日光にっこう)” の例文
旅に限りがあって、そう長い江戸の逗留とうりゅうは予定の日取りが許さなかった。まだこれから先に日光にっこう行き、横須賀よこすか行きも二人を待っていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日盛ひざかりごろで、あたりは、しんとして、つよなつ日光にっこうが、や、くさうえにきらきらときらめいているばかりでした。
泣きんぼうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さ「お村や、うんとお云いよ、有難い事だ、姉さんが何とか、日光にっこう御社参ごしゃさんとかいうお方が妾になれと仰しゃるのは有り難い事だから、諾とお云いよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
案内者は当然の順序として、まずわたしを白雲山はくうんざんの妙義神社に導きました。社殿は高い石段の上にそびえていて、小さい日光にっこうとも云うべき建物です。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この人からいろいろ学術上の仕事の話を聞いた後に「日光にっこうは見たか」と聞いたら「否」、「芝居は」と聞いたら「否」と答えたきりで黙ってしまった。
北氷洋の氷の割れる音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
脇立わきだちの梵天ぼんてん帝釈たいしゃくの小さい塑像(日光にっこう月光がっこうともいわれる)が傑作であることには、恐らく誰も反対しまい。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
本を読んでかれの長所を取りもってわが薬籠やくろうにおさめればいい、それだけだ、通弁になって、日光にっこうの案内をしようという下劣な根性のものは明日あすから学校へくるな
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
地図を見ると輯製二十万分一図の日光にっこう図幅にも、地質調査所の四十万分一予察図にも明記してあるが、いずれも標高を記してない、しかし三魚沼の最高峰とすると
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
私は、外人で日本を訪れる人のために、通訳となって日光にっこうの案内をやったこともあった。外人を理解することが、私の目的であった。私はそれによって、得るところは多かった。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
市民たちも、摂政宮せっしょうのみや殿下が御安全でいらせられるということは早く一日中に拝聞して、まず御安神ごあんしん申し上げましたが、日光にっこう田母沢たのもざわの御用邸に御滞在中の 両陛下の御安否が分りません。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
というのは、怪賊は果して、僅々数日の後再び聞くも恐ろしい大犯罪を企てたが、その場所は、何という出没自在、意外にも東京から遠く離れた日光にっこう山中の、鷲尾侯爵家わしおこうしゃくけの宏壮な別邸内であった。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
また飛鳥山あすかやまより遠く日光にっこう筑波つくばの山々を見ることを得ればただちにこれを雲の彼方かなた描示えがきしめすが如く、臨機応変に全く相反せる製図の方式態度を併用して興味津々しんしんよく平易にその要領を会得せしめている。
木彫きぼり日光にっこう陽明門ようめいもんがくが、心持ち曲っていただけです」
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日光にっこうへ行った時は紅葉もみじの葉を一枚封じ込めた郵便も貰った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして日光にっこうなかって、とりながめてました。
きんピカ日光にっこう(発端篇)
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宝石商ほうせきしょうさん、あなたのおちなさるひすいのように、そのうみいろは、あおくうるんでいます。また、真珠しんじゅのように、真昼まひるには、日光にっこうかがやいています。
花咲く島の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その最も代表的な例を我々は三月堂本尊に侍立せる白く剥落せる二つの塑像そぞう日光にっこう月光がっこう)や、戒壇院の四天王や、聖林寺しょうりんじ十一面観音などに見いだすことができる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その通路があたかも杉並辺の上空にあたり、下町方面へ進行するにしたがって雷雲も次第に稀薄になるように思われる。但し俗に「北鳴り」と称して、日光にっこう方面から押し込んで来る雷雲は別物である。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三十歳の家内が妙に色っぽくなるのですよ「一造のIでしょう。園のSでしょう。まだあなたと一緒にならない前、お互の心が変らないおまじないに、これ縫ったのですわ。分って。どうしたのでしょうね。学校の修学旅行で日光にっこうに行った時、途中で盗まれて了ったつもりでいたのに」
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたしは、十ねん、二十ねん牢獄ろうごくにあった囚徒しゅうとが、放免ほうめんされたあかつき日光にっこうのさんさんとしてみなぎる街上がいじょうへ、されたときのことを想像そうぞうしたのであります。
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは真夏まなつ時分じぶんちがって、幾分いくぶんよわく、またあつさもひどくかんじなかったけれど、ふか谷河たにがわへだててあちらのいわをも日光にっこうらしていたのであります。
大根とダイヤモンドの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うすい、白雲しらくもやぶって、日光にっこうはかっとまち建物たてものらしていました。くるまとおります。自転車じてんしゃはしっていきます。
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
すがすがした空気くうきと、自由じゆう世界せかいにみなぎる、日光にっこうけることから、さえぎられて、毎日まいにち、ここでるものは、まちすなぼこりのけむりと、ざわざわある人間にんげん姿すがたと、自動車じどうしゃ
ガラス窓の河骨 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まえには、いろいろの雑草ざっそうはなが、はげしい日光にっこうびながらいて、ちょうや、はちがあつまっているのがながめられましたけれど、ここだけは、まったくかげって
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しじゅうからは、のしげったかしのつけて、をかけようかと、ともだちとえだあいだびまわっていました。日光にっこうしぐあいなどをしらべなければならなかったからです。
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)
みんなの希望きぼうまで、自分じぶん生命せいめいなか宿やどして、大空おおぞらたかえだひろげて、幾万いくまんとなくむらがったの一つ一つに日光にっこうびなければならないとおもいましたが、それはまだとおいことでありました。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)