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懸崖
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けんがい
ふりがな文庫
“
懸崖
(
けんがい
)” の例文
廬山
(
ろざん
)
のみなみ、
懸崖
(
けんがい
)
千尺の下は大江に臨んでいる。その崖の半途に
藤蔓
(
ふじづる
)
のまとった古木があって、その上に四つの蜂の巣がある。
中国怪奇小説集:12 続夷堅志・其他(金・元)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
自分は
傍
(
そば
)
にいる人から
浄瑠璃
(
じょうるり
)
にある
下
(
さが
)
り
松
(
まつ
)
というのを教えて貰った。その松はなるほど
懸崖
(
けんがい
)
を伝うように
逆
(
さか
)
に枝を
伸
(
の
)
していた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
平次は鼠の尻尾ほどの
懸崖
(
けんがい
)
の菊を、眼を細くして眺めて居りました。丁子屋の
菊籬
(
きくがき
)
の豪勢さに比べて、それは何んといふ情けない道樂でせう。
銭形平次捕物控:223 三つの菓子
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
次の間から勘弁勘次が柄になく
通
(
つう
)
めたい口をきいた。縁に立って、軒に下げた
葵
(
あおい
)
の
懸崖
(
けんがい
)
をぼんやり眺めていた釘抜藤吉。
釘抜藤吉捕物覚書:06 巷説蒲鉾供養
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
撫
(
な
)
でさするようにあたりの地形を
眺
(
なが
)
めまわしていた彼らの眼は、期せずして向う岸のそういう
懸崖
(
けんがい
)
に吸いついた。地の底を割ってみせたのである。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
▼ もっと見る
『玉勝間』の記事は石見の人の書信または談話を
録
(
ろく
)
したものらしいが、島の大きさは周五里、岸は皆
懸崖
(
けんがい
)
なり、浜田より五里といえど遠しとある。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
あな
凄
(
すさま
)
じ、と貫一は
身毛
(
みのけ
)
も
弥竪
(
よだ
)
ちて、
縋
(
すが
)
れる枝を放ちかねつつ、看れば、
叢
(
くさむら
)
の底に
秋蛇
(
しゆうだ
)
の行くに似たる
径
(
こみち
)
有りて、ほとほと
逆落
(
さかおとし
)
に
懸崖
(
けんがい
)
を
下
(
くだ
)
るべし。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
船はタンジョンパガールの
埠頭
(
ふとう
)
に横づけになる。右舷に見える
懸崖
(
けんがい
)
がまっかな
紅殻色
(
べんがらいろ
)
をしていて、それが強い緑の樹木と対照してあざやかに美しい。
旅日記から
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
そこは最も
高床
(
たかゆか
)
の
懸崖
(
けんがい
)
だった。投げられた任原はクシャッと一塊の肉と
血飛沫
(
ちしぶき
)
になったきりで動きもしない。仰天したのは万余の見物だけではない。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
征掠
(
せいりゃく
)
、野荒し等に定法あり、規律至って正しく用心極めて深し、その住居は多く
懸崖
(
けんがい
)
の
拆
(
ひら
)
けたる間にあり、牝牡老若の猴の一部族かかる山村より下るに
十二支考:07 猴に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
そこで
品
(
しな
)
の
字
(
じ
)
岩というのが眼界に
聳
(
そび
)
えて来る。文字どおりの
角
(
かく
)
の巨岩が相対し
重積
(
じゅうせき
)
して、
懸崖
(
けんがい
)
の頂きにあるのだ。ただ私にはそうした奇趣に興味を持たぬ。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
川岸の壁は、切り立ち、入り組み、霧にぼかされ、たちまちに隠れて、無窮なるものの
懸崖
(
けんがい
)
のようだった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
一たび
懸崖
(
けんがい
)
に手を
撒
(
さっ
)
して絶後に蘇った者でなければこれを知ることはできぬ、即ち深く愚禿の愚禿たる
所以
(
ゆえん
)
を味い得たもののみこれを知ることができるのである。
愚禿親鸞
(新字新仮名)
/
西田幾多郎
(著)
大輪とか変り咲きとか
懸崖
(
けんがい
)
などの、人工の加わったものは少ない、ごくありきたりの種類をごく怠慢にそだてたふうである。その方面に眼のない者は多少失望した。
寒橋
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その向うにささやかな
築山
(
つきやま
)
があって、白い細かい花をつけた
小手毬
(
こでまり
)
が、岩組の間から
懸崖
(
けんがい
)
になって水のない池に垂れかかり、右の方の
汀
(
みぎわ
)
には桜とライラックが咲いていた。
細雪:01 上巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
さのみ大きな滝とは見えないが、
懸崖
(
けんがい
)
を直下に落ちて、見上ぐるばかりに
真紅
(
しんく
)
の色をした
楓
(
もみじ
)
が
生
(
お
)
い重なって、その一ひら二ひらが、ちらちらと笠の上に降りかかって来ました。
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
鍵手に曲った土間の片がわに自慢の千輪咲きやら
懸崖
(
けんがい
)
やらをズラリとおきならべ、そのそばで手打の蕎麦を喰わせる。土間には打ち水をして、菊の香が
清々
(
すがすが
)
しい。それが、自慢。
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
彼もその行者の一人となって白竜山の
麓
(
ふもと
)
へ往ったが、山の四方が
懸崖
(
けんがい
)
絶壁になっていて、その中へは一歩も足を入れることができなかった。彼は木の実を
喫
(
く
)
い草の実を拾ってその麓を巡礼した。
仙術修業
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
濡れそぼるままに
懸崖
(
けんがい
)
に寄り添って、身のまわりを立籠める灰色の霧を見詰めていると、何かしら無限の彼方に吸込まれるような無気味な感がする。しかしそれも段々と快い放心に変って行く。
一ノ倉沢正面の登攀
(新字新仮名)
/
小川登喜男
(著)
雨中を冒して、将軍と吾輩勇を鼓して五郎平茶屋より一丁あまり、
懸崖
(
けんがい
)
路
(
みち
)
なき所を下りて、滝壺探検と出かけた。雨水を含んでいる岩角はウッカリすると墜落して手も足もかけることが出来ぬ。
本州横断 痛快徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
、
井沢衣水
(著)
生と死の間の
懸崖
(
けんがい
)
に、彼女の細き命は
一縷
(
いちる
)
の糸に
依
(
よ
)
って懸っていた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
小児はその小さな
拳
(
こぶし
)
に、巨人クリストフの額の縮れ毛を一
房
(
ふさ
)
つかんで、「進め!」と繰り返している。——彼は背をかがめ、眼を前方の薄暗い岸に定めて、進んでゆく。向こう岸の
懸崖
(
けんがい
)
は白み始める。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
遷喬楼在
二
懸崖上
一
〔
遷喬楼
(
せんきょうろう
)
は
懸崖
(
けんがい
)
の
上
(
うえ
)
に
在
(
あ
)
り
礫川徜徉記
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
その翌る日、平次のところへ顏を出した八五郎は、相變らず貧弱な
懸崖
(
けんがい
)
に恍惚として居る平次に繪解きをせがみました。
銭形平次捕物控:223 三つの菓子
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
には、打身の
疼
(
いた
)
みを忘れていた。
懸崖
(
けんがい
)
のかげで風当りは弱かった。彼は暗黒に包まれて目ばたきをした。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
思いがけない
懸崖
(
けんがい
)
や深淵が路を遮る事の可能性などに心を騒がすようなことなしに夜の宿駅へ急いで行く。
厄年と etc.
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
日本ラインの奇岩怪石は多く相迫って河中
聳立
(
しょうりつ
)
するが恵那峡の岩石美は
寧
(
むし
)
ろ山上にあり
千仞
(
せんじん
)
の
懸崖
(
けんがい
)
にある。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
飛び石が二つ、松一本のほかには何もない、
平庭
(
ひらにわ
)
の向うは、すぐ
懸崖
(
けんがい
)
と見えて、眼の下に
朧夜
(
おぼろよ
)
の海がたちまちに開ける。急に気が大きくなったような心持である。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
全山
(
ぜんざん
)
を
城地
(
じょうち
)
と見なし、十七
町
(
ちょう
)
を
外郭
(
そとぐるわ
)
とし、
龍眼
(
りゅうがん
)
の地に
本丸
(
ほんまる
)
をきずき、
虎口
(
ここう
)
に八門、
懸崖
(
けんがい
)
に
雁木坂
(
がんぎざか
)
、五
行
(
ぎょう
)
の
柱
(
はしら
)
は
樹林
(
じゅりん
)
にてつつみ、
城望
(
じょうぼう
)
のやぐらは
黒渋
(
くろしぶ
)
にて
塗
(
ぬ
)
りかくし
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
口のかけた
土瓶
(
どびん
)
に植えた豆菊の
懸崖
(
けんがい
)
が、枯れかかったまま宙乗りしている。そんなような部屋なのだ。あるじ若松屋のごとく、すべてが簡素である。悪くいえばさびしい。
巷説享保図絵
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
献身と善意とまたこんどは
任侠
(
にんきょう
)
な目的のためにめぐらされる古い
田舎者
(
いなかもの
)
の多少の知恵とのほか、何らの
梯子
(
はしご
)
も持たずに、修道院の難関と聖ベネディクトの規則の荒い
懸崖
(
けんがい
)
とを
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
加賀江沼郡の橋立村なども、百二三十年前までは黒崎から西北に、海中へ二百間ばかりも突き出した
懸崖
(
けんがい
)
の石崎であったゆえに、それが崩壊して後までも地名となって残っている。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
上と下とて遥かに呼び合っていたが、何を云うにも
屏風
(
びょうぶ
)
のような
峭立
(
きったて
)
の
懸崖
(
けんがい
)
幾丈
(
いくじょう
)
、下では
徒爾
(
いたずら
)
に
瞰上
(
みあ
)
げるばかりで、
攀登
(
よじのぼ
)
るべき
足代
(
あししろ
)
も無いには困った。
其中
(
そのうち
)
に、上では気が
注
(
つ
)
いたらしい。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
鉢植
(
はちう
)
えのつるばらがはやると見えて至るところの花屋の店に出ている。それが、どれもこれも申し合わせたようにいわゆる「
懸崖
(
けんがい
)
作
(
づく
)
り」に仕立てたものばかりである。
錯覚数題
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
平次は椽側の
日向
(
ひなた
)
で、鼠の尻尾のやうな、世にも情けない、
懸崖
(
けんがい
)
の菊の鉢の世話をしてをりました。
銭形平次捕物控:239 群盗
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
這裡
(
しゃり
)
の消息を知ろうと思えばやはり
懸崖
(
けんがい
)
に手を
撒
(
さっ
)
して、
絶後
(
ぜつご
)
に再び
蘇
(
よみが
)
える
底
(
てい
)
の
気魄
(
きはく
)
がなければ駄目だ
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そして、風を防いでくれるこの
懸崖
(
けんがい
)
をイシカリ川の岸壁と思いこんでいた。従って彼らの目的地は、この川筋の先方に在るわけだと思った。凍結した氷上はむしろ歩き易いであろう。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
三度口を開いた恐ろしい
懸崖
(
けんがい
)
からジャン・ヴァルジャンはわずか十数分を
距
(
へだ
)
てているのみだった。そしてこんどの徒刑場は単なる徒刑場のみではなく、コゼットをも永久に失うことであった。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
彼はむしろ
懸崖
(
けんがい
)
の中途が陥落して草原の上に伏しかかったような
容貌
(
ようぼう
)
であった。細君は上出来の
辣韮
(
らっきょう
)
のように見受けらるる。今余の案内をしている婆さんはあんぱんのごとく
丸
(
ま
)
るい。
カーライル博物館
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
だんだん山が険しくなって、峰ははげた岩ばかりになり、谷間の
樅
(
もみ
)
やレルヘンの木もまばらになり、
懸崖
(
けんがい
)
のそこかしこには不滅の雪が小氷河になって凍った滝のようにたれ下がっていた。
旅日記から
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
登山の途中
雪崩
(
ゆきなだ
)
れに
圧
(
お
)
されて、
行
(
ゆ
)
き
方
(
がた
)
知れずになったものの骨が、四十年後に氷河の先へ引懸って出た話や、四人の冒険者が
懸崖
(
けんがい
)
の半腹にある、真直に立った大きな平岩を越すとき
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それにしてもほんとうによい美しいすぐれた花なら、少なくもそういう花を捜して歩いている人の目にいつかは触れないものだろうか。危険を冒して
懸崖
(
けんがい
)
にエーデルワイスを捜す人もある。
神田を散歩して
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
「
懸崖
(
けんがい
)
作
(
づく
)
りのつるばら」のようなものであるという例証にはなるかと思う。
錯覚数題
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
懸崖
(
けんがい
)
からは水が垂れる。ひらりとカンテラを
翻
(
ひるが
)
えすと、
崖
(
がけ
)
の
面
(
おもて
)
を
掠
(
かす
)
めて弓形にじいと、消えかかって、手の運動の止まる所へ落ちついた時に、また真直に油煙を立てる。また
翻
(
ひるが
)
えす。
灯
(
ひ
)
は斜めに動く。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
アフリカのほうにははるかに
兀
(
ごつ
)
とした岩山の
懸崖
(
けんがい
)
が見え、そのはずれのほうはミラージュで浮き上がって見えた。
苦海
(
ビッターシー
)
では思いのほか涼しい風が吹いたが、再び運河に入るとまた暑くなった。
旅日記から
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
“懸崖”の意味
《名詞》
懸 崖(けんがい)
切り立った崖。
盆栽で、枝や葉が根より下に垂れ下がるように作ったもの。
(出典:Wiktionary)
懸
常用漢字
中学
部首:⼼
20画
崖
常用漢字
中学
部首:⼭
11画
“懸崖”で始まる語句
懸崖造
懸崖千仭
懸崖絶壁