引返ひきかえ)” の例文
かれとらえられていえ引返ひきかえされたが、女主人おんなあるじ医師いしゃびにられ、ドクトル、アンドレイ、エヒミチはかれ診察しんさつしたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あっと思って引返ひきかえそうとしましたが、そのとたん棒のような物で額をひどく打たれましたので、そのまま気を失ってしまいましたのです
謎の頸飾事件 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
れは大変な事と思て、すぐ引返ひきかえしておもての方に居る公用方の吉岡勇平よしおかゆうへいにその次第を告げると、同人も大に驚き、場所に駈付かけつ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
中途で引返ひきかえした人の話じゃ、中は八幡の藪知らずで、どこをどう歩いていいかさっぱり見当がつかない上に、全く思いもかけないところから
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三人はそうした波の様子を見ると少し気味悪くも思いました。けれども折角せっかくそこまで来ていながら、そのまま引返ひきかえすのはどうしてもいやでした。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのまま長唄ながうたにしての独吟あり廻つて河庄茶屋場かわしょうちゃやばとなる二幕目ふたまくめ竹本連中たけもとれんじゅう出語でがたりにてわれら聞馴れし炬燵こたつ引返ひきかえして天満橋太兵衛殺てんまばしたへえごろしとなる。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
人々は縁下えんしたより、ばらばらとその行くほうを取巻く。お沢。遁げつつ引返ひきかえすを、神職、追状おいざま引違ひきちがえ、帯ぎわをむずと取る。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
落ちて来るのを見向きもしないでスタスタと実験室に引返ひきかえすという変りようだからトテモ吾々われわれ凡俗には寄付よりつけない。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そういいすてると、彼は歩調ほちょうもゆるめず、大きなマスクの頭をふりたてて、ドンドンもとた道に引返ひきかえしていった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ラプンツェルをれてったおな夕方ゆうがた魔女まじょはまたとううえ引返ひきかえして、った少女むすめ辮髪べんぱつを、しっかりとまど折釘おれくぎゆわえつけてき、王子おうじ
来た時のやうに立停たちどまつて又、ああ、妖魔にもせよ、と身をてて一所いっしょに殺されようかと思つた。途端に騎馬が引返ひきかえした。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
また夫が私のいないのを不審に思ってはと、それも気がかりなものですから、兎も角も、その晩は、それだけで、母屋の方へ引返ひきかえすことにいたしました。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
引返ひきかえそうとしましたが、その日四郎さんに見せて貰った日記のなかにあたしのことが沢山書いてあったものですから、これを残しておいてはいけないと思って
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
といううちに太郎は堤の上をズンズンこちらの方へ引返ひきかえして来た。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
進まれもせず、引返ひきかえせば再び石臼いしうすだの、松の葉だの、屋根にもひさしにもにらまれる、あの、このうえもないいやおもいをしなければならぬのと、それもならず。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もう引返ひきかえしてこなければならないのに、へんだねえ。呼んでみようか」
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「じゃ、君、もう一度引返ひきかえすんだ。小山田さんへ引返すんだ」
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吹矢ふきやみちから公園へ入らないで、引返ひきかえしたので、……涼傘ひがさ投遣なげやりにかざしながら、そでを柔かに、手首をやゝ硬くして、彼処あすこで抜いた白金プラチナ鸚鵡おうむかんざし、其の翼を一寸ちょっとつまんで
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あれがもし、鳥にでもさらわれたら、思う人は虚空こくうにあり、と信じて、夫人は羽化うかして飛ぶであろうか。いやいや羊が食うまでも、角兵衛は再び引返ひきかえしてその音信おとずれは伝えまい。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出家は、真直まっすぐに御廚子みずしの前、かさかさと袈裟けさをずらして、たもとからマッチを出すと、伸上のびあがって御蝋おろうを点じ、ひたいたなそこを合わせたが、引返ひきかえしてもう一枚、たたずんだ人の前の戸を開けた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と洗いさした茶碗をそのまま、前垂まえだれで手をき拭き、氷のような板の間を、店の畳へ引返ひきかえして、火鉢の前へ、力なげに膝をついて、背後うしろ向きに、まだ俯向うつむいたなりの親父を見向いて
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いそを横ッとびの時は、その草鞋わらじを脱いだばかりであったが、やがて脚絆きゃはんを取って、膝まで入って、静かに立っていたと思うと、引返ひきかえしてはかまを脱いで、今度は衣類きものをまくって腰までつかって、二
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山をくつがえしたように大畝おおうねりが来たとばかりで、——跣足はだし一文字いちもんじ引返ひきかえしたが、吐息といきもならず——寺の門を入ると、其処そこまで隙間すきまもなく追縋おいすがった、灰汁あくかえしたような海は、自分のせなかから放れてった。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月影ににじの影の薄れ行くおもむきに、廊下をつつ引返ひきかえさる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此処ここいきおいよく兄獅子が引返ひきかえして
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)