いはほ)” の例文
新字:
宛然さながら、ヒマラヤ山あたりの深い深い萬仭の谷の底で、いはほと共に年をつた猿共が、千年に一度る芝居でも行つて見て居る樣な心地。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
眼を閉ぢ耳を覆つたまゝ漂つてゆけば、潮流の底に、ほど近く峙立そばだいはほも見えず、また、その底に沸き返へる波濤も聞えない。
わが今視し物をよくさとらむとねがふ人は、心の中に描きみよ(しかしてわが語る間、その描ける物をかたいはほの如くにたもて)
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
われは覿面てきめんに死の天使を見たり。その翼は黒き灰と流るゝいはほとにして、一たびこれを開張するときは、幾多の市村はこれがために埋めらるゝなり。
案じ夏とて谷間に雪あるにをとこ單衣ひとへぎぬにてのぼられぬ梢のしづくいはほしたゝり何とてそれにてしのがれんあはせを贈りまゐらせたやとの情の孤閨を守るをんなが夫が遠征の先へ新衣を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
この人いはほを押し分けて出で。「汝は誰そ」と問はしければ、答へ白さく、「僕は國つ神名は石押分いはおしわくの子、今天つ神の御子でますと聞きつ。かれ、まゐ向へまつらくのみ」
つるぎつゑに。松陰まつかげの。いはほさゝへて。吐息といきつく。時哉をりしも見ゆる。若武者わかむしやは。そもいくさの。使つかひかや。ればころもの。美麗うるはしさ。新郎はなむことかも。あやまたる。其鬚髯そのほうひげの。新剃にひそりは。秋田あきたを刈れる。刈稻かりしねの。そろへるさまに。
「西周哲学著作集」序 (旧字旧仮名) / 井上哲次郎(著)
この水草みづくさはまたとしひさしく、ふねそこふなばたからいて、あたかいはほ苔蒸こけむしたかのやう、與吉よきちいへをしつかりとゆはへてはなしさうにもしないが、大川おほかはからしほがさしてれば、きししげつたやなぎえだみづくゞ
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こもらひぬ、あらがねいはほとのひまうづもれ。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
築き上げたる熱望と意志とのいはほ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ひとたび來てはいはほを去らず。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いはほが上にたたずめば
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
青きいはほに流れ落ち
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さま銀色の帶をべたる如し。この細大二流は、わが立てるいはほの前に至りて合し、幅ひろき急流となり、乳色の渦卷を生じてそこひなき深谷にみなぎり落つ。
かゝるうちにも我等は山の麓に着けり、みあぐればいはほいと嶮しく、はぎはやきもこゝにては益なしとみゆ 四六—四八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
堀割し跡にわずかに生出おひいで躑躅つゝぢ岩にしがみ付て花二つ三つ削落けづりおとせし如きいはほの上に小松四五本たてり其下に流るゝ水雪の解けておつるにや流早く石にさへられてまた元の雪と散るを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
行暮ゆきくれて一夜ひとよ宿やどうれしさや、あはかしさへたまて、天井てんじやうすゝりうごとく、破衾やれぶすま鳳凰ほうわうつばさなるべし。ゆめめて絳欄碧軒かうらんへきけんなし。芭蕉ばせをほねいはほごとく、朝霜あさしもけるいけおもに、鴛鴦ゑんあうねむりこまやかなるのみ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いはほにのぼり、浪にぬれ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
熔けたるいはほの山腹を流れ下るさま、血の創より出づる如し。嶺の上に片雲あり。その火光を受けたる半面は殷紅あんこうなり。されど此偉觀の我眼に入りしは一瞬間なりき。
たきいはほに、いしだんきざんでのぼると、一面いちめん青田あをた見霽みはらし
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いはほのうへにただひとり。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いはほのかげにねむれども
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あらきいはほをつつむとき
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
夕ばえ小島いはほかげ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)