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巖間
蟲のやうだと
言つたが、あゝ、
一層、くづれた
壁に
潛んだ、
波の
巖間の
貝に
似て
居る。——
此を
思ふと、
大なる
都の
上を、
手を
振つて
立つて
歩行いた
人間は
大膽だ。
おほみそかは
大薩摩の、もの
凄くも
又可恐しき、
荒海の
暗闇のあやかしより、
山寺の
額の
魍魎に
至るまで、
霙を
錬つて
氷を
鑄つゝ、
年の
瀬に
楯を
支くと
雖も、
巖間の
水は
囁きて、
川端の
辻占に
答へて曰ふ、我この
巖間に
降り下れる時彼等すでにこゝにありしが其後一
度も身を動かすことなかりき、思ふに
何時に至るとも
然せじ 九四—九六