すくな)” の例文
誰もが知っている通り、春夏秋冬と、松の木ぐらい手入ていれに手数のかかる木はすくない。自然物入ものいりもかさむ。全くやっかい至極な放蕩息子だ。
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
それら全体の諸関係をひっくるめて友情につつんでいてくれる決してすくなくない友人たちのいるということ。なかなか私は幸福者です。
陸軍では昔は脚気が非常に多かったことも、今は激減していることも、胚芽米を使用している部隊がすくなくないことも皆本当である。
兎の耳 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
国は小さく、民はすくなく、しかして残りし土地に荒漠多しという状態ありさまでありました。国民の精力はかかるときにめさるるのであります。
必ずいつでも「己」であるという訳には行きませぬが、すくなくも一方「遠能」と書いてあるものとは同じ語ではないということは言える。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
又遠望した所にっても、樹木すくなく岩石が赤裸々に露出しているから、幾百米の断崖が水に臨んで峭立しているであろうと想わしめる。
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
またその法螺に乗る以上は理知の人間として自分の人格にすくなからぬ汚点をのこす恐れがあっても、まるで気にならなかったんだろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
場所柄エリスの来そうもないところなので、林はすくなからず不審に思った。二人はヒソヒソと話を続けていた。軈て二人は店を出た。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しかし、多く言わずすくなく言う文芸である。少く言いて多くの意を運ぶ文芸である。叙写はすくなくって多くの感銘を人に与える文芸である。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
女子も立たねばならぬ、意志の力を十分に養わねばならぬとはかれの持論である。この持論をかれは芳子に向ってもすくなからず鼓吹した。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
種彦は菱垣船ひしがきぶねや十組問屋仲間の御停止ごちょうじよりさしもに手堅い江戸中の豪家にして一朝いっちょうに破産するもののすくなくない事を聞知っていた処から
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
氏と私との交際に於て——すくなくも私の長座の為めに、氏の感ずる受難の如き、まさしく夫れに相当しよう。で、私は云おうと思う。
小酒井不木氏スケッチ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし学校生活を顧みて絶対にやらなかったと断言出来る人はすくなかろうと思う。あれは制度の罪だ。試験がカンニングをさせる。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
僕は日本誌壇の近状を簡短てみじかに告げて、氏の作物さくぶつを読む者のすくなからぬ事を述べ、最近に森鴎外氏が氏の小説を紹介せられた事などを話した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
=同= 同婦人は、めいはまなる実家に、近き親戚のすくなき旨を洩らせるが、田舎の富家には往々にして此の如く血縁的に孤立せる家系あり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは十年も前からの友人に、ふと道できあった時のような、く自然な言葉であった。すくなくとも、私にはそう感じられた。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
工場におけるその痩腕やせうでの稼ぎから生み出した賃銀に由って自己の衣食を支え、それを以て家長の厄介をすくなくしているだけでも
激動の中を行く (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
また近代位い書生や弟子入りする事を嫌がる時代もすくない、それは個人の神経を生かそうとする時代精神からであるかも知れず
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
半数にも満たざるこの残りすくなき同志中より、さらに今中尉を奪われしことは我らにとって寂寥せきりょうこれに過ぐるものはありません。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
当時、沢庵の学識道徳に傾倒する大名はすくなくなかったが、特に熱烈だったのは、細川越中守忠利ただとしと、柳生但馬守宗矩むねのりであった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
即ち西郷隆盛の如き、烈公、藤田らの夢想外にも、論理的結果を極端まで押し詰め、徹頭徹尾倒幕論と為りたるものすくなからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
けれども、見ぬ世の祖々オヤ/\の考へを、今の見方に引き入れて調節すると言ふことは、其が譬ひ、よい事であるにしても、すくなくとも真実ではない。
妣が国へ・常世へ (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
これ等の中には青年少年で将来どれだけ偉大な仕事をやったであろうと思われる人々もすくなくなかったであろうに、惜しい事をしたものである。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
宿縁と申しませうか、このたび縁あつて——仏教では縁といふものに理外の理、宿命的な義理を与へてすくなからぬ重要なものに扱つてゐますね。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「実際、呆れた奴ですなあ。あれも少し気がれているんじゃアありませんか知ら。すくなくもヒステリー患者ですな。」と、市郎も眉をひそめた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すくなくともこの間に少しも功利的の考えを加えて居らぬことです。せめてこのことだけでも貴下にかって貰いたいものです。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ある日みと子夫人から、香奠返こうでんがえしに一冊の貧しい歌集が届いた。納められた中の和歌は数こそすくなかったがどれもみな高次郎氏の遺作ばかりだった。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
坊主ばうず自分じぶんむかつておなことたのを、フト思出おもひだしたのが、ほとんど無意識むいしき挙動ふるまひた。トすくなからず一同いちどうおどろかして、みなだぢ/\とつて退すさる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
当時の仏教は霊験れいげん仏法や儀礼仏法が盛んであったが、然し心の底から生死の問題に就て解脱げだつを求める人もすくなくなかった。
なにしろ早朝のことだったから、目撃した市民も意外にすくない。手懸てがかりを探したが、一向に有力なのが集らない。事件は全く迷宮めいきゅうに入ってしまった。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを又、一々、神経をとがらせて、その都度誰れに頼まれたでもなく、すくなくともハガキ代の自腹を切ってやる馬鹿があるかと、蔑視されもしよう。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
詩家あに無情の動物ならむ、否、其濃情なる事、常人に幾倍する事いちじるし、然るに綢繆ちうびう終りを全うする者すくなきは何故ぞ。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
これは、中野にとっては、急速につくった思いつきの理論ではなく、年来の主張であるだけに、一貫した論理が、すくなからず好感をもって迎えられた。
これで頭の中から薪駄っぽと五五の二十五と、亜剌比亜アラビア数字の幻影を追い出そうと思ったのだ。果して、息を吐いてから気持もすくなからず軽くなった。
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
すくなくとも、それで、私は、私なりに樂しかつた。私は、たゞ邪魔されることだけを怖れてゐた。それは、あまりにも早く來た。朝食堂の扉ブレーク・フアスト・ルーム・ドアが開いた。
人どほりのすくない朝のうちで、街道は曲折のなるべく無いやうについてゐるから、はるか向うから人の来るのが見えてその人にふまでには大分かかる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
県下教育の上に貢献するところすくなからずと書いてあつた。『基金令第八条の趣旨に基き、金牌を授与し、之を表彰す』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その張りたるあぎとと、への字に結べる薄唇うすくちびると、尤異けやけ金縁きんぶち目鏡めがねとは彼が尊大の風にすくなからざる光彩を添ふるやうたがひ無し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その上禅宗では頂相を尊ぶので一種特別な禅宗風な高僧の肖像彫刻が随所にのこっている。面白いものもすくなくない。
本邦肖像彫刻技法の推移 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
すくなくとも(と木之助はあの金持の味噌屋の主人のことを思った)、あの人は胡弓の音がどんなものかを知っている。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もう四五年で七十のこじりを取らうとする年の割には、皺のすくない、キチンと調とゝのつた顔に力んだ筋を見せて、お梶は店の男女や客にまで聞える程の声を出した。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
つまり出来る限りのすくない労力と費用とで、小さな、狭い、しかも豊富な鉱脈に達する深い坑道を作ったのである。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
遺憾ながらこの錯覚から免れている人はすくない。古典や古仏を語る人間の口調をみよ。傲慢ごうまんであるか、感傷的であるか、勿体ぶっているか、わけもなく甘いか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
実は我々の同志者と言はれて居る間にさへ、ほ心術を誤解して居るものがすくなくないので御座いますから——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
来た夜から蝙也の身の廻りの世話を始めたが、口数もすくなく表情も冷やかでいかにもなじみにくい感じだった。
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さういふ打算的な作家が多くなつた。もうあんな小説をかき出したのかと、眼をこする場合もすくなくない。
先生は西洋哲学輸入後日本において初めて独創的な哲学を組織された方であるが、また西洋の哲学で先生の手によって初めて我が国に紹介されたものもすくなくない。
西田先生のことども (新字新仮名) / 三木清(著)
が、うっかりしたことを云おうものなら、気の弱い妻室が恐がって、この家のすくないのに、また家を変ろうなどと云いだされては、第一正月を控えておおいに困るから
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かくて杉田一家の我が国の医学に貢献した事蹟じせきは決してすくなくはなかったと言わなければなりますまい。
杉田玄白 (新字新仮名) / 石原純(著)
中等学校以上に入らざる青年にも、青年学校の進歩等に依り優れたる指揮能力を有する者がすくなくない。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)