間に、五色ヶ原の曠原こうげんが広く長き段階状に展開して、雪と緑とそして懐しさとが溢れている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あの地方の“木挽こびきぶし”といふ民謠がおもしろくて、毎夕、仕事がすむと、土地のおばあさんを呼んで、物ずきに、木挽ぶしを習つてゐたのだつた。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
よほど大家の娘だろう、もう来ないのではないかと思ったが、中一日おいて、木挽こびき町の清川という料理茶屋から迎えが来た。先日のお礼に一と口さしあげたいからという。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
豪胆な木挽こびきなどが退屈のあまりに、これに戯れたなどという噂のあるのは自然である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
船頭せんどう馬方うまかた木樵きこり機業場はたおりば女工ぢよこうなど、あるがなかに、木挽こびきうたうたはなかつた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その頃まではどこの材木置場にも木挽こびきが活躍していたので、現場の周囲が随分遠くまで新らしい鋸屑だらけだ。犯人もそこを狙って仕事をしたものらしく足跡が全くわからないのには弱ったよ。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
木挽こびき 四二 五—五 一六七 八六 五〇一 五三八四 
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
「ところで、木挽こびきの方はどうした」
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仕事の隙間に駈けてきたような百姓や、木挽こびきや、赤子の手を引ッぱったかみさんや、頭へ荷を乗せている物売りや旅人。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船頭、馬方、木樵、機業場はたおりばの女工など、あるが中に、この木挽こびきは唄をうたわなかった。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木挽こびき炭焼すみやきの小屋に尋ねてきて、黙って火にあたっていたという話もあれば、川蟹かわがにを持ってきて焼いて食ったなどとも伝えます。塩はどうするかという疑いのごときは疑いにはなりませぬ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今日は木挽こびき町夫人の一周忌であった。何もしなかった。別に何も考えなかった。余の下宿している家の老婆は、娘の事で今日も留守にしている。天候はやや恢復したようだ。併しまた降ることだろう。
「はい。いぜんの羅刹谷らせつだににはおいでなく、あれよりもっと山深い木挽こびきの小屋に兵火の難を避けておられました」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
附馬牛つくもうし村にもあり。本業は木挽こびきなり。柏崎の孫太郎もこれなり。以前は発狂して喪心したりしに、ある日山に入りて山の神よりその術を得たりし後は、不思議に人の心中を読むこと驚くばかりなり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
つから家業かげふらんでの、わしら、木挽こびき木樵きこりる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時の旅行目的は、熊本を中心に、武蔵に関する史料蒐集にあったのだが、もっぱら郊外の一日亭に沈酔して、二人で“木挽こびきぶし”ばかりを稽古していた。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
附馬牛つくもうし村にもあり。本業は木挽こびきなり。柏崎の孫太郎もこれなり。以前は発狂して喪心したりしに、ある日山に入りて山の神よりその術を得たりしのちは、不思議に人の心中を読むこと驚くばかりなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)