子息むすこ)” の例文
こんな本陣の子息むすこが待つとも知らずに、松雲の一行は十曲峠の険しい坂路さかみちを登って来て、予定の時刻よりおくれて峠の茶屋に着いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
するとお前さん、大将が私の前までおいでなすって、お前にゃたった一人の子息むすこじゃったそうだなと、恐入った御挨拶でござえんしょう。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あるいは学問がすきだと云って、親の心も知らないで、書斎へ入って青くなっている子息むすこがある。はたから見れば何の事か分らない。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いいえ、私には……文学などわかりゃしませんから」と荻生さんはどこか町家の子息むすこといったようなふうで笑って頭をかいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
自分の子息むすこや娘には碌な嫁も婿むこも得られないと思つてたんだから、お前などに對しても、腹の中ぢや隨分氣兼ねしておど/\してるんだぜ。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
おれが死んだらば、直にこの手紙を子息むすこのところへもってゆけ、そうすれば、何にも言わなくっても、すっかり分るようになっていると仰しゃって
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
子息むすこの才能の総和が親爺おやぢのそれに匹敵するのはうにか辛抱出来るが、大久保甲東の息子達のやうなのは一寸……。
長の年月としつき、この私が婦人おんなの手一ツで頭から足の爪頭つまさきまでの事を世話アしたから、私はお前さんを御迷惑かは知らないが血を分けた子息むすこ同様に思ッてます。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
だれだって、下女おんなじゃあるまいし、肝心な子息むすこに相談もしずに、さっさとよめを追い出してしまおうた思わないわね。それに旦那様もお年が若いからねエ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
清「そんなれば早くう云えばいに、あとでそんな事を云うだから駄目だ、石原の子息むすこがぐず/\して居て困る事ができたら、わし殴殺ぶっころしても構わねえ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのつぎに、『自分の道楽子息むすこ放蕩ほうとうのやむかやまざるか』をたずねたるに、『やみます』と答えたり。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
持ちたり貴殿おまへは二十歳ばかりの子息むすこあれば今度こんどうまれたりともわたし程には思ふまじと云に井筒屋ゐづつやかうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
漁師の子息むすこの李一は、ある秋の日の暮れに町のある都へ書物を買いに出掛けました。李一は作文と数学の本を包んで本屋を出たのは、日の暮れでもまだ明るい内だったのです。
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「駄賃取りの娘、大学校を卒業した人、三郎さんは大家たいけの可愛がり子息むすこ、自分は小作人の娘」お小夜はただ簡単にそんな事を口の内で繰り返す。そうしてらちもなく悲しくなって涙が出る。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「まアいサ、酒でも飲みましょう」と大友はしゃくを促がして、黙って飲んでいると、隣室にる川村という富豪かねもち子息むすこが、酔った勢いで、散歩に出かけようと誘うので、大友はおしょうを連れ
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
有繋さすが良家の子息むすこだけに気高く美しい所があるように思われた。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
K—は、郷里では名門の子息むすこで、おさない時分、笹村も学校帰りに、その広い邸へ遊びに行ったことなどが、おぼろげに記憶に残っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お誘いするようにッて、松尾の子息むすこがくれぐれも言い置いて行きました。あの人は暮田正香と一緒に、けさ一歩ひとあし先へ立って行きました。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
牧師の子息むすこが新聞記者になつて悪いといふ法はない、牧師の子息むすこは、唯牧師にはならない方がいだけの事である。
子息むすこの死んだ後の家族をまとめて、家を買つて其処そこに其の禿頭の老人が移つて来てから、まだ十年と経たなかつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
其れは潮来一の豪家の子息むすこなにがし、何時かお光を見染め、是非めかけにしたい、就いては支度金として五十円、外に万作夫婦には月々十円と網一具やろうとの話だ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
と云って堀切村ほりきりむらに別荘がございますから、伊兵衞いへえという固い番頭を附けて、伊之助を堀切の別荘に押込めて置きましたが、今まで遊んだ子息むすこさんが押込められて
知らねばうたがはるゝも道理もつともなりいで其譯そのわけは斯々なり宵に御身たちが出行いでゆきし跡へ年の頃廿歳ばかり容顏ようがんうるはしき若者來れりいづれにも九しうへん大盡だいじん子息むすこならずば大家たいけつかはるゝ者なるべし此大雪にみち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
よく方々案内してくれた後取り子息むすこが、とっくに死んでいたり、友達が騒いでいた娘もよそへ片づいて幾人かの母親になっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「岸本さんのようにわざわざ日本から仏蘭西へお出掛下さる方もあり——」と言って老婦人は自分の子息むすこと岸本の顔を見比べて
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
親父おやぢさん躍起になつて運動した結果、やつと許されて割合に仕事の楽な兵站部に働く事になつたが、不思議にも朝夕顔を合はせる上長官は、自分の子息むすこであつた。
流石さすがの親達もつひには呆れ返つてこんな子息むすこの傍には居られぬ、と一年ばかりして、又長野へ出て行つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
娘さんが墓参りに行ったあとへお前の子息むすこが来て、床の中に入ってるとも知らずお前が殺したのじゃ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
子息むすこは茶のの火鉢のところに坐って、老母としよりと茶を呑んでいた。で肩の男の後姿が、上り口の障子の腰硝子から覗くお庄の目についた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある晩、私は遊友達の問屋の子息むすこと喧嘩して、遲くなつて家の方へ歸つて行きました。叱られるなといふことを豫期しながら。
この回数券制度は子息むすこの三輪田元道氏のおもつきらしく元道氏は老人としよりのある家庭へくと
だがねかて子息むすこさんでございますが、此の頃足を近くなかへどん/\と花魁おいらんを買いに往っても、若旦那が惚れて何うのうのと云う方ではない、たゞうかれにきなさるが、ほんの保養で
しかし永年ながねん一人で苦労して来た老人や子供の世話を、東京に行けば、子息むすこと一緒にすることが出来ると思ふと、何となく肩がりるやうな気がした。子息むすこと住むといふことも嬉しかつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ああいう場合をおもってみると、娘に薄くしても総領子息むすこに厚くとは、やはり函館のお爺さんなぞの考えたことであったらしい。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「さっそく金に困ってるんじゃないかと思うがね。相手はブルジョウアの一人子息むすこだけれど、何しろ学生のことだからね。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ダンテはいお客だといふので、わざ/\其家そこの主人と子息むすことの間に坐らせられた。
荻生君というのは、やはりその仲間で、熊谷の郵便局に出ている同じ町の料理店の子息むすこさんである。今度羽生局に勤めることになって、今車で行くというところを郁治は町のかどで会った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
鉄胤かねたねはじめその子息むすこさんの延胤のぶたねとも交わりを結ぶ端緒いとぐちを得たというだけにも満足して、十一屋の二階でいろいろと荷物を片づけにかかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いつだつたか、四五人ある友達のなかでも、殊に気のあつてゐる、或る大問屋の子息むすこの真木政男が始終店へ遊びに来て、帳場で話しこんでゐた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と言つて、別段笑ふにも当るまい、鴉は維新三傑の子息むすこでは無かつたのだから。
父なる人は折しものこぎりや、鎌や、唐瓜たうなすや、糸屑などの無茶苦茶にちらばつて居る縁側に後向に坐つて、頻りに野菜の種を選分えりわけて居るが、自分を見るや、兼ねて子息むすこからうはさに聞いて居つた身の
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
彼の下宿にはヴェルサイユ生れの軍人の子息むすこでソルボンヌの大学へ通っている哲学科の学生と、独逸ドイツ人の青年とが泊っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お今さんも可哀そうですな。お婿さんが欲しいでしょうに、その金満家の子息むすこさんと、一緒にしてあげたらどうです。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「財産ということもありますまいが、子息むすこが荒物屋の店をしておりますから」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
富岡鉄斎の画を持合せてゐる男が鉄斎の画には随分贋造にせが多いと聞いて、鑑定書かんていがきを添へて置いたら、売物に出す時に便利だらうと思つて、子息むすこの謙蔵さんのもとにそれを持ち込んだ事があつた。
率先した横浜貿易があの旧師にたたった上に、磊落らいらくな酒癖から、松尾の子息むすこともよくけんかしたなぞというふるい話も残っていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小金を持っているお千代婆さんは、今一人のわかい方の子息むすこの教育を監督しながら女中一人をおいて、これという仕事もなしに、気楽に暮していた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何方どちらも左程悪い人間と言ふではないが、否、現に今も子息むすこの事を苦にして、村の者に顔を合せるのも恥しいと山の中に隠れて出て来ぬといふやうなむしろ正直な人間ではあるが、さりとて、又
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
その禁酒論者の片山博士の子息むすこに、医学士の国幸くにゆき氏がある。
飲酒家 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
そこでは戦地の方へ行っている若い子息むすこの一人が負傷したとやらで、教授夫婦は見舞のために出掛けて、家婢が心配顔に留守番をしていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)