手数てかず)” の例文
旧字:手數
国から旅費を送らせる手数てかずと時間を省くため、私は暇乞いとまごいかたがた先生の所へ行って、るだけの金を一時立て替えてもらう事にした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今はもうそういう手数てかずをする家も少なく、ただ朝から一日ゆっくりと休んで、炬燵こたつにでも入って寝転んでいるだけだそうである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
文「一同静かにしろ、兎も角も御用の馬を引留めました乱暴者はわたくしでござります、お手数てかずながらお引立ひきたての上、その次第を御吟味下さいまし」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
試験が割合にかかるのは、試験ということは学校へお赤飯を食べにゆくことだと思ったほどだから、お手数てかずだったと見える。
「へえ。おたがいに気が早いもんですから、つまらないことで喧嘩を始めました。お手数てかずをかけまして相済みません」
半七捕物帳:45 三つの声 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(乾いた道で、この足袋がございます。よくはたけば、何、汚れはしません。お手数てかずは恐れ入ります、どうぞ御無用に……しかしお座敷へ上りますのに、)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瀬戸君は縁談に於ても自信家だった。らゆる手数てかずを尽して成功を待っている。下宿の主婦とは随分懇意だけれど、安達君のように相談を持ちかけない。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
はなった障子しょうじ隙間すきまからはおにわもよくえましたが、それがまた手数てかずんだたいそう立派りっぱ庭園ていえんで、樹草じゅそう泉石せんせきのえもわれぬ配合はいごうは、とても筆紙ひっしにつくせませぬ。
毎朝魚河岸からもってくる魚、あなご、貝等にはいろいろ手のかかる仕事が多い。こはだのごとき、いずれも寿司のたねになるには、小さな魚に大そうな手数てかずがかかる。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
本当に、私あ、随分人を湯田中に連れて行つたが、重右の奴ぐらゐ、手数てかずかゝつたのは無え
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「これはどうもお手数てかずでございました」安寿は身軽に立って、桶と杓とを出して返した。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「しゃべらせておくと、きりのねえ奴で恐れ入ります。殊には夜中やちゅう、とんだお手数てかずを」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例の通りこの刑をおこないしが、その婦人の霊、護送者の家へ尋ね行き、今日こんにちは御主人にお手数てかずかけたり、御帰宅あらば宜敷よろしく云置いいおき、たちまち影を見失いぬ、妻不思議に思いいるところへ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
かういふ来客に取つては、大雅や秋成のやうな暖簾の玄関は手数てかずが要らないでい。
「吹矢は子供の玩具でも、毒を塗るような手数てかずなことをしたのは大人でしょう」
ついでに手数てかず将棋といふものを紹介しておかう。
手数将棋 (新字旧仮名) / 関根金次郎(著)
「しからば参ろう、茶店の者、手数てかずを掛けたな」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
何でも彼がその次に有楽座へ行った時、案内者をつらまえて、何とかかんとかした上に、だいぶ込み入った手数てかずをかけたんだそうだ
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
結局は何事かしでかして、いわゆる『おかみのお手数てかずをかける』と云うことになるのです。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
へ見せれば何程いかほどでも二つ返事で金子を出そうけれども、名高いものゆえパッと致すと宜くないから、作銘の処は云わないようにと言付けて遣ったために、お前の方へ手数てかずを懸け
各〻のお手数てかずは待たぬ。郁次郎めが刑刀のさびとなる時刻に、わしも、どこかで老腹おいばら
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手数てかず、と手前勘てまえかんに御遠慮を申上げ、お庭へ参って見ますると、かくのとおり
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その所作しょさから起る手数てかずだのわずらわしさだの、こっちの好意を受け取る時、相手のやりかねない仰山ぎょうさん挨拶あいさつあざやかに描き出された。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もうお母様っかさまを見送ったからにゃアあとに少しも思い残すことはない、此の上は罪に罪を重ねても貴様を助けにゃアおれの義理が立たない、さアお役人衆やくにんしゅ、お手数てかずながら此の文治に縄を打って
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おお伝吉か、先頃は千浪の不始末、其方にもいろいろ手数てかずを煩わしたの」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と渡す——かけひがそこにあるのであったら、手数てかずは掛けないでも洗ったものを、と思いながら思ったように口へは出ないで、だんまりで、恐入ったんですが、やわらかく絹がからんで、水色に足の透いた処は
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それがためにいろいろお手数てかずをかけまして相済みません
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わざわざそれほどの手数てかずをかけて、何もそんな下らない真似まねをするにも当らないじゃないか。だまされた君よりもよっぽど田口の方が箆棒ですよ
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
した、わしア縛る役じゃアねえけれども、逃げ隠れを為ようたって、捕めえたら動かさねえぞ、お役人の手数てかずを掛けるより私が引張ってく、無闇に人を縛っちゃア済まねえから、私が手前てめえ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
願書を出す、身元がいる、五人組証明をとられる、白洲しらすで調べをくう、大変な手数てかず。元は関船手形だけですんだ。こう厳密ではなかった。それにはわけがある。阿波の鎖国さこく、徳川幕府の凝視ぎょうし——。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あによめう云ふ旧式な趣味があつて、それが時々とき/″\おもはぬ方角へてくる。代助ははさみさき観世撚かんじんより結目むすびめつつきながら、面倒な手数てかずだと思つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
忠「それは存じて居ります、再度お手数てかずを掛けて、こんなことを申し上げるのではございません、よんどころない訳で一時いちじのことで、九月……遅くも十月までには御返金致します、これは別に御返済致します」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お手数てかずを煩わせまして、何とも、何とも、恐れ入ります」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫂にはこう云う旧式な趣味があって、それが時々思わぬ方角へ出てくる。代助ははさみの先で観世撚の結目を突っつきながら、面倒な手数てかずだと思った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文「それは/\千万お手数てかずであった、これ/\亭主」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『——お手数てかずでござった』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我等猫属ねこぞくに至ると行住坐臥ぎょうじゅうざが行屎送尿こうしそうにょうことごとく真正の日記であるから、別段そんな面倒な手数てかずをして、おのれの真面目しんめんもくを保存するには及ばぬと思う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まことにお手数てかずで……』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はいつものように手数てかずのかかる靴を穿いていないから、すぐ玄関に上がって仕切しきりふすまを開けました。私は例の通り机の前にすわっているKを見ました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし私の見た兄さんと、私の理解した兄さんがこの一封のうちに動いているならば、私は今より数層倍の手数てかずと労力を費やしてもいとわないつもりです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は返す事はたやすいが、その手数てかずが面倒だから、東京まで取りに来れば返してやると云ってやりたくなった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれどもいざ三沢の出院となれば、そのくらいな手数てかずいとうまいと、昨日きのうすでに覚悟をきめたところであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの投書の出所でどころを捜して制裁を加えるの、自分の雑誌で十分反駁はんばくをいたしますのと、善後策の了見でくだらない事をいろいろ言うが、そんな手数てかずをするならば
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はこの手数てかずのかかった準備の上に、手のつけようのない殺人罪を築き上げるつもりでいたのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その手数てかずさえ面倒なくらい待ち遠しいほどであったが、例の剥箸はげばしを取り上げて、茶碗から飯をすくい出そうとする段になって——おやと驚いた。ちっともすくえない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あんな小刀細工をしてあとなんかけるより、じかに会って聞きたい事だけ遠慮なく聞いた方が、まだ手数てかずはぶけて、そうして動かない確かなところが分りゃしないかと思うのです
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家が狭いためか、または余を別室に導く手数てかずを省いたためか、先生は余を自分の食卓の前に坐らして、君はもう飯を食ったかと聞かれた。先生はその時卵のフライを食っていた。
人をわずらわす手数てかずいとって、無理にひじつえとして、手頸てくびから起しかけたはかけたが、わずか何寸かの距離を通して、宙に短かい弧線を描く努力と時間とは容易のものでなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助は主人のこの言葉を聞いた時、今更手数てかずをかけて、屏風を見せて貰うのが、気の毒にもなり、また面倒にもなった。実を云うと彼の好奇心は、それほど強くなかったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其男に頼んで真相をいてもらふの、あの投書の出所をさがして制裁を加へるの、自分の雑誌で充分反駁を致しますのと、善後策の了見でくだらない事を色々云ふが、そんな手数てかずをするならば
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)