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掬
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きく
ふりがな文庫
“
掬
(
きく
)” の例文
彼が死に到るまで、その父母に対しては
固
(
もと
)
より、その兄妹に対して、
掬
(
きく
)
すべき友愛の深情を
湛
(
たた
)
えたるは、
単
(
ひと
)
りその
天稟
(
てんぴん
)
のみにあらず。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
技巧
頗
(
すこぶる
)
幼稚なれども、亦
掬
(
きく
)
す可き趣致なしとせず。下巻も扉に「五月中旬鏤刻也」の句あるを除いては、全く上巻と異同なし。
奉教人の死
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
こんな平凡な光景でも、時として私の心に張りつめた堅い厚い氷の上に、一
掬
(
きく
)
の
温湯
(
ゆ
)
を注ぐような効果があるように思われる。
柿の種
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
御者は縦横に鞭を
揮
(
ふる
)
いて、激しく手綱を
掻
(
か
)
い繰れば、馬背の流汗
滂沱
(
ぼうだ
)
として
掬
(
きく
)
すべく、
轡頭
(
くつわづら
)
に
噛
(
は
)
み
出
(
い
)
だしたる
白泡
(
しろあわ
)
は
木綿
(
きわた
)
の一袋もありぬべし。
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
このデカダン興味は江戸の文化の
爛熟
(
らんじゅく
)
が産んだので、江戸時代の
買妓
(
ばいぎ
)
や蓄妾は必ずしも
淫蕩
(
いんとう
)
でなくて、その中に極めて詩趣を
掬
(
きく
)
すべき情味があった。
淡島椿岳:――過渡期の文化が産出した画界のハイブリッド――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
▼ もっと見る
書中雅意
掬
(
きく
)
すべし。往時弁論
桿闔
(
かんこう
)
の人に似ざるなり。去歳の春、始めて一書を著わし、題して『十九世紀の青年及び教育』という。これを朋友子弟に
頒
(
わか
)
つ。
将来の日本:02 序
(新字新仮名)
/
田口卯吉
(著)
ととっさに見きわめて、畳のうえに呼び入れて差し向かい、一問一答のあいだに
掬
(
きく
)
すべき
興趣
(
きょうしゅ
)
滋味
(
じみ
)
こんこんとして泉のよう——とうとう夜があけてしまった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
このムラサキ科のチサノキは何等風情の
掬
(
きく
)
すべき樹ではなく、樹は喬木で高く、葉は粗大で硬く、砕白花が高く枝梢に集って咲き観るに足る程のものではない。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
憐愍! 即ち恋の墓場! 君に対してマリア姫は一
掬
(
きく
)
の涙は注ぐだろうが熱い接吻は許すまい。
西班牙の恋
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
敵味方の無数の死骸も、踏みこえ、躍りこえ、突撃してゆく彼の眼には、一
掬
(
きく
)
の涙もなかった。
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
先生の目的が必しもそれになかったとしても、先生の恩恵によって西詩の余香を
掬
(
きく
)
し詩法を学び得た者もまた決して
尠
(
すくな
)
くなかった。当時の一読者として自分はその証人である。
「珊瑚集」解説
(新字新仮名)
/
佐藤春夫
(著)
洲股
(
すのまた
)
ノ駅ヲ経テ小越川ニ
到
(
いた
)
ル。
蘇峡
(
そきょう
)
ノ下流ニシテ、
平沙
(
へいさ
)
奇白、
湛流
(
たんりゅう
)
瑠璃
(
るり
)
ノ如ク
碧
(
あお
)
シ。麗景
掬
(
きく
)
スベシ。午ニ近クシテ四谷ニ
憩
(
いこ
)
ヒ、酒ヲ命ズ。
薄醨
(
はくり
)
口ニ上ラズ。
饂麺
(
うんめん
)
ヲ食シテ去ル。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
わけても『第四協奏曲』の特質ある
掬
(
きく
)
すべき情味が、泉のごとく湧きこぼれるのを、誰でも気が付かずにはいなかった筈である。五曲の協奏曲のレコードの番号を左に列記する。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
絵も何もないただの白無地のものにも、味い
掬
(
きく
)
すべきものがしばしば見受けられます。
北支の民芸(放送講演)
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
三四郎はすぐ
床
(
とこ
)
へ這入つた。三四郎は勉強家といふより寧ろ
彽徊家
(
ていかいか
)
なので、割合書物を読まない。其代りある
掬
(
きく
)
すべき情景に逢ふと、何遍もこれを
頭
(
あたま
)
の
中
(
なか
)
で
新
(
あら
)
たにして
喜
(
よろ
)
こんでゐる。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
清冽
(
せいれつ
)
掬
(
きく
)
するに堪えたる涙泉の前に立って、我輩は巻煙草を
燻
(
くゆ
)
らしながら得意にエジェリヤの
昔譚
(
むかしものがたり
)
を同行の諸氏に語りつつ、時の移るを忘るるほどであったが、いざ帰ろうという時になって
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
新見はこの低能な栄蔵のこの足らない言葉の中にどれだけ
掬
(
きく
)
すべき人情が含まれて居るか知れないので、実にうれしかつた。白痴にも親切がよく徹底すると思へば、うれしくてならなかつた。
死線を越えて:02 太陽を射るもの
(新字旧仮名)
/
賀川豊彦
(著)
明媚
(
めいび
)
という感じに打たれて、思わず気分に多少の
暢
(
の
)
びやかさを感じたのみならず、宿の自分たちの部屋が、ちょうど宮川にのぞんでいて、小さいながら行く水の面影に、人の世の情味を
掬
(
きく
)
し
大菩薩峠:30 畜生谷の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
目にはおぼろ、耳にもさだかならず、掌中に
掬
(
きく
)
すれども、いつとはなしに指股のあひだよりこぼれ失せる様の、誰にも知られぬ秘めに秘めたる、むなしきもの。わざと三円の借銭をかへさざる。
めくら草紙
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
仮名書きの金石文にあらわれた
倭寇
(
わこう
)
史料や同じ書体で記されたいわゆる琉球最後の碑文にあらわれたる内裏言葉は(一は既に早く同じ人によって紹介されたものではあるが)古雅
掬
(
きく
)
するに足る。
南嶋を思いて:――伊波文学士の『古琉球』に及ぶ――
(新字新仮名)
/
新村出
(著)
その底を洗う清流はイシカリの支流なるわがトウベツ川でござった、水は
掬
(
きく
)
してふくむべし魚介は捕えて
喰
(
くら
)
うべし——でござった、この原始林を縦横するものは、
熊径
(
くまみち
)
と鹿路のみと見受けましたが
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
亦長凡一里の
伏流
(
ふくりう
)
を
発見
(
はつけん
)
したり、
其
(
その
)
奇
(
き
)
なる一は一行の
疲労
(
ひらう
)
を
慰
(
い
)
するに
足
(
た
)
り、一は大に学術上の
助
(
たすけ
)
を
与
(
あた
)
へたり、
遂
(
つゐ
)
に六千呎の高きに
至
(
いた
)
りて水
全
(
まつた
)
く尽き、点々一
掬
(
きく
)
の水となれり、此辺の
嶮峻
(
けんしゆん
)
其極度に
達
(
たつ
)
し
利根水源探検紀行
(新字旧仮名)
/
渡辺千吉郎
(著)
清冽
(
せいれつ
)
掬
(
きく
)
すべき
冷泉
(
れいせん
)
のある、
其
(
その
)
美
(
うつく
)
しき
花園
(
はなぞの
)
に
入
(
い
)
ることを
得
(
え
)
ました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
師弟の温情
掬
(
きく
)
すべし……という訳だね。
無系統虎列剌
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
書中雅意
掬
(
きく
)
すべし。往時弁論
桿闔
(
かんこう
)
の人に似ざるなり。去歳の春、始めて一書を著わし、題して『十九世紀の青年及び教育』という。これを朋友子弟に
頒
(
わか
)
つ。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
俯向
(
うつむ
)
きざま
掌
(
たなそこ
)
に
掬
(
すく
)
いてのみぬ。清涼
掬
(
きく
)
すべし、この水の味はわれ心得たり。
遊山
(
ゆさん
)
の折々かの山寺の井戸の水試みたるに、わが家のそれと
異
(
ことな
)
らずよく似たり。
清心庵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
自分たちの
莚
(
むしろ
)
の前に、小さい手桶に
竹柄杓
(
たけびしゃく
)
が添えてある。この手桶は、
笞
(
むち
)
で打ちすえる奉行所にも、一
掬
(
きく
)
の情けはあるのだぞというように、無言の
相
(
すがた
)
を持ってそこにあった。
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
張、その
出
(
い
)
ずるをまって、後ろよりこれを
叱
(
しっ
)
す。その人
惶懼
(
こうく
)
す。これを
掬
(
きく
)
すれば盗なり
加利福尼亜の宝島:(お伽冒険談)
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
宮古路
(
みやこじ
)
の浄瑠璃は
享保
(
きょうほ
)
元文
(
げんぶん
)
の世にあつては君子これを聴いて
桑間濮上
(
そうかんぼくじょう
)
の音となしたりといへども、大正の通人は
頤
(
あご
)
を
撫
(
な
)
でて古雅
掬
(
きく
)
すべしとなす。けだし時世変遷の然らしむるところなり。
桑中喜語
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
三四郎はすぐ
床
(
とこ
)
へはいった。三四郎は勉強家というよりむしろ
彽徊家
(
ていかいか
)
なので、わりあい書物を読まない。その代りある
掬
(
きく
)
すべき情景にあうと、何べんもこれを頭の中で新たにして喜んでいる。
三四郎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
てのひらを二つならべて一
掬
(
きく
)
の水を貯え、その掌中の小池には、たくさんのおたまじゃくしが、ぴちゃぴちゃ泳いでいて、どうにも、くすぐったく、仁王立ちのまま、その感触にまいっている
思案の敗北
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
甘美な陶酔的なモーツァルトではないが、冷艶清朗
掬
(
きく
)
すべきだ。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
しかし普通のススキの様な風情の
掬
(
きく
)
すべきものがない。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
土は一種の
掬
(
きく
)
すべき
香
(
におい
)
を吐きて、緑葉の
雫
(
しずく
)
滴々、海風日没を吹きて涼気秋のごとし。
金時計
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
人は知らず、弦之丞だけは、ひそかに一
掬
(
きく
)
の涙をもって、かれの死を見まもった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ここにもまた遺憾なく
掬
(
きく
)
することができるような気がするのである。
勲章
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
おのずから
襟
(
えり
)
を正したくなるほど峻厳な時局談、あるいは滋味
掬
(
きく
)
すべき人生論、ちょっと笑わせる懐古談、または
諷刺
(
ふうし
)
、さすがにただならぬ気質の
片鱗
(
へんりん
)
を見せる事もあるのだが、きょうの話はまるで
黄村先生言行録
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
友情
掬
(
きく
)
す
可
(
べ
)
きものがある。
人を呪わば
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
勝者の手向けた一
掬
(
きく
)
の涙は、またよく敵国の人心を
収攬
(
しゅうらん
)
した。人民にはその年の年貢をゆるし、旧藩の文官や賢才は余さずこれを自己の陣営に用い、土木農田の復興に力をそそがせた。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
こゝにも亦遺憾なく
掬
(
きく
)
することができるやうな気がするのである。
勲章
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
さすがに一
掬
(
きく
)
の涙が
眼
(
まな
)
ぞこにわきたってくる。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“掬”の意味
《動詞》
掬する(きくする)
両方の手の平で水をすくう。
事情を推測する。
深い趣を感じ取り、楽しむ。
(出典:Wiktionary)
掬
漢検準1級
部首:⼿
11画
“掬”を含む語句
一掬
掬上
掬出
八掬脛
掬樹
掬摸
十掬
掬汀
掬網
掬水園
掬水楼
掬投
掬飲
田口掬汀
砂掬
雑魚掬
鰌掬
掬月
掬摸児
掬取
...