さす)” の例文
そして与里は、棒ほどもない痩腕を蒲団の中から抜き出して、まるで子供をあやすやうに、静かに玄也の頭をさすりはぢめたのであつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
なかにも年少ねんせう士官等しくわんら軍刀ぐんたうつかにぎめて、艦長かんちやう號令がうれいつ、舷門げんもんほとり砲門ほうもんほとり慓悍へうかん無双ぶさう水兵等すいへいらうでさすつてる。
しびれをきらした足をさすり/\、跛犬びつこいぬのやうな格好で逃げて行く後ろ姿を、平次は腹を抱へて笑ひながら見送つて居ります。
其夜は十風は珍らしく熱が無いといつて大變元氣がよく此頃手傳ひに來た細君の從妹とかいふ十五六の小娘に足をさすらせ乍ら三藏と快談した。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
男は両手で女の髪をさすって、「泣くのじゃないよ」と優しくささやいた。それでも泣くので、「もうせよ」と言い足した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
繼「何もいじゃア有りませんか、お前さんの長い煩いのうちには私が足をさすって居ながら、ついころりとお前さんの床の中へ寝た事もございますよ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それからこの犬は人間というものを信用しなくなって、人が呼んでさすろうとすると、尾を股の間へ挿んで逃げた。
予は少しく思ふよしあれば、其かうべで、せなさすりなどして馴近なれちかづけ、まかなひの幾分をきて与ふること両三日りやうさんじつ、早くも我に臣事しんじして、犬は命令を聞くべくなれり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
留守を守る女房のおまさは、おさすりからずるずるの後配のちぞいれっきとした士族の娘と自分ではいうが……チト考え物。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
偖又雲助共は再び一所に集合あつまり己れはすねを拂はれわれは腰を打れたりと皆々疵所きずしよさすり又は手拭てぬぐひなどさいて卷くもあり是では渡世が六ヶ敷と詢言々々つぶやき/\八九人の雲助共怪我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれ等は皆なリツプを見て驚く様子で、また言ひ合はせた様に、頤をさすります。リツプは覚えず自分の頤を摩つてびつくりしました、髯が一尺も長く伸びて居たから。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
彼は女の頤の下をくすぐるやうな積りで牛の頤をさすった。牛は一向手応へもなくぢっとしてゐた。
牛を調弄ふ男 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
それに比べると、種牛は体格も大きく、骨組もたくましく、黒毛艶々として美しい雑種。持主は柵の横木を隔てゝ、其鼻面を撫でゝ見たり、咽喉のどの下をさすつてやつたりして
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この私の見方は丁度、三人の按摩さんが各自思い思いに象のからだの一部をさすって見て
アメリカ文士気質 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
二時間も前から鳩尾みぞおちの所に重ねて、懐に入れておいた手で、襯衣の上からズウと下腹までさすつて見たが、米一粒入つて居ぬ程凹んで居る。渠はモウ一刻も耐らぬ程食慾を催して来た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
公にられぬようにこっそりのぞいて見るとさも痛そうな顔色をして痛みある局部をみずからさすっていても、誰か病室に入れば、ただちに面相めんそうを変え、痛みなきふうをよそおったという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おやじの腕を静にさすりながら、熱に浮かされて赤みばしった爺の眼を見、其の白髪頭から其の皺だらけの額から大粒の汗の湧くを見、其の唇のいらいら乾くを見て居たが、そっと腕を置いて
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そっと何とか自分の胸を撫でさすって、怨めしさを塗り潰して置きたかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
うずまく雲、真黒にとまって動かぬ雲、雲の中から生るゝ雲、雲をさすって移り行く雲、淡くなり、濃くなり、淡くなり、北から東へ、東から西へ、北から西へ、西から南へ、逆流ぎゃくりゅうして南から東へ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「お腰をお掛け遊ばしまし、少しおぐしをおさすり申上げませう」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
窪みたるまなこしみじみいとほしと鏡にむかひさするわれなり
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
すると、幽斎は腰をさすり摩り起きあがりざま
器用な言葉の洒落 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
匂はおもむろに起き上りて腕をさす
花枕 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
新吉は仕方がないから足をさすって居りますと、すや/\疲れて寝た様子だから、いゝ塩梅だ、此の間に御飯でもべようと膳立ぜんだてをしていると這出して
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
も爲べけれども母をつれ遙々はる/″\きたりしなればと燃立もえたつむねさすり何事も勘辨かんべんして寥々すご/\金屋の家を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
三藏は事の原因を解し兼ねて甚だ手持無沙汰に默然として坐つてゐる。十風は死んだものゝやうに寂寞として目を瞑つた儘ぢつとして居る。細君も默つて只靜かに背中をさすつて居る。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
『こんなはづではないのだが。』とうでさすつてたが、とてかなさうもない。
すると、幽斎は腰をさすさすり起きあがりざま
名残が惜しいから暇乞いとまごいをしながら馬の前面まえづらなでて、おれえ江戸へき、奉公してけえって来るまで、達者で居て呉んろとわしい泣きやんして、其の馬を撫でたりさすったりしやすと
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しきイザとすゝむ箱枕はこまくらのみならぬ身の親父が横に成たる背後うしろへ廻り腰より足をさす行手ゆくてよわきかひなも今宵此仇このあだたふさんお光の精神是ぞ親子が一世の別れときはまる心は如何ならん想像おもひやるだにいたましけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あいおとつちやん、ばうは寒くはないけれども、おとつちやんが痛からうと思つて……。父「ン、ンーいたはつてれるの。子「おとつちやんさすつてげようか。父「ンーさすつてれ。 ...
馬の前面まえづらを撫でさすりまして、多助は堪り兼て袖を絞って、おい/\泣きますと、多助の実意が馬に感じましたか、馬も名残を惜む様子で、首を垂れてさも悲しげに泣出しまして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
義理にも私はおいとまに成るに違いはありません、さすればあとにて二人の者が思うがまゝに殿様を殺しますから、どうあってものおやしきは出られんと今日まで胸をさすって居りましたが
確かり歯をくいしばって居りますから、自分に噛砕かみくだいて、ようやくに歯の間から薬を入れ、谷川の流れの水をすくって来て、口移しにして飲ませると薬が通った様子、親切に山之助がさすって遣りますと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
紅葉もみぢのやうな可愛かあいらしい手を出して、父親おやの足をさすつてります。
と両腕をさすりながら
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)