整頓せいとん)” の例文
子規の全作物を整頓せいとんしての考えで、彼の詩を照し合せて見ると、やはりみゅうずやぶぃなすをそういう風に言い表しただけであった。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
農林学校出身の、地主のせがれ欣之介きんのすけは毎日朝早くから日の暮れるまで、作男の庄吉を相手に彼の整頓せいとんした農園の中で余念なく労働した。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
そして、その内容も整頓せいとんされ、そのために同一の効果に対して、水夫たちは以前の三分の二の労働と時間とで済むくらいになった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
しかし立派な整頓せいとんされた作品をたくさん持っていること、その芸術は外面的ではあるがきわめて正統派的であることは特筆される。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
さて上記の付け句の制作過程は便宜上分析的に整頓せいとんしてみただけであって、制作当時実際にこのとおりに意識的に行なっているのではない。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
手に取るように知ってしまったのであるが、いつ見てもコック場の器物がきちんと整頓せいとんしていることは驚くべきものであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みすぼらしい家に入れられ、ろくでもない家具を整頓せいとんするのに一日じゅうこき使われたんだ。あれは、生れてはじめて家事の疲れを知ったんだ。
(新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
かつ他日この悪道路が改善せられて市街が整頓せいとんするとともに、他の不必要な整頓——階級とか習慣とかいう死法則まで整頓するのかと思えば
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
彼女は机の上やまわりに乱雑に置かれた本や書類や文房具などを整頓せいとんしてきれいに並べるであろう。そして彼女は満足する。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
夜はおそくまで、部屋の整頓せいとん。机の引出の中まで、きれいに片づけた。読み終った本と、これから読む本とをりわけて、本棚を飾り直した。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
きちんと整頓せいとんした広い部屋の一隅に小さな机があって、ホヤの綺麗に掃除された置ラムプの光の下で、園ははたして落ち着いて書見していた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
逆巻くなみのように、こずえや枝葉を空に振り乱して荒れ狂っている原始林の中を整頓せいとんして、護謨ゴムの植林がある。青臭い厚ぼったいゴムの匂いがする。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あらゆる下層の人たちでさえその整頓せいとんした服装がどんなに電車を美しく見せ人を美しく見せている事か知れなかった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
宇宙の偉大なる彫刻家はその創造の日において、形のでき上がった被造物の離れ離れの各部を整頓せいとんすることには、あまり心を用いなかったに違いない。
狭い勝手の揚げ蓋の隅に、古い蜜柑箱みかんばこがあって、その中に口の欠けた醤油注ぎや、ペンチや、ドライバーや、油じみた軍手や、ぼろ布が整頓せいとんされてある。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これまでは真の遊び半分という有様なりしがこの時よりやや真面目まじめの技術となり技術の上に進歩と整頓せいとんとを現せり。少くとも形式の上において整頓し初めたり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
教育博物館の方はなかなか整頓せいとんしていて、植物などはいろいろな珍しいものがあつめてあったが、或る方面は草茫々ぼうぼうとして樹木しげり、蚊の多いことは無類で、全く
馬鹿に几帳面きちょうめんな男と見えて、部屋の中は、他のどの止宿人のそれにもまして、キチンと整頓せいとんしています。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一同いちどう無聊むれうなぐさめんがめに凖備じゆんびしてこととて「テニス、コード」も射的塲しやてきば仲々なか/\整頓せいとんしたものである、しかし、このしま一番いちばん流行はやるのは端艇競漕ボートレース野球競技ベースボールとであつた。
房内はきちんと整頓せいとんされていてきれいであった。入って右側には木製の寝台があり、便所はその一隅に別に設けてあり、流しは石でたたんで水道さえ引かれているのである。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
けだし「無所得」の境地というのは、心を綺麗きれいさっぱりと片づけておくことです。化粧しておくことです。整頓せいとんしている座敷、それが無所得の世界だと思えばよいでしょう。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
そして両翼りょうよく嚮導きょうどうによって整頓せいとんを正され終わると、そのあとはかべのように動かなくなった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかも経済上の真理は更にこう付言しています——この世の中というものは整頓せいとんした個人的事業、すなわち無事な上着が多ければ多いほど、ますます強固な社会的基礎が築かれ
生産的進歩は、争乱の時代と并存せず、天下太平は、武備機関の制度と両立せず、今や武備機関の整頓せいとんは、その生存と両立せざる平和をもたらし来れり。しこうして平和は何物を齎らす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「そんならあすの朝は立たれますね」と、女が機嫌く云った。女は忙しそうに箪笥たんすから行李へ、行李から書棚へ、書棚からまた行李へと走って、物を整頓せいとんしては詰め込んでいる。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
湖龍斎が明和年代の板画には春信に酷似するもの多かりしが、安永二、三年以後に至りその筆勢は次第に強硬となり、布局は整頓せいとんし、一体の画風春信に比すれば著しく綿密となれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
室内の心地こころもちよく整頓せいとんされた光景さまを見ても、長く旅舎住居をした人ということが分る。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
極めて清潔なると器具配置の整頓せいとんせると立働たちはたらきの便利なるとねずみ竄入ざんにゅうせざると全体の衛生的なるとはこの台所の特長なり。口画をひらく者は土間の中央に一大ストーブのすえられたるを見ん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
僕は黙って自分の席を整頓せいとんし始めた。僕は子供の時から物を散らかして置くということが大嫌である。学校にはいってからは、学科用のものと外のものとをり分けてきちんとして置く。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そうして、この、物理の懊悩おうのうと、天体の憂患と、犬猫いぬねこ狼狽ろうばいと、人知の粉砕のすぐあとに来たものは、ふたたび天地の整頓せいとんであり、その謳歌おうかであり、ひまわりサン・フラワーどもの太陽への合唱隊だった。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
雑音コソハ、直チニ研究ニ取懸とりかかルニ適シタ未知電波ダ。コレヲ探求シ、分析ぶんせきシ、整頓せいとんシ、再現スルコトニヨッテ、ワレワレハ自然界ノ新シキ神秘ニ触レルコトガ出来ルノデハナイカト思ウ。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二階の室に火がかれてゐたので、私はそこへ書物を運んで、以後そこを勉強部屋にするやうに整頓せいとんした。朝の時間がたつてゆくうちに、私はソーンフィールド莊が變化してゐることを認めた。
そこにはよき順次が保たれ、生活は整頓せいとんし、価格は支持され、経済は保証せられた。人々は力をあわせて作業に対し商業に対し道徳を支えた。働く者には創造の自由があり、仕事への愛着があった。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
午後二時頃には一室が一先ひとま整頓せいとんした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
短歌たんかなどもそれで、日本につぽんはじめのうたから、非常ひじよう整頓せいとんおこなはれ/\して、かういふ簡單かんたんで、おもひのふかかたちが、出來できたのであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ごめんどうですがね、あす定期検閲な所が今度は室内の整頓せいとんなんです。ところがぼく整頓風呂敷せいとんぶろしき洗濯せんたくしておくのをすっかり忘れてしまってね。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これは調子なども洋画風に整頓せいとんした古い阿蘭陀オランダ派の油絵に似たものが多く、主として、風景、人物、風俗あるいは汽船とか、西洋名勝などがあります
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
さう言ふ宅の市の住居はなか/\よく整頓せいとんされて居り、なまじ眼明きの家よりはサツパリして居るくらゐです。
無の生活を、どんなに反省しても、整頓せいとんしても、やっぱり無である。それを、くどくど書いているのは、実に滑稽こっけいである。お前の日記は、もう意味ないぞ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
整頓せいとんした、等辺三角形の、握り飯を一つずつ、親方から受け取って、船室へ持って来ては食っていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
着物を縫ったり、縫い直したり、また女中の指図をした。整頓せいとんと清潔とに病的なほど気を配った。
新開地の北海道で内地的といえば、説明するまでもなく種々の死法則のようやく整頓せいとんされつつあることである。青柳町の百二十余日、予はついに満足を感ずることができなかった。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
総勢の隊伍たいごを、第一班から第六班までの備えに編み、騎馬の使番に絶えず前後周囲を見回らせ、隊列の整頓せいとんと行進の合図には拍子木ひょうしぎを用いることなぞ皆この人の精密な頭脳から出た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこには不規則ながら整頓せいとんができ、かすかながらテンポと調和とが現れはじめた。
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして一人者のなんでも整頓せいとんする癖で、新聞を丁寧に畳んで、居間の縁側の隅に出して置いた。こうして置けば、女中がランプの掃除に使って、余って不用になると、屑屋くずやに売るのである。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
講堂では、掃除はもうあらかた終わって、机や椅子いす整頓せいとんにとりかかるところだった。そこは、第一室と第二室の共同の受け持ちだったらしく、田川大作や青山敬太郎などの顔も見えていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
余は日々にちにち時代の茶番に打興うちきょうずる事をつとむると共に、また時としては心ひそかに整頓せいとんせる過去の生活を空想せざるを得ざりき。過去を夢見んには残されたる過去の文学美術の力によらざるべからず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今の内は社会に制裁がないから幇間的ほうかんてき文学や軽業的かるわざてき文学が跋扈ばっこしているけれども他日社会が規律的に整頓せいとんして文字もんじを読まず精神を読むという時代になったら大原君の如き人が最も尊崇そんすうを受けるだろう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
簡単にいうと(そういって古藤はその手紙の必要な要点を心の中で整頓せいとんするらしくしばらく黙っていたが)
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あるものはただ、整頓せいとんした形式と、美しい旋律と、そして誰にでも呼びかけ、どんな時でも、我らの心持をなごめずにはおかない、やさしき愛情であったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)