差出さしだ)” の例文
これは歴史にも有名な話、続いて隠居願を差出さしだしましたが、そこまで追及する積りは無かったので、それは差許されませんでした。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と云って差出さしだしたのは、一通のあくどく赤い封筒だった。社長は給仕を去らせてすぐ封を切ったが、ひととおり読むと、声を震わせながら
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
差出さしだしけるに越前守殿最初假牢かりらうへ入置れし兩人の願ひ人を繩付なはつきのまゝ再び白洲へ呼出され其方共訴へ出し財布はこれなるべしと渡され先に汝等へなは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
差出さしだすを、侍は手に取って見ましたが、旧時まえにはよくお侍様が刀をす時は、刀屋の店先で引抜ひきぬいて見て入らっしゃいましたが、あれはあぶないことで
ふ。其処そこしぶりながら備中守びつちうのかみ差出さしだうでを、片手かたて握添にぎりそへて、大根だいこんおろしにズイとしごく。とえゝ、くすぐつたいどころさはぎか。それだけでしびれるばかり。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
椅子いすつてい。貴樣きさまつてれ。』と、かれ格子越かうしごし書留かきとめ手紙てがみかれ差出さしだしてゐる農婦のうふ怒鳴どなつける。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それより山男、酒屋半之助方さかやはんのすけかたまいり、五合入程ごういりほど瓢箪ひょうたん差出さしだし、この中に清酒せいしゅお入れなされたくともうし候。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
教師に差出さしだすべき代数の宿題を一つもやつて置かなかつた。英語と漢文の下読したよみをもして置かなかつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
やがて、香煙こうえんゆるがせて、おそおそふすまあいだからくび差出さしだしたのは、弟子でし菊彌きくやだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
無駄むだばなしのりやりに調子てうしづいて旦那だんなのお商買しようばいあてませうかとおたかがいふ、何分なにぶんねがひますとのひらを差出さしだせば、いゑそれにはおよびませぬ人相にんさうまするとて如何いかにもおちつきたるかほつき
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もしってもその人達はこの人になつかしく差出さしだす手を用意して居るに相違ない。そういえばわたしとてよくもこの人を庇い通した——おもえば氷を水にく幾年月。その年月に涙がこぼれる。
愛よ愛 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すしの折を差出さしだす。)子供さんは嫌いですか。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
椅子いすってい。貴様きさまっておれ。』と、かれ格子越こうしごし書留かきとめ手紙てがみかれ差出さしだしている農婦のうふ怒鳴どなつける。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
桂子は手早く珈琲コーヒーぎ、なお数滴のウイスキイを加えて差出さしだした。——金森村医は煙草たばこに火をつけ、さも旨そうに珈琲コーヒーすすりながら、しばらく海の方を見やっていたが
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
忠弘の前に差出さしだして、パッと開いた女の両掌りょうては、ひどい血まめで痛々しくれ上って居ります。
ばちを片手でひッつかむと、恐る恐る差出さしだした手を素疾すばや引込ひっこめ、とさかをはらりと振ってく。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人も不憫ふびんに思い、蔵前くらまえの座敷に有合ありあ違棚ちがいだな葡萄酒ぶどうしゅとコップを取出して、両人ふたりの前へ差出さしだせば、涙ながらにおいさが飲んで重二郎へしまするを見て、丈助はよろこび、にやりと笑いながら。
村々へ布令ふれを廻した位では、美女佳人は隠してしまって、決して御前には差出さしだしません。
と云いかけた時、庭先へ平造老人が入って来て、帽子を差出さしだしながら云った。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
差出さしだすを手に取って見ますと、秋野に虫の象眼入ぞうがんいりの結構な品で、お露は此のふたを新三郎に渡し、自分は其の身のほうを取って互に語り合う所へ、へだてのふすまをサラリと引き明けて出て来ましたは
小姉ちひねえ差出さしだしたがふるへて
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寿美子は極めて自然に、外国人のような態度で、握手を求める手を差出さしだしたのです。
とズッと差出さしだすを、伴藏はよもや金ではあるまいと、手に取上とりあげて見れば、ズンとした小判の目方、持った事もない百両の金を見るより伴藏は怖い事も忘れてしまい、ふるえながら庭へり立ち
差出さしだした三枚のレター・ぺーパーを、女客は一気に黙読しております。丸いあごが小刻みに動いて、眼が上から下へ上から下へと走るうち、両頬が次第に上気して、可愛らしい耳朶みみたぶが——
雨戸あまどを引いて外の格子かうしをがらがらツと明けまして燈明あかり差出さしだして見ると、見る影もない汚穢きたな乞食こじき老爺おやぢが、ひざしたからダラ/″\血の出る所をおさへてると、わづ五歳いつゝ六歳むツつぐらゐの乞食こじき
若い女は見覚えある振り分けの荷物を、半十郎の眼の前へ差出さしだしたのです。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)