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惧
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おそ
ふりがな文庫
“
惧
(
おそ
)” の例文
何ごとも、
惧
(
おそ
)
れるものはない。しかし、あぶないのは、領内へまぎれこむ他領者だ——ことに江戸から目的を持って入りこむ奴じゃ。
鳴門秘帖:04 船路の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その
惧
(
おそ
)
れは充分にあるが、もしもそんな事が起こっていたら、そのときこそ包の内容を調べて、自分のとるべき途を考えるとしよう。
風流太平記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
素人考へでいへば、局面にもあるだらうが、まづ端の歩を突く時は相手に手抜きをされる
惧
(
おそ
)
れがある。いはば、手損になり易いのだ。
聴雨
(新字旧仮名)
/
織田作之助
(著)
後
事
(
こと
)
露
(
あら
)
われ夫
惧
(
おそ
)
れて妻を離縁したと載せ、スプレンゲルはある人鬼がその妻を犯すを
睹
(
み
)
、刀を
揮
(
ふる
)
うて斬れども更に斬れなんだと記す。
十二支考:08 鶏に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
なお地母と穀神との関係は、詳細に記述すべきであるが、民俗学専門の雑誌ならぬ本誌では、万一の誤解を
惧
(
おそ
)
れ深く言うを避けた。
穀神としての牛に関する民俗
(新字新仮名)
/
中山太郎
(著)
▼ もっと見る
左吉松ほどの
強
(
したゝ
)
かな惡黨が、確かな相棒を一人持つて居るなら、何を苦しんで露見の
惧
(
おそ
)
れのあるやうな馬鹿な奇計を
用
(
もち
)
ひるでせう。
銭形平次捕物控:219 鐘の音
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
己
(
おの
)
が現世については何の望みも持たなかったけれども、その生活は荘園にすがってさし当り浮浪の徒となる
惧
(
おそ
)
れをまぬがれていた。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
博物館の番人達は当然異常な
惧
(
おそ
)
れをなし、館長に向って、木乃伊を動かして下さるか、さもなければ私達はやめさせて頂くと言いだした。
怪談綺談
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
ここ数旬にして帝都は挙げて睡魔の
坩堝
(
るつぼ
)
と化し、黒死病の蔓延によって死都と化した史話の如く、帝都もその
轍
(
てつ
)
を踏む
惧
(
おそ
)
れなしとしない
睡魔
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
彼は、老人や弟に迷惑をかけるのを
惧
(
おそ
)
れて、
兵匪
(
へいひ
)
のように商家へ押入って、傷の手当をさせ、遠く廻り道をして帰って来たのだ。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
丈夫
(
じょうふ
)
ふたたび辱めらるるあたわずと答えた。その言葉がひどく元気のなかったのは、衛律に聞こえることを
惧
(
おそ
)
れたためではない。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
先年
凡僧
(
ぼんそう
)
こゝに住職し此石を見て
死
(
し
)
を
惧
(
おそ
)
れ
出奔
(
しゆつほん
)
せしに
翌
(
よく
)
年
他国
(
たこく
)
にありて病死せしとぞ。おもふに此淵に
灵
(
れい
)
ありて
天然
(
てんねん
)
の
死
(
し
)
を
示
(
しめ
)
すなるべし。
北越雪譜:06 北越雪譜二編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
たつきの
業
(
わざ
)
を山からかずけられて生活する麓の土民は、山の秘密や消息を苦もなく明す人間を、感謝し、
惧
(
おそ
)
れ、また親しんだ。
富士
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
先生は発明が他に漏れるのを
惧
(
おそ
)
れ、ムズムズする口の蓋をガッチリ閉めて、
牡蠣
(
かき
)
のように頑固に押し黙っていられたのである。
犂氏の友情
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「いいえ、今からすぐして下さい。思ひ立つたが吉日といひます。今日今からここでしないと、しそこねる
惧
(
おそ
)
れがあります。」
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
僕らの感じているのは、実は寺でなくて博物館ではないか。この無意識の
変貌
(
へんぼう
)
を僕は最も
惧
(
おそ
)
れる。信仰にとっては致命的だ。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
喜三郎
(
きさぶろう
)
は心配の余り、すぐにも医者を迎えたかったが、病人は大事の洩れるのを
惧
(
おそ
)
れて、どうしてもそれを許さなかった。
或敵打の話
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
疑ひ、私が
惧
(
おそ
)
れてゐた、その疑ひの色がハナァの面に現はれた。「パンの一片位なら上げてもいゝが、」彼女は一寸言葉を
途切
(
とぎ
)
らせてから云つた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
床に
臥
(
ふ
)
せつて熱に
魘
(
うな
)
される間も、主人の機嫌を損じはしまいかと、それが
譫言
(
うはごと
)
にまで出る程絶えず
惧
(
おそ
)
れられた。三日目の朝、呼び出しの速達が來た。
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
段々
野良
(
のら
)
の仕事が
急
(
いそ
)
がしくなつて欠席の多くなるべき月に、これ以上歩合を上せては、郡視学に疑はれる
惧
(
おそ
)
れがある。
葉書
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
彼は何となく不快に感じはしたが、異をたて、気取っていると云われそうなので、相手の心持を
惧
(
おそ
)
れて手を出した。
遺産
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
また、建設後五年目には、算哲が内部を改修しています。恐らくそれと云うのも、ディグスビイの報復を、
惧
(
おそ
)
れた上での処置ではなかったのでしょうか。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
かくてフランボーはだんまりのまま
惧
(
おそ
)
る惧る何分かの間掘りつづけたが、やがて覚束なげな声でこういった。
作男・ゴーの名誉
(新字新仮名)
/
ギルバート・キース・チェスタートン
(著)
彼女は心の
中
(
うち
)
で再度の衝突を
惧
(
おそ
)
れた。と共に、夫の本意をも疑った。彼女の見た平生の夫には自制の念がどこへでもついて廻った。自制ばかりではなかった。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そんなこちらの冷めたい返事にも、私の
惧
(
おそ
)
れたとおり、頭の君はすこしもお懲りにならず、それどころか反って熱心に同じような御文をお寄こしになり出したのだった。
ほととぎす
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
母は語るべき事の日頃蓄へたる数々を
措
(
お
)
きて、先づ宮が血色の
気遣
(
きづかはし
)
く衰へたる故を
詰
(
なじ
)
りぬ。同じ事を夫にさへ問れしを思合せて、彼はさまでに己の
羸
(
やつ
)
れたるを
惧
(
おそ
)
れつつも
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
和蘭
(
オランダ
)
と事を構えていて国家存亡の際だったので、日本と抗争状態に入ることを
惧
(
おそ
)
れ、僧侶コボスと船長リヤノという者を使者とし、日本に遣わし、秀吉懐柔の策を講ぜしめた。
秀吉・家康二英雄の対南洋外交
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「十二人のうち、二人欠けたから、今は十人です。今朝から実はその事で
転手古舞
(
てんてこまひ
)
さ。その二人つていふのが、どつちもまだ子供なんだが、心中の
惧
(
おそ
)
れがあつてね。参つたよ」
双面神
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
これより先五百は脩の
喘息
(
ぜんそく
)
を
気遣
(
きづか
)
っていたが、脩が矢島
優
(
ゆたか
)
と共に『
魁
(
さきがけ
)
新聞』の記者となるに及んで、その保に寄する書に
卯飲
(
ぼういん
)
の語あるを見て、大いにその健康を害せんを
惧
(
おそ
)
れ
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
けれども、もっと切実な
惧
(
おそ
)
れが、彼らの身肌に見るな見るなと
囁
(
ささや
)
いていた。これほど強行している熱した皮膚に、ふッと刺さったその寒気をこれは
曲者
(
くせもの
)
だと気づいていたのだ。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
一種の卑屈な
惧
(
おそ
)
れを抱きながら、おれやおれの同類を、唯々諾々と主人株、指導者として承認するのを見ていたから、おれは自分が、好意的な軽蔑をもって、貧しい者、不幸な者
道化者
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
起し得たと思っても前ほどの勢いはなく、ついには枯れてしまう
惧
(
おそ
)
れがありましょう。ましてそれに代るものは、
易々
(
やすやす
)
とは得られません。しかも大木には名木が多いのであります。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
セエラはいつ行っても屋根裏にいるというわけではありませんし、抜け出たあとをアメリア嬢に見舞われる
惧
(
おそ
)
れもないではありませんでした。で、セエラはたいてい一人ぼっちでした。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
ユダヤ人の支配階級全体の地位を危うくせられることを
惧
(
おそ
)
れて、平生は互いに敵対せる諸勢力の指導者たちが合流し、挙国一致の体制をもって一人の野人イエスに
対
(
むか
)
ったのであります。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
時勢は切迫せり、
豈
(
あ
)
に内に
自
(
みずか
)
ら
惧
(
おそ
)
るるもの有るか、そもそも
已
(
すで
)
に自ら立ち、吾の論において
与
(
くみ
)
せざること有るか。
逸遊
(
いつゆう
)
敖戯
(
ごうぎ
)
して学業を荒廃するは、則ち弥二の才、決して然らざるなり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
この騒ぎに顔を挙げようとするのを
惧
(
おそ
)
れて、人々の点在の有無に従って、交互に
慌
(
あわただ
)
しく己れの上体を米つきバッタのようにゼーロンの鬣の蔭に飜しながら尊大な歌を続けて冷汗を搾った。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
しかし、審査の重責に在る者は、あまりに消極的な考えから、ひたすらに欠点の見落しを
惧
(
おそ
)
れるよりも、更に一層長所と美点に対する眼識の不足を恥ずべきではないかと思われるのである。
学位について
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
じきじきに将軍家へ言上しょうと
威
(
おど
)
したからには、お吟味屋敷改めされるを
惧
(
おそ
)
れ、慌てふためいて今のうちに誰袖達をどこぞへ運び去って、隠し替えるに相違ないわ。それを押えるのじゃ。
旗本退屈男:10 第十話 幽霊を買った退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
風蔭ならば多少楽だったろうが、手頃な場所がなく、吹き溜りでテントの埋まるのを
惧
(
おそ
)
れたので、尾根筋の風当りの強い所へ張ったのである。昨日の荷と合せてテントに荷を入れ、直ぐ下る。
槍ガ岳:(北鎌尾根)
(新字新仮名)
/
松濤明
(著)
精神が麻痺するとだ、悪を悪とせず、ついに
廉恥
(
れんち
)
の風が段々衰えるという事を
惧
(
おそ
)
るるのである。ここに於て官吏も過ちが多いんである。議会も過ちが多いんである。社会もまた過つんである。
憲政に於ける輿論の勢力
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
群集心理にのみかられて、付和雷同する場合にはとんでもない「価値の転倒」が行われる
惧
(
おそ
)
れがあるが、情実や交友関係に左右された
幇間
(
ほうかん
)
的批評よりも、厳正を失うおそれは少ないと言えよう。
日本の近代的探偵小説:――特に江戸川乱歩氏に就て――
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
不美を称揚する結果不当に人の世を醜化して世を乱し
害
(
そこな
)
ふ
惧
(
おそ
)
れがある。
総理大臣が貰つた手紙の話
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
だが僕のひそかに
惧
(
おそ
)
れるのは、もし日本の小説道がさらに進展して、例えば高度の観念的要素とでもいったものの表現を迫られた時、この日本語は果してその芸術的容器として堪えるであろうか
翻訳遅疑の説
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
門外漢に見せても直ぐ様疑られる
惧
(
おそ
)
れのある品ではなかつた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
何ぞ村人と話をなさる際には、その刺戟を
惧
(
おそ
)
れていただきたい
大菩薩峠:38 農奴の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
このとしの虫の音聴きぬ
惧
(
おそ
)
れつつ生き来し朝の
獄
(
ひとや
)
は凉し
遺愛集:02 遺愛集
(新字新仮名)
/
島秋人
(著)
惧
(
おそ
)
るる
隙
(
ひま
)
に聞きわきぬ、過去
遠々
(
をんをん
)
の
代
(
よ
)
をここに。
有明集
(旧字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
誤解を招く
惧
(
おそ
)
れが充分ある。
寺田寅彦の追想
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
既ニ衣食ノ愁アリ
塵外
(
じんがい
)
ノ超然得テ望ム可ラズ顧レバ附托ノ大任横ハツテ眼前ニ在リ進ンデ一ニ身ヲ其業ニ委スル能ハズ此ニ於テカ余ハ日夜其任務ノ尽ス能ハザルヲ
憂
(
うれ
)
ヒ其公命ニ
負
(
そむ
)
クノ大罪ヲ
惧
(
おそ
)
レ又遂ニ我素志ノ果ス可ラザルヲ想ヒ時ニ
心緒
(
しんちょ
)
乱レテ麻ノ如キモノアリ
牧野富太郎自叙伝:01 第一部 牧野富太郎自叙伝
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
自分は動揺してはいない、
惧
(
おそ
)
れもなければ期待したような悦びもない、心はこのとおり静かだ、いつもと少しも変ったところはない。
新潮記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
惧
常用漢字
中学
部首:⼼
11画
“惧”を含む語句
危惧
疑惧
憂惧
可惧
危惧心